「週刊GetNavi」Vol.47-4
ソニーの「BRAVIA Z9D」(写真)シリーズは、これまでの液晶テレビからは隔絶した「色」を実現している。その背景にあるのは、HDR技術を見越して、いくつもの技術を組み合わせる「トータル設計」である。
HDRの映像信号では、明るい部分と暗い部分の差がより広くなる。それに追随するには、単に「コントラストを上げる」のでは足りない。従来は「同じ幅の中で表現できるコントラストの刻みを細かくした」ような形だったが、HDRをきちんと表現するには、明るい部分はもっと明るく、暗い部分はもっと暗く再現できるようにならないといけない。これは、ステンドグラスのような「シャッター構造」である液晶には苦手なことだ。解決するには、バックライトの制御をより細かくし、「暗いところは暗いまま」「明るいところはより明るく」する必要がある。また、バックライトの色も、より自然にする必要がある。元々LEDバックライトの「白」は、青色のLEDに青・緑といった蛍光体を通して色を変えることで発光させているが、これをより自然な「白」へと近づける必要もある。
そこでソニーは、「Backlight Master Drive(BMD)」という仕組みを作った。これはひとつの技術ではなく、複数の技術の集合体だ。
まずはバックライト制御。テレビの背面に敷き詰められた数百を軽く超える領域(分割数は未公表)に配置されたLEDを、映像の明暗に合わせて分割駆動させる。駆動時には、映像から「明るさの地図」を作る必要があり、その効率的な生成技術も必要だ。バックライトの光が拡散せず、うまく正面に当たるようにしないと、隣の色と混ざるため、バックライトの前にはソニーが独自に開発したレンズが敷き詰められているという。
次に色制御。液晶は、明るい部分と暗い部分で色特性が異なる。同じ「暗い青」を出す場合でも、液晶を閉じて暗くするものと、液晶はあまり閉じずにバックライトを暗くして作ったものとでは、色が異なってくる。そうした液晶の性質を勘案し、液晶の閉じ方とバックライトの光方を変えてやると、色はより適切になる。これをソニーの技術者は「液晶のおいしいところを使い切る」と表現している。言葉でいえば簡単だが、どんな映像信号が入ってきてもそれができるように処理するのは、なかなか難しいことだ。
そして、「HDR信号の処理」。入ってきた映像信号は、バックライトと色の制御のために処理が必須だ。また、HDR「でない」信号が入ってきた時にも、その傾向から「HDR的な色味にするにはどうすべきか」を再現する必要がある。そうした信号処理も必須だ。
それぞれ別の処理であり、なかには力業といった方が適切なものもあるのだが、とにかく、「HDR信号が入ってきた時にはどうすべきか」を考え、トータルに作ったのが、ソニーのZ9Dシリーズ、といえる。
こうした考え方はソニーだけのものではない。アプローチは異なるが、他社も色々と試行錯誤している。そのなかで、先に成果を出したのがソニー、ということである。今後数年、テレビはHDRを軸にした「色の戦い」になる。そのなかにはOLEDテレビの姿もあるだろう。これからテレビを選ぶ場合には、「HDRでの色」を念頭に置いて欲しい。
●Vol.48-1は10月24日(月)発売の「GetNavi」12月号に掲載予定です。