月に数回はライブを行ったり定期的に音楽活動をしていますが、最近はGetNavi webでBOSSのヘッドホン型ギターアンプ「WAZA-AIR」に触れたのもあり、とにかく「近年の楽器の進化は凄い!」と感心しています。
一見ヘッドホンに見えるこのアイテムが、正真正銘ギターアンプとは本当に驚くばかりです。WAZA-AIRのような今までにない進化の流れもあれば、プロが現場で使えるレベルの楽器が一般ユーザーの手に届くようになっているトレンドもあります。
では、何故そこまで一般向けの機材が進化しているのか? そしてメーカー側も何故そこまで進化を加速させているのか? 先日行われた、ローランドの発表会で最新の楽器に触れながら考えてみました。
世界初! 革新的な電子和太鼓「TAIKO-1」
まず今回のローランド新製品で大きなトピックだったこちらから。世界初の電子和太鼓「TAIKO-1」です。
TAIKO-1は見た目が斬新なだけではありません。最大のポイントは音色の多彩さ! 神社や祭事などでよく目にする茶色で大きい長胴太鼓、能や長唄で用いられる直径30㎝ほどの紐締め式の締太鼓といった、さまざまな太鼓の音色をこの一台で演奏できます。内蔵された音色はなんと100種類以上! 太鼓の音色だけでなく、「地打ち」(裏打ちとも呼ばれ、太鼓演奏の際に基準となる一定のリズムを打つもの)フレーズや、「鳴り物」…祭りばやしの鉦(カネ)の音のようなやつ…や、さらには「掛け声」の音も内蔵されています。
USB経由でオリジナルの音を取り込めるので、自前の太鼓の音を鳴らすこともできます。メトロノーム内蔵の点も含めて、見た目に反してガチガチのデジタル楽器なのです。ヘッドホンで出力もできるので自宅で自由に練習もできますし、Bluetoothでスマホやタブレットとつないで音源を流しながら練習も可能。いやー、デジタル楽器の標準機能を備えつつ、この尖ったコンセプトは本当に恐れ入ります。
究極まで追求されたリアルな設計
設計もこだわり抜かれているんです、TAIKO-1は。まず重さは、一般的な担ぎ桶胴太鼓と同等の4.5㎏。担いで動くことを前提に作られていますので、実際の太鼓より軽すぎても重すぎてもだめなのです。とは言っても、前述の機能を詰め込んでこの重量に仕上げるのが、いかに至難の業かは想像に難くないでしょう。
メーカーの開発担当者も「一番苦労したのは軽量化の部分」とのこと。軽量化のポイントとなっているのが、独自開発されたヘッド(太鼓の打面)部分です。試作機のヘッド部分はリム(打面外側の枠部分)とメッシュを結合するための縫い目があるのが、分かりますか。
しかし、完成した「TAIKO-1」には鋲や縫い目が一切なく、リムとメッシュが一体化しています。
メッシュ部分は実に自然な叩き心地を実現し、叩いた時の音も実に静かです。自宅練習で近所迷惑になる心配もないでしょう。ヘッドには最新の打点位置検出機能が搭載されており、本物の太鼓と同様に、叩く打面の位置によって音が変化します。強弱に対してもしっかり音色が変化し、たった1つの打面から多彩な音を奏でる和太鼓の醍醐味が見事に再現されています。
TAIKO-1は収納や持ち運びにもとても便利な作り。ここまで分解できるの!? と驚いてしまいました。
ここまで凄い機能性を備えた楽器なのに、こんなにもシンプル。そこも驚きじゃないですか!? 1台を分解して、2つの打面を分けて2人同時に「座奏」することもできます。よく考えたなと感嘆してしまいました。
実際にどんな使い方が出来るか、動画でご覧ください。
