デジタル
2021/11/3 12:00

【西田宗千佳連載】アマゾンの次なる狙いは「家庭用ロボット」市場

Vol.108-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアマゾンが自社開発した自律走行のロボット「Astro」を紹介。

 

↑アマゾンのAstro。搭載しているモニター上でビデオ通話や、アマゾンの監視カメラ付きドアベルのRing代わりに留守番することが可能。アメリカでは招待制での購入申込みを受け付けており、販売価格は999.99ドル(約11万円)となっている。

 

ペットでも掃除でもなく狙うのは家庭内の見守り

9月29日、アマゾンは自社で販売するハードウェアの新製品発表をオンラインで開催した。アマゾン製のハードウェアというと電子書籍端末の「Kindle」やスマートスピーカーの「Echo」、テレビ接続機器の「Fire TV」などが有名。デジタルガジェット・メーカーとしての歴史も、もう10年を超えているのだ。

 

そんななか製品が発表されると、多くの関係者が驚いた。なんとロボットだったからだ。アマゾンの完全な自社開発ロボット「Astro」は、まずは年末以降、アメリカ市場で少数のテスト販売からスタートする。

 

SF映画のような「家庭用ロボット」はまだ実現していない。だが、家庭という市場に向けたロボットというビジネスはすでにありふれた存在とも言える。ソニーの「aibo」に代表されるペットロボットは複数あるし、掃除機ではルンバのような「ロボット掃除機」が一大ジャンルだ。ならば、アマゾンがロボットを作ってもおかしくはない。

 

ただアマゾンが狙ったのはペットでも掃除機でもない。「コミュニケーション」と「見守り」だ。

 

人と共生するために速さと安全性を確保した

Astroは家族の顔を認識し、家の中を動き回る。ビデオで遠隔地にいる親戚や知り合いと会話できるし、家族がいる部屋へと移動して飲み物を届けることもできる。家に誰もいないときには屋内監視カメラ的な働きもする。家の外からスマホを使い、キッチンのコンロが止まっているかどうかをチェックすることもできるのだ。

 

アマゾンはアメリカ市場で、家庭用の監視カメラ事業を積極的に展開している。そうしたカメラ技術とスマートスピーカー、ビデオ通話の技術を組み合わせ、2つの大きなタイヤで動き回るロボット技術とセットにして仕上げたのがAstroである。

 

では、ロボット掃除機にディスプレイなどをつけたようなものなのか、というとそうではないようだ。ポイントは「家族がいる空間で一緒に暮らす」という点だ。

 

人間は意外と素早く動く。人間にぶつからず、邪魔にもならず、しっかりと家の中で「ついていく」には、ロボットの側も相応に素早く動作する必要が出てくる。アマゾン側の説明によれば、そこで必須となる速度は「秒速1m」。時速に直すと3.6kmで、確かにそこそこなスピードと言える。

 

ロボット掃除機はその数分の1のスピードでしか動いておらず、意外と動作が遅い。なぜなら、ロボット掃除機は人がいない部屋で動くのが基本で、しっかり掃除することを考えても「素早く動く」必要はないからだ。

 

速く動くだけならモーターを強くすればいいが、重要なのは「速く動いても安全である」という点を実現することだ。素早く動いても相手とぶつからないように、より高度な外界認識技術と回避アルゴリズムが必要になる。アマゾンは「独自開発によるブレイクスルーはそこにある」と主張している。

 

ただ、Astroのようなロボットが家庭に入るにはいくつもの課題がある。それはどんな点にあるのだろうか? 日本で販売される可能性はあるのだろうか? それらは次回解説していく。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら