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2020/12/28 20:00

折りたためるPC「ThinkPad X1 Fold」、その変幻自在の実用性を試す

スマホで新しいトレンドになりつつある折りたたみディスプレイ。ついにモバイルPCの世界にもやってきました。レノボが11月に発売した「ThinkPad X1 Fold」は、Windows 10 PCでフォルダブルディスプレイを採用した世界初の製品です。

↑ThinkPad X1 Foldの価格は税込39万9300円。ただし、Lenovoの直販サイトで購入する場合はEクーポンの適用により32万7426円で購入できる(12月28日時点)

 

持ち運びは大判の本のようにコンパクト。専用キーボードを重ねればモバイルノートPCに早変わり。画面を広げて立てかければ、モニター一体型のパソコンとして使えます。さらにペン対応でタブレットとして手書きもできるという、変幻自在なスタイルが魅力です。

 

緻密に作り込まれたデザイン

ThinkPadは1985年に日本で誕生したモバイルPCブランド。レノボ傘下になった買収された後も、その主力製品は神奈川県のレノボ・大和研究所で開発されています。ThinkPad X1 Foldも大和研究所の開発で、その設計にあたっては「三軸織物」や「箱根寄木細工」といった日本の伝統工芸からのアイデアも取り入れられています。

 

まずは電源を付けずに眺めると、大きな黒い画面そのもの。13.3型でアスペクト比4:3という正方形に近い形状で、小さめのテレビか昔のパソコンのモニターのようにも見えます。

↑13.3型の折りたたみできる有機ELディスプレイを搭載

 

一方、背面は本革製のカバーで覆われています。折りたたむとまるで、高級な装丁の百科事典かのような雰囲気。このカバーは本体を保護すると同時に、キックスタンドの役割も果たします。カバーの一部を外向きにめくって、本体を垂直に近い角度で立てられます。その裏地はThinkPadのテーマカラーでもある、鮮やかな赤色。この配色には江戸っ子の羽織のような「粋」を感じます。

↑外装はレザーケースで被われている

 

↑なじみやすい大振りなモニターのような見た目

 

実は折りたたみディスプレイは、画面そのものよりもヒンジの設計が重要とされています。ThinkPad X1 Foldでは「マルチリンク・トルク・ヒンジ・メカニズム」と呼ぶ、軽量な金属フレームとカーボンファイバーを組み合わせたレノボ独自の独自構造を採用。

 

開くときは少し力で滑らかに開き、狙った角度できっちり止められます。開ききらずに雑誌を開くかのように見開きで止めたり、ノートパソコンのような角度で止めたりと自在です。

↑画面は内側に二つ折りできる

 

【外観をギャラリーでチェックする】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは表示できません。

 

付属の専用キーボード「Bluetooth Mini Foldキーボード」は、板状のキーボードで、X1 Foldの下半分の画面に重ねて使えます。キーボードを挟んだまま閉じることができ、持ち歩くときも邪魔になりません。

↑キーボードを載せるとノートパソコンスタイルに

 

さらにディスプレイはWindows Inkによるペン入力にも対応。専用のペンも付属します。キーボードに留め具があり、システム手帳のようにペンも一体で持ち歩けます。

↑背面の筐体が露出している部分は、開くとレザーケースが伸びて被われる

 

↑ペン入力は写真編集にも使える

 

↑ペンは筆圧検知も対応。折り目部分はわずかにへこんでいるため、本格的なイラストを制作する人は気になるかも知れない

 

 

実践的に使える二刀流スタイル

このThinkPad X1 Foldの肝は、専用キーボード「Bluetooth Mini Foldキーボード」との組み合わせにあります。このキーボードを画面にかぶせると、磁石の力でピタッとくっつきます。画面は表示範囲が自動で縮小し、上半分だけの表示になります。

 

つまり、開いて立てれば13.3型の一体型パソコンとして使えて、折りたたんだ状態でも横長(アスペクト比2:3)の小型ノートパソコンに。この画面の切り替わりはスムーズで実用的です。たとえばカフェでちょっとこみいった作業をしているときに、キーボードを外せばすぐ大画面で使えます。

↑特急列車の小さいテーブルでも展開できた

 

折りたたんだ状態では、膝の上にパソコンを置いて文字を打つ動作が自然とできるサイズ感。カフェのテーブルでは、本体を立てて使うことで、モバイルPCにしては大きく密度の高い画面をフル活用できました。

 

薄型のキーボードとはいっても、定評のあるThinkPadシリーズだけに、ある程度の打鍵感があり文章入力もしっかりとこなせます。ただし、キー配列に余裕がなく、日本語でよく使うカギ括弧や中黒(・)といった記号はFnキーを押す必要があるか、割当がありません。

↑キーボードは横幅狭め。記号キーが削減されている

 

タッチパッドは薄型キーボードですが当たり前のようにマルチタッチも使えます。2本指で画面のスクロールといったスマホでもお馴染みの操作も苦も無く使えます。ただし上下の幅が狭いため、ポインターを画面の端から端までに動かすときは指を何回も上下させることになります。タッチパネルの性能は高いので、マウスカーソルの動作を速めに設定すると良いでしょう。狙った場所に機敏に動かせるようになります。

 

キーボードを外したデスクトップスタイルで使う時は、より本格的なキーボードやマウスと組み合わせれば、さらに効率が上がりそうです。たとえばThinkPad製品なら「ThinkPad トラックポイント・キーボードII」を組み合わせれば、より効率的なタイピングとカーソル操作ができるでしょう。

 

モバイルワークに十分なパフォーマンス

CPUには第10世代(Lakefield)Core i5-L16G7を搭載。モバイルノート製品向けの低電圧版CPUで、処理能力は全体的に低め。ハイスペックなゲーム用途には適しませんが、オフィス作業全般はストレスなくこなせるパフォーマンスを備えています。メモリは8GB LPDDR4X、ストレージは512GB SSDを備えています。外部端子はUSB Type-Cを2基搭載。側面の長辺と短辺に1基ずつ配置されており、どのスタイルでもケーブルを挿しやすいようになっています。充電もType-Cケーブルです。

 

試しに、筆者の日常の作業の中でも負荷が高めな作業をこのパソコンだけでこなしてみました。クラウドストレージのOneDriveで大量にファイルを同期しつつ、Chromeで複数のWebサイトを開きながら、Lightroomで画像編集するといった、通信機能の負荷が高めな作業も含まれていますが、処理が遅いと感じることもなく、サクサクこなしてくれました。

↑フォームチェンジでさまざまなワークスタイルに対応できるのが強み

 

使っていて気になったのは、バッテリーのもちがやや心許ないこと。筆者の利用環境では4時間ほどで電池切れとなりました。1日持ち歩くならモバイルバッテリーも併用した方が良さそうですが、ディスプレイを広げて使う時間も長かった割には健闘したと言えるかもしれません。

 

ThinkPad X1 Foldはあるときはノートパソコンとして、あるときは一体型パソコンとして、あるときはペン対応のタブレットとして、しなやかにスタイルを選びながら効率よく作業をこなせるPCです。折りたたみを開いたり閉じたりする構造や、薄型キーボードの持ち運び、ペン対応に至るまで、使い勝手への細かな配慮が見て取れます。

 

画面の枠が細くなれば、バッテリー持ちが良くなれば、そして価格がもう少しお手頃なら……と要望はいくつかありますが、ThinkPad X1 Foldの実用性については疑いの余地はありません。世界初の折りたたみディスプレイという新しい技術を使いながらも、まるで馴染みのシステム手帳のように機能的なビジネスツールとして仕上げられています。

 

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