デジタル
2021/12/2 11:30

【西田宗千佳連載】いま話題のメタバースは1960年代から概念として存在している

Vol.109-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、デジタル業界で話題となっているメタバースの歴史を振り返る。

 

メタバースに、さまざまな形で注目が集まっている。そう考えると「新しい技術・概念」のように感じるところだが、実際のところそうでもない。

 

電子メールなどが生まれ、コンピューターを介したコミュニケーションが実現した1960年代になると、SFなどの中では「もうひとつの別の世界」として、コンピューターの中の仮想世界が描かれるようになった。それ自体は、フィクションとしては自然な発想と言える。ただ同時に「コンピューター・グラフィックス(CG)」も生まれている。計算によって別の世界を作る発想と、計算によって世の中を再現する発想は同時に生まれ、ゆっくりと進化していく。

 

こんな事情だったので、メタバース的なものには、定期的に注目が集まるようになっている……といった方が正しい。時には「バーチャルリアリティ(VR)」と混同する形で語られるが、ほぼ15年に一度のサイクルである種のブームがやってくる。前回メタバースが注目を集めたのは、2000年代後半に「セカンドライフ」がブームになった頃のこと。ちなみに、セカンドライフはいまも存在する。

 

2012年には「Oculus Rift」が登場し、VRに注目が集まった。

 

VRとメタバースでは似たような要素が注目されるし、実際、FacebookがMetaになるきっかけも、2014年にFacebookがOculusを買収し、VRに対して本格的な投資をスタートしたことから始まっている。

 

VRは「コンピューターを介して行なう体験の度合いを高め、実際の世界のように感じる体験を生み出す技術」といっていい。AR(拡張現実)やMR(複合現実)と呼ばれる概念もあるが、これらは結局VRの技術を応用し、視覚全体をすべて映像に変えるのではなく、シースルー型のディスプレイなどを使って「現実の一部に情報を追加して表示する」ことを選んでいるに過ぎない。本質は同じであり、「仮想と現実の間の透過度・混合率」が違うだけ……という言い方ができる。

 

これに対してメタバースは、コンピューターの力で現実世界を拡張し、新しい生活の場を作るもの、と定義できる。コミュニケーション系サービスが目立つのは、生活の軸として他者とのコミュニケーションが重要であるからにほかならない。VRなどの技術は、そうした生活の場を快適なものにするための要素であり、メタバースを構成する技術のひとつ、と考えていいだろう。

 

冒頭で、電子メールなどが生まれると同時にメタバース的な概念が生まれた、と説明した。実際その通りで、「生活の場の拡張」という観点で見るなら、SNSなどはメタバースの一部要素と言えるし、メタバースを3DのCGだけで作る理由はない。過去のネットワークゲームがそうであったように、「2Dの画面」の向こうに世界や生活感を感じることだってできるのだ。

 

ただ、SNSや2Dの画面でのメタバースには、新しいビジネス開拓の余地がそこまで残されていない。その点、3Dによる空間を使ったビジネスは、まだ展開例が少ないだけに可能性も大きい。VR機器の進化速度が上がっており、現在よりもずっと快適に使えるものが数年以内に定着する可能性も高い。

 

どれも「可能性」ではあるが、それらが花開いた時のビジネス価値も大きい。SNSが巨大プラットフォームとして大きなビジネスになったことを考えれば、企業が先行者利益を確保しにいくのも当然……という風に考えることもできるだろう。

 

ただ、メタバースがSNSのように「大きなプラットフォームで分割支配された世界」になる、と予想している関係者は少ない。なぜそうなるのか? その点は次回解説したい。

 

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