Vol.109-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、メタバースに関する勝ち組企業はどこかを推察していく。
筆者はこれまでに、「現時点でのメタバースに関する勝ち組企業はどこか?」という質問を何度か受けてきた。模範的には「初期の成功で最終的な勝ち負けを決めるのは意味がない」という答えになる。これまでの連載で説明してきたように、メタバースは非常に大きな可能性を秘めている一方で、一部サービスでなく全体像が見えて多くの人が活用するようになるまでには、まだ5年・10年という時間がかかる。
一方、過渡期であるメタバース関連ビジネスの中で、確実に多くの人々が依存している企業がある。それは「ゲームエンジン」を作る企業、具体的には、Unity Technologies社とEpic Games社だ。
ゲームエンジンとはその名の通り、ゲームを開発するために必要なCG表示技術などをまとめ、基本的な部分を再開発することを防いで開発効率を上げるためのものだ。
15年くらい前までは、大手ゲームメーカーは自分でその種の技術を開発していた。だが、ゲームの規模拡大に伴い、基礎的な部分の再開発を避ける動きが進んだことや、スマホからPC、複数のゲーム機で同じゲームを提供する企業が増えたことなどから、ゲームエンジンを使ってゲームを作る企業は増え続けている。
さらには、CGやオーディオなど、ゲームの持っている要素は「ゲーム以外」に使えるようになってきた。映画やドラマ、アニメの中のCGを作ったり、商品展示やイベント用のグラフィックス開発に使ったりと、「CGと音を生かした体験を作る」ために、広く産業を支える基盤として活用されている。
VRやAR、そしてその先に存在するメタバース的なアプリケーションの開発では、こうしたゲームエンジンを使うことが多い。VRにしろメタバースにしろ、どのようなものを作るべきなのか、ということが定まっていない部分がある。そのため、プロトタイプを作ってテストし、そこからさらに有用なものをピックアップして大規模なアプリやサービスへと拡大していく……という作り方が必要になる。
だとするならば、基盤の部分をゲームエンジンに任せ、試行錯誤が必要な部分に注力する、というのは非常に理にかなったやり方なのだ。
これは結果的に、「ゴールドラッシュでは誰が一番儲けたのか」という、とんち話に近い。ゴールドラッシュの際には、実際に金を掘っていた人々よりも、つるはしや作業着であるジーンズを売った人々の方が成功した……と言われている。実際の比較としてどうなのか、数字で検証した話は聞いたことがないので、きちんとした話というより「そういう説もある」くらいに捉えておいた方がいいとは思う。
だが、現在の目線で見たとき、「ゴールドラッシュで金を見つけた人々」の名前や企業は今に残らず、当時ジーンズを生み出した「リーバイス」はデニムのトップ企業として生き残っている。
そう考えると、Unity TechnologiesやEpic Gamesのようなゲームエンジン企業が、メタバースにおけるリーバイスになる可能性はある……と考えてもいいだろう。
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