デジタル
2022/4/3 19:30

【西田宗千佳連載】ソニーが戦略商品「LinkBuds」で狙う市場

Vol.113-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはソニーの耳をふさがないイヤホン、LinkBuds。“ながら聴き”の新たなトレンドを狙う同社の開発意図を探る。

↑LinkBudsは、ドライバーユニットには振動板の中心部が開放されているリング型を採用。耳をふさがないので圧迫感が小さく、イヤホンをしていても周囲の音が明瞭に聞こえるのが特徴。ケース併用で最長17.5時間使用可能なスタミナ性能や、音切れしにくい高い接続安定性も好評を得ている。実売価格2万3100円(税込)前後

 

骨伝導とは異なる“ながら聴き”の新機軸

ソニーが2月末に発売した完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds」が売れている。ランキングでも上位に入るほどだ。

 

この商品の特徴は、リング型のサウンドドライバーを使い、真ん中の穴を通ってくる「外の音」と「イヤホンを通して出てくる音」の両方を聴ける、ということだ。音楽を聴いている最中に他人から話しかけられたり、移動中にクルマなどの走行音に注意を払ったり、といった使い方に向く。

 

同様の機能は、マイクを使って外の音を収録して耳に届ける「外音取り込み」として搭載されることが多かったが、LinkBudsはデザイン・構造自体を変え、より自然に周囲の音が入ってくる形状を作ることで、“ながら聴き”前提の製品を作り上げた。

 

LinkBudsは重量も片耳分で約4.1gと軽く、耳の穴に押し込むわけでもないので、長く装着しても負担が小さいのが特徴だ。サイズとしては、ソニーのイヤホンのなかでは過去最小であり最軽量である。

 

コロナ禍のヒット商品に「骨伝導イヤホン」があるが、こちらもLinkBuds同様、耳に負担をかけずに、ながら利用できることが評価された。

 

ただ、骨伝導イヤホンはその特性上、一般的なイヤホンに比べ“音楽を良い音質で聴く”のが難しい。ソニーはこの点を差別化点と考え、独自開発したリング型のサウンドドライバーから音を出す機構を選んだ。この機構で良い音を出す製品を作るには3年の時間を必要とした。

 

多様化する使用形態に対応する戦略的商品

なぜこのような製品を作ったのか?

 

ソニーの個人向けオーディオ事業を統括する中村 裕・事業部長は「よりスマホ志向の製品が必要と考えたため」と話す。

 

イヤホンはすっかりスマホと一緒に使うものになって、市場は拡大し続けているものの、全員が高音質で高価格な製品を買うというわけでもない。ソニーのようなオーディオメーカーとしては、できる限り音質の良いモノを、付加価値をつけて販売したいというのが本音だが、そのなかで「多様化しているニーズにいかに応えられるのか」という点も重要になってきた。

 

すなわち、いままでのように、音楽を聴くときだけイヤホンを着けるだけでなく、もっと日常的にイヤホンを着け続ける人々の層を開拓したい……というのが、ソニーの狙いなのだ。そのなかには、コロナ禍で増えたテレワーク利用もあるだろうが、LINEなどを使って友人と通話し続ける人、ゲームプレイや動画視聴で長くイヤホンを使う人など、多彩なニーズが存在する。

 

“より多くの人がイヤホンを使う時代にどう対応するか”という命題に向けて時間をかけて開発した戦略的商品なのだ。

 

だから、より多くの人にわかるよう、製品に型番ではなく「LinkBuds」という愛称を付けている。こうした部分からは、アップルなど他社への対抗意識も感じられる。

 

イヤホンの市場はいま、具体的にどんな変化に晒されているのだろうか? そのなかで家電メーカーはどう戦えば良いのか? 今後イヤホンに求められる技術はどんなものになるのか? そうした部分は、次回以降でより詳しく解説していく。

 

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