Vol.87-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「ハイエンドPC」。ゲーミングPCが人気を集めることで、PC市場全体に生じつつある変化とは?
俗に「ハイエンドPC」と呼ばれる機器には、明確に対抗軸が存在する。特にノート型はそうだ。ノート型のハイエンドPCにとって、ライバルは常にアップルの「MacBook Pro」、特にその上位モデルである。現在でいえば、2019年末に登場した16インチモデルがそれにあたる。ハイエンドPCを求める人は、主にクリエイターやプログラマーなど、職業的に高性能なPCを必要としている人だ。そうした人々はMacを好む傾向があり、結果として、ハイエンドで付加価値の高いPCとして、MacBook Proの人気は高かった。ほとんどのハイエンドノートPCは、いかにMacBook Proと差別化し、勝つかという点を意識せざるを得ない。
だが、この5年でその状況には明確な変化が生まれていた。ゲーミングノートPCがヒットしたためだ。
ゲームにはより高性能なGPUが搭載されていることが望ましい。そのためWindows搭載のゲーミングノートPCは、GPU性能が著しく強化されている。3年ほど前から、NVIDIAやAMDもノートPC向けのハイエンドGPUに力を入れており、結果として、最新のハイエンドGPUであっても、早期にノートPCへと搭載される流れができてきた。一方でMacはゲームニーズが弱いため、ゲーミングPCほどのGPUニーズが生まれづらかった。結果として、性能にこだわるならWindowsのゲーミングノートPCを買うほうが良く、MacBook Proを選ぶ理由が薄くなっていた……という事情があった。要は、競争が製品の価値を上げていたのである。
とはいえ、それも2019年11月までのこと。昨年登場した「16インチMacBook Pro」は、過去の15インチモデルに比べGPUが大幅に強化された。そのために冷却用のファンシステムも大幅に設計変更が行われ、Windows機と比較した性能面での不利は小さなものになった。
Macがゲーム分野で弱い、という状況に変化はなく、ゲームを積極的に遊びたい人向けにはWindowsのゲーミングノートPCが有利、という部分に変化はないものの、「性能が低いからMacBook Proを買わない」という選択肢はなくなった。
一方、だからこそ、ハイエンドPCとして、いかにMacBook Proと差別化するか、というポイントの重要性が大きくなっている。拡張性で差別化する機種もあるだろうし、キーボードで差別化する機種もあるだろう。NECパーソナルコンピュータの「LAVIE VEGA」は、AdobeのPhotoshopなどのツールを使いやすくするショートカットキーを搭載し、最上位機種では有機ELの、より美しいディスプレイパネルを採用した。ゲーミングノートPCのなかでも最上位機種では、あえてボディをゲームで喜ばれる黒から白などに変更、有機ELのディスプレイを使って「クリエイター向けモデル」とする流れも生まれている。
ゲーミングPCニーズの高まりにより、ハイエンドPCを作るためのパーツの量産が増え、コスト的にも有利になってきている。そのため、ハイエンドPCのバリエーションは、2020年以降、さらに広くなっていくと考えられる。
では、ハイエンドノートPCの今後はどうなるのか? そこは次回のウェブ版で解説する。
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