Vol.117-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、世界におけるゲーミングPC市場と、ソニーのゲーミングブランド「INZONE」に注目する。
ゲーミングPCは世界中で販売が広がっている。2021年10月に調査会社IDCが公開した調査結果によると、世界でのゲーミングPCおよびゲーム向けディスプレイの合計出荷台数は、2021年第2四半期に1560万台へと伸びた。これは19.3%増の成長で、IDCは2025年まで成長が続くと予測している。ゲーミングPCの出荷台数が5230万台、ゲーミングディスプレイの出荷台数は2640万台に到達するという。
PCの全世界出荷台数は3億数千万台と言われており、ゲーミングPCはその数%、というところではある。だが、絶対数は十分に大きく単価も高いので、皆ビジネスに乗り出しているわけだ。
ゲーミングPCは、コロナ禍で伸びた市場でもある。ゲーム