Vol.103-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「ミニLED」。新iPad Proの12.9インチモデルで採用されたことで注目を集める同技術を深掘りする。
有機EL並みの明暗比でHDR映像を表現できる
去る4月20日にアップルの新製品が数多く発表された。なかでも注目を集めているのがアップルの新しい「iPad Pro 12.9インチ」だ。本機の最大の特徴は、新たに「ミニLEDを使った液晶ディスプレイ」を採用した点にある。
本機が搭載するミニLEDディスプレイといままでの液晶ディスプレイとの性能的な違いは「映像のコントラストが一気に高まること」ことにある。アップルが公表しているスペックでは「コントラスト比100万対1」。方式的には液晶の一種でありながら、有機ELのコントラストに近づいていることがわかる。ちなみに同じアップル製品で比べると、有機ELを使ったiPhone 12Proは「200万対1」となっている。
コントラストが高まる、というと輝度が一気に高くなって明るくなる……と思われそうだ。確かにiPad Pro 12.9インチでは全体的に輝度も上がっているように感じるが、ディスプレイの最大輝度自体は「600ニト」と従来モデルと変わらない。ただ、局所的にはピーク輝度として「1600ニト」まで出せるようになっているし、映像の暗い部分がより黒に近づくので、明るい部分がこれまで以上に明るくなったように感じる。これはまさにHDRの効果そのものだ。要するに、「HDRの効果が有機ELを搭載したiPhoneと同等以上のものになる」のが、ミニLEDを採用したiPad Pro 12.9インチの特徴、と理解すればよい。
1万個以上の極小LEDを使用する「ミニLED」
では、そのミニLEDを使ったディスプレイとはどんな仕組みなのだろう?実はミニLEDは、読んで字のごとく、非常に小さなLEDをバックライトに採用した液晶ディスプレイ、という意味なのだ。
ハイエンド液晶テレビには「直下型バックライト」を採用したモデルがある。これは、液晶パネルの裏にたくさんのLEDを敷き詰め、明るいところと暗いところでそれぞれの輝度を変えることにより、液晶が苦手とするコントラストを改善する仕組みだ。こう聞くと両方式は何が違うのか疑問に思うかも知れない。ミニLEDも考え方自体は直下型バックライトと同じなのだが、決定的に違う点が1つある。それは「LEDの数」だ。
一般的なテレビ向けの直下型LEDバックライトは多いものでも数千個程度。直下型でない一般的な液晶ならば搭載数はもっと少ない。ちなみに、昨年モデルのiPad Proの場合では「72個」だったという。だが、アップルのミニLEDは「1万個」のLEDを使う。そのぶん1つ1つは輝度が小さいが、数が多いので画面全体での明るさは確保できる……という発想だ。
たくさんのLEDを使う関係から、新iPad Proは若干厚みが増している。だが、コントラストの劇的な向上は、HDR対応の映画を楽しんだり、HDR撮影された映像の編集をしたりするにはプラスだろう。まさに「プロ」向けだ。
だが、疑問も生じてくる。なぜアップルはiPadに有機ELを採用しなかったのだろうか?そして、他メーカーはミニLEDという技術をどう見ているのだろうか?そのあたりは次回以降解説しよう。
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