Vol.115-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはAmazonが発売した大画面の「Echo Show 15」。アンビエント・コンピューティングを実現するこの製品を、家族で共用して使ってもらうために、独自の機能を取り入れたことを解説する。
Echo Show 15は、家庭内で家族が「共有して使う」デバイスとして設計されている。家族みんなが同じように使う用途なら特に問題ないのだが、「情報を映し出す」場合、それでは困る。
かといって、使うたびにユーザーを切り替えるのは面倒である。家庭の中で自然にコンピューターを使う「アンビエント・コンピューティング」の概念からも、手動でのユーザー切り替えのような動作はなじまない。
では、Amazonは何をしているのか? それは、「ボイスID」「ビジュアルID」という機能の導入だ。
これらはどういうものかというと、声や顔の特徴から家族を見分けて内部でID管理し、呼びかけた人や機器の目の前にいる人の情報を呼び出す、というものだ。
Echo Show 15にはカメラがついており、それによって顔を「ビジュアルID」で認識し、今何を表示すべきか、ということを切り分けている。スマートスピーカーのEchoだったら、ボイスIDによって家族の誰かを判別し、その人の好みに合った楽曲の再生を行うようになっている。
ポイントは、あくまで「家族をIDで見分けている」のであって、世界中の人から“あなた”を見分けているのではない、ということ。実はこの機能、すべて機器の中だけで動いていて、クラウドで認識しているわけではない。
なぜそうなっているのか? 理由は主に2つある。
ひとつ目は「プライバシー」。家族の誰がどんな選択をしたかは、その人のプライベートな情報だ。それを全部クラウドに依存するのはあまり良くない。
もちろん、楽曲の情報やカレンダーの記録、通販との連携など、クラウドとの組み合わせが必須のものもあるが、「声」「顔」などの情報の場合、不要ならばクラウドを使わない方が望ましい。
これは、AIを使う企業で広まっている考え方のひとつでもある。プライベートなことは「手元の端末の中だけ」で済ませて、クラウドを関与させないことでプライバシーへの懸念を回避しているわけだ。
もうひとつは「即応性」。クラウドにデータを回していると、どうしてもその分反応が遅くなる。人と人との会話のようにスムーズな反応をめざすのであれば、クラウドにアクセスせずに処理する方がいい。
ただ、これらの機能は、何も設定しなくても勝手に働くわけでない、というのが、欠点といえば欠点になる。ちゃんと家庭内の誰かが管理し、機能をオンにして各機器で使えるように設定しておくのが必要だ。難しい話ではないのだが、機能を使っている人の割合は多くはないだろう……と推察している。
スマートホームの課題は、設定などの複雑さにある。アンビエント・コンピューティングを実践したくとも、結局は「どう設定するのか」という課題をクリアーしないとどうしようもない。ここは各社、今も苦慮しているところだ。
そうした設定に何か変化はないのか? その点は、次回解説する。
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