Vol.85-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「巻き取り式ディスプレイ」。先日、有機ELの本領発揮ともいうべき同機構をシャープが実現した。
有機EL技術を使うことで、テレビはさらに薄く作れるようになる。「巻き取り式のディスプレイ」が登場したのは、有機ELによって薄いディスプレイが作れるようになり、それを「巻き取り」という形で生かしたからだ。
ではそもそも、なぜ巻き取り式のディスプレイは生まれたのだろうか? そこにはどういう意味があるのだろうか?
一番大きいのは「デザインを変更できる」ことだ。テレビと聞いて思い浮かべるデザインは皆、同じようなものだろう。板状でテレビ台のうえに乗っていて……という感じではないだろうか。スピーカーの位置やスタンドの形に違いはあっても、だいたい似たような感じに収斂するに違いない。
だが、リビングのインテリアとして考えたとき、決まり切ったデザインであることはマイナスだ。特に高付加価値型の製品を売るなら、驚きに満ちたデザインが求められる。
そこで出てくるのが「巻き取り式」だ。テレビのアイデンティティであるディスプレイパネル部を隠すことができるため、デザインを大きく変更できる。使い方に合わせて、引き出すディスプレイのサイズを変えることで「変形」させて使うこともできる。LGの製品は、まさにそうした特質を生かしたものだ。
だが、可能性はこれだけに留まらない。
ポスターのように薄いディスプレイならば、壁に貼ってしまうことも可能だ。その際、チューナーやスピーカーなどは外付けにする必要はあるものの、まさに「壁にぴったりと貼り付く」テレビが作れる。
薄いということはそれだけ軽い、ということでもある。シャープの試作型の場合、30V型・4Kで100gしかない。これが液晶テレビであれば、55V型で18~19kgはあるだろう。実際には、これはチューナーやスピーカーを含んだ質量なのでその点を考慮する必要はあるが、それでも、壁にかけるディスプレイ部は相当に軽いものになると想像できる。壁に大きくて丈夫な「壁掛金具」をつけなくても良くなる可能性が高い。
東芝の調べによれば、テレビを「壁掛にしたい」という人は77%もいるという。だが、壁掛金具の設置や工事などが問題になり、実際に壁掛にする人は5%しかいないそうだ。そこで各社は「壁寄せ型」のスタンドを作っているのだが、もし、壁掛に工事が不要になれば、話は変わってくる。どのようなサイズを買うのか、という点についても含め、いままでとはまったく違うテレビ選びが行われるのではないか。
このことは、テレビという製品の意味を大きく変えてしまう可能性が高い。デザイン以外にも、大きな変化が訪れる可能性がある。それがなにかは、次回のウェブ版で解説したい。
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