デジタル
2021/6/30 19:50

【西田宗千佳連載】NTTドコモの「home 5G」は5G普及の戦略商品だ

Vol.104-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「home 5G」。NTTドコモ夏モデルのなかでもひときわ異彩を放つニューフェイスは、何がスゴいのか?

 

NTTドコモ夏モデルの最注目はホームルーター

 

夏までに発売されるスマートフォンはほぼ出揃った感がある。5Gのサービス開始から1年以上が経過し、もはや5Gに対応していることは当たり前となった。結局、スマホの勝負軸は今期も変わらずカメラ機能であり、シャープの「AQUOS R6」のような特化型のハイエンド端末も登場している。

 

一方で、スマホの差別化要因といえるものが減ってきているのは事実だ。そうしたなかで低価格な5G端末が重要な存在となっている点も変わらない。

 

では、今年の携帯電話市場に大きな変化はないのか? そうではないのだ。戦略商品はちゃんと存在している。その1つがNTTドコモの「home 5G」である。「home 5G」は宅内に設置し、5G回線を「家のメイン回線」として使うためのルーターだ。

 

「え? それって携帯電話ではないんじゃない」

 

そのとおりだ。今季の注目すべきトレンドは、スマートフォンといういわゆる「携帯電話」だけでなく、「携帯はしないが、携帯電話回線を使う」機器が戦略商品になっている、ということにあるのだ。

↑NTTドコモ home 5G HR01/価格未定 8月下旬発売

 

専用のおトクなプランを用意したドコモの本気

 

そんな戦略的商品である「home 5G」だが、本機を語るうえでハードウエアのスペックはそこまで重要ではない。真に注目すべきは、NTTドコモが専用の「home 5Gプラン」という料金プランを用意したことだ。本プランは税込4950円で基本的に「使い放題」となっており、さらに、NTTドコモの5Gプラン加入者であれば、スマホの利用料に対して最大毎月1100円の割引がある。とすると、自宅の回線は実質3850円で維持できることになる。これは金銭的にかなりおトクだ。

 

もちろん、この方式の懸念点としては「携帯電話ネットワークで、家庭のネット回線すべてをカバーするのに十分な能力と信頼性を発揮できるのか」というものがある。速度も安定性も、本質的には光回線のほうが有利だ。だが、「家庭の回線をモバイルで代替する」というやり方は、別にいま始まった話ではない。すでに若い世代を見てみると、家に固定回線を引かず、すべての作業をモバイル+テザリングで済ませている層も多いのだ。

 

さらに、NTTドコモは5Gスマホ向けプランの「5Gギガホ プレミア」で、スマホ利用時だけでなく、テザリングでつながったPCなどの通信も含めた「データ量無制限」を採用している。こうしたインフラを使えば、他社に対して競争力のある状態を実現でき、5G回線の利用顧客を増やせる……という目論見なのだろう。

 

従来、「モバイル回線を固定回線代わりに」という売り方はソフトバンクが得意としてきた。4G回線を利用した「Softbank Air」は、こうしたサービスの代表例となっている。だが、ドコモは「home 5G」で、5G端末の普及を促進しつつ、その市場に乗り込んでいこうという戦略なのである。

 

では、ソフトバンクやKDDIなどは、この動きにどう対抗するのだろうか? モバイル回線である5Gの光回線に対する有利・不利とはどこにあるのか?  そのあたりについては次回で解説しよう。

 

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