Vol.109-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、デジタル業界で話題となっているメタバースの位置付けや、メタバースに求められている技術・サービスを解説する。
メタバースには、Facebook改めMetaが本気で取り組んでいる。アップルがAR機器を開発しているのは公然の秘密であるし、マイクロソフトも、もう何年も前から研究を続けている。同社が業務用機器として販売している「HoloLens」は、ARやMRを活用するデバイスとしては、いまだ最高級の完成度である。
「大手がこんなに力を入れているなら、また寡占になってしまうのでは」と思う人もいるだろう。
だが、実際には、取り組んでいる大手もそうは考えていない。
というのは、メタバースはSNSなどとは違い、非常に多様な要素の集合体だからだ。比較するなら、メタバースは「Web」と同じような位置付けのものと考えていい。
Web(World Wide Web)は、情報を公開して人々がそれを活用する、という「ネット利用」の基盤になった。SNSやメール、ゲーム、Webメディアに通販など、多くのサービスがWebという基盤の上に作られていった。
メタバースも同様だ。メタバースでの「コンサート」、メタバースでの「ショッピング」、メタバースでの「会議」など、多数のサービス・ビジネスが存在し得る。それらすべてをひとつの企業が提供することはできないし、利用者側もいろいろなものを使いたいと思うだろう。
その上での「プラットフォーム化」はありうるとしても、サービスの間を相互に移動できる環境が作れないと、「デジタルの中に生活圏が拡大した」形にはならない。
現状の「メタバース的」なサービスは、ゲームやコミュニケーション、会議など、メタバース全体で必要とされる要素のいくつかを切り出して実現しているような部分がある。いまは、それぞれのサービスをどう構築すれば満足度が高まるのか、ということに注力している状況で、全体構想を描き、サービス同士の相互接続を加速する動きは、ようやく見え始めてきたところだ。
相互接続が必要である理由は、多様なサービスの提供が重要であること以上に、メタバースに「他人から自分が見られる」という要素があるからだ。
自分をアバター化して他人とコミュニケーションをとる以上、自分の姿やそれを彩るための衣服・持ち物、場合によっては家なども必要になる。それらをどのサービスでも同じように使えるようにする必要があるし、見た目の好みについては、国や個人によっても考え方が異なるものだ。自分の外見は自分にとって「アイデンティティ」にほかならないので、サービスによって違う……というわけにもいかないし、1社が作ったものでカバーできるはずもない。
そうすると、サービスをまたいで自分のアイデンティティを移動できる=アイデンティティを所有できる技術も必要になってくる。その場合、アバターを装飾する衣服や家財などの売買も必要になり、では、その決済はどういう手段が求められるのか……という議論もしなければならないわけだ。
いまはNFTなど、どこかが集約的に管理するのではない、オープンな仕組みの活用が有望視されているのだが、それにしても、実際にどう使うべきかはまだまだ議論すら深まっていない。
そんなこともあって、メタバースは注目を集めている一方で、本格的に取り組んでいる企業の多くが「いますぐに大きな収益が上がるものではない」とも考えている。議論しつつ、5年・10年先を見据えて開発していくものであり、逆に言えば、「短期で儲かる」ような話をしている人々は、あまり信頼すべきではない。ブーム的な動きが起きるとそういう話が出てくるが、すでにメタバースとNFTでは詐欺的な動きも見えているので、皆さんもご注意いただきたい。
一方、メタバースに必須の技術全体を見ると、すでに「ここは勝ち組になる」ということが見えている企業もある。そして、それはMetaではない。ではどこなのか? それは次回解説していく。
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