「週刊GetNavi」Vol.34-4
テレビ局は自前で見逃し配信を用意し、動画配信サービスも複数ある。基本的には、それぞれが同じようにテレビ番組の見逃し配信を手掛ける。さらにはそこに、この10月からは「TVer」という、民間放送を横断する形のサービスも登場しようとしている。
ネットでは「勝者がすべてを支配する」と言われる。トップの事業者以外は生き残れない。だから見逃し配信においても、「どこを使えばいいのか」気になる人がいるのだろう。
だが現在、テレビ局はそうしたイメージを捨てつつある。テレビ局の目的は「番組を見てもらい、そこから収益を上げること」だ。コピーされず、どこにどう流したかが管理できる現状では、見られる場所を増やす方がビジネスのチャンスを拡大できる。ほとんどの場合、商品は売る店が多い方が儲かる。そもそも、「無料の地上波」という巨大なお店で、しかもタダで見せているものなのだから、見られる場所を多少限定してもなんの意味もない。
現在は、ネットからの収入はさほど多くない。だが、視聴者が増えると、コンテンツの利用料だけでなく、広告料収入も増える。違法コピーを放置していた時には、YouTubeやニコニコ動画に入っていくだけだった広告費も、自ら提供するようになれば、いくらかは手元に入ってくるようになる。
そもそも、テレビ局にはもう一つ、大きな懸念が存在する。それは「テレビ局の名前も番組の名前も、もう覚えてもらえないのでは」という恐怖感だ。
見たことのないドラマの名前だけを聞いて、それがどのテレビ局で放送されるものか、わかる人はほとんどいない。バラエティでは出演者もモチーフも似てきていて、見たことがあっても放送局名がわからないこともある。
そこでテレビ局のブランドにこだわっても実はない。まずは番組を覚えてもらい、ファンになってもらうところからスタートするしかないのだ。「TVer」はそういう発想に基づき、番組名だけが並ぶ構造になる。テレビ局ごとに列ができた、新聞のテレビ欄のような構造にはならない。
テレビ局同士の競争、というプライドをある程度捨ててでも、テレビ番組を見てもらわねばならない、という認識は、なかなかに刺激的なものだ。そうしないと、20年後・30年後には、テレビを見る人が本当にいなくなってしまう。いまの10代で起きているテレビ離れに手を打ち、「コンテンツが生まれる場所」としてのテレビ放送の価値を維持するには、「放送」というやり方への執着も捨てねばならない時代になりつつある。
- Vol.35-1は「ゲットナビ」11月号(9月24日発売)に掲載予定です。
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