これほど実用的だと、バンド演奏にも簡単に取り入れられると思うので、自分のバンドでドラムセットの横に置いておきたくなります。単に曲のアレンジに和太鼓や鳴り物の音を織り交ぜるのも面白いですし、TAIKO-1の打面は叩く撥(バチ)の素材や形状によっても音色が変化するので、ドラムのスティックでドラムと同じように演奏した時に、どんな表現ができるのか…など色々と試しがいがありそうです。
日本では太鼓演奏者が100万人を超えると言われていますが、自分の太鼓を所有していない人が多いそうです。太鼓を叩ける環境、運搬、管理やメンテナンスの難しさなど、様々な理由があるのでしょう。TAIKO-1は、その問題のほとんどを解決して、日本の伝統芸能である和太鼓の可能性を大きく広げてくれる楽器です。
ギタリストならやっぱり気になるギターシンセ…しかしその中身が凄い「SY-1000」
今回の発表会では様々な分野の楽器が紹介されましたが、やはり自分がギタリストということもあり、ギター関連の機材は気になります。その中でも特に気になったのがギターシンセサイザー「SY-1000」です。
SY-1000は、まず高品位でギター、ベースのサウンドが豊富に搭載されているのが特徴。ロックのギターで鳴らされるような、ディストーション…歪んだサウンドはもちろん、アコースティックギターやベースの音、キーボードの音や電子音のようなピコピコした音、レーザー音、波のような効果音まで、ドラム以外の全ての音をギター1本で演奏できるのです。
こちらも百聞は一見…いや一聴ならずなので、BOSSのイメージビデオをご覧ください。
動画の0:33~鳴っているシンセサウンドのギターと、0:47~のアコースティックサウンドを聴き比べると、SY-1000がどういう機材かわかるはず。たったひと踏みで、ここまでギターの音が変えられるって本当にすごいこと。
SY-1000を使うと音色の変化だけでなく、なんならこれでバックトラックだって作れます。SY-1000には16ステップ・シーケンサーという装置が2基搭載されています。16ステップシーケンサーとは、16個の音を並べて好きなフレーズを自分でプログラムできる装置です。自分でプログラムしたフレーズを、ギターを弾きながら好きなタイミングで流せるのです。このステップ・シーケンサーがまたとても優秀で、並べた16個の音それぞれピッチ、音量の調整ができ、各音から音へ移る際にどのような音量変化で移り変わっていくか…という細かなところまで調整できてしまいます。なんて芸の細かいこと!
これが超凄い!ディバイデッド・ピックアップ
さらに、SY-1000の魅力を1段階も2段階も底上げしてくれるアイテムがあります。「ディバイデッド・ピックアップ」というもので、動画の演奏者も装備していますね。
エレキギターの「ピックアップ」という弦の振動を音信号に変換する部位に取り付けます。
ディバイデッド・ピックアップは、ギター、ベースに付いているピックアップに追加して取り付けます。
ディバイデッド・ピックアップ自体は、SY-1000の発売以前からギター、ベースシンセ用としてラインナップされていましたが、SY-1000と組み合わせることによって、その力を最大限に引き出すことができます。通常、ギターのピックアップというのは、6弦の音をまとめて信号変換するもの。しかし、ディバイデッド・ピックアップは1つの弦に対して1つのピックアップが信号変換を行います。
結論を言ってしまうと、SY-1000と組み合わせて各弦ごとにエフェクトを変えられるということなんです。例えば、5弦と6弦はベースの音にして、1弦~4弦はアコースティックギターの音…といった振り分けがワンタッチで実現できます。もうギターが1つの楽団になると言っても過言ではないですよ!
正直、ここに書いただけではまだまだ凄さが伝えきれていません。あと何ページ必要になるかわからないぐらいです。ただ強く感じたのは、TAIKO-1もSY-1000も今までにない演奏スタイルを確立する、新機軸の楽器であること。2つの機材は音楽の楽しみ自体を改変するものだと思います。その可能性は、ひとえに「一台で何役もこなせる」というマルチさに集約されているのも特徴でした。
先進的な2製品をご紹介しましたが、ローランド発表会では「ハイクオリティを手軽に」という方向性を打ち出した機材も多く見受けられました。
●KATANA-Artist MkⅡ
写真で試奏しているギターアンプは、「KATANA」ブランドの最新フラッグシップモデル「KATANA-Artist MkⅡ」。従来のアンプ・サウンドからさらにバリエーションの幅を広げ、合計10種類のサウンドを楽しめるように進化。まさにプロ仕様の一品となっています。
●Acoustic Singer Live LT
同じくBOSSのアコースティックステージアンプ「Acoustic Singer Live LT」も試奏しました。このアコースティックアンプは、ギターとマイクを同時に入出力できるので、一台で手軽に路上ライブなどができます。自分も路上ライブをたまにやるのですが、このアンプなら音域を設定するイコライザー、エフェクトも用意されているため、音が霧散しやすい環境でもしっかりと音を届けられると思いました。これまでこういったアンプを持ち運んで、しっかり音まで作ろうと思えること自体がなかったので、そう思えるほどアンプの手軽さと質のバランスが高いレベルになってきた証拠だと思います。
●VADシリーズ
機材のハイクオリティ化が見えたアイテムは、ギター関連以外にもあります。写真は、パッと見た感じでは、普通のドラムを叩いているように見えますが、それがまさに「凄い」ところ。叩き心地もバスドラを踏んだ感じも、アコースティックドラムそのままなのですが、これ実は「VAD」シリーズという電子ドラムなのです。ローランドの電子ドラムと言えば「V-Drums」が有名です。VADシリーズの正式名称も「V-Drums Acoustic Design」と、V-Drumsの系譜にあるのですが、見た目の通りアコースティックドラムさながらの存在感を持ち、本格的な演奏感を得られる設計になっています。
●V-8HD
楽器以外の機材でも、手軽にハイクオリティ化の傾向はよく見られます。V-8HDはリアルタイムに、8つの異なる映像と音声を取り込みその場で編集できるアイテム。さらに、8つのうち3つの映像を同時に出力して流せます。流れている映像とは別アングルの映像への切り替え、フェードインフェードアウトなどの設定、テロップや静止画、動画の挿入などの編集ができるのです。これ一台あればライブ会場での映像演出などが手軽にできますね!
配信がどんどん盛り上がっている昨今、そういったリアルタイムの映像演出が必要な場面で大活躍しそうです。
●GO:LIVECAST
GO:LIVECASTは、スマホやタブレットに繋いで使って映像スイッチャーやミキサー無しで、まるでテレビ番組を作っているかのような自由度の高い配信ができます。映像を流すだけでなく、ニュースやスポーツ番組風のタイトル動画や著作権フリーのBGM、拍手や笑い声などの効果音を挿入できるのです。スマホなどに保存されている写真なんかも、瞬時に挿入することもできます。
今回見てきた楽器や機材から、「一台で何役もこなせる」マルチさと「手軽なハイクオリティ」という2つの傾向が見られました。TAIKO-1の豊富な音色数や「伏せ」や「座奏」など演奏スタイルへの柔軟な対応、SY-1000の出来ることは言わずもがなですよね。さらに加えるなら2つとも、そんなマルチさを簡単に持ち運べるサイズで実現していることが本当のポイントと言えます。
「手軽なハイクオリティ」とは、つまりプロユースに近いクオリティを一般ユーザーも手の届くレベル、価格で提供することだと思います。KATANA-Artist MkⅡやGO:LIVECASTの利便性、VADシリーズの自宅練習でもハイクオリティを求める方向性…その全てが一般ユーザーの手が届く範囲で、きちんと向上しているのです。
これらの進化の背景には、やはりYouTubeをはじめとした様々なメディアの普及があるでしょう。音楽配信もサブスクが一般的になり、ユーザーが音楽や映像に触れる形が大きく変化しました。それに伴って、作品を発信する選択肢が格段に増えています。
プロとアマチュアの垣根は限りなくなくなり、そしてどんな人にも一様に高いクオリティが求められるようになっています。そのハードルを自宅などの限られた環境で実現したいという要求が、楽器をここまで進化させている要因ではないでしょうか。
しかし個人的には、機材の進化が一気に伸長してあらゆるコンテンツがハイクオリティ化している今だからこそ、今後はプレイヤーが今回紹介したような最新楽器でどう差別化を行うかが、改めて求められると感じています。今回紹介した楽器でまず自分が出来る表現の可能性を広げつつ、その中でどう個性を出していくか考えていきたいですね。
撮影/我妻慶一
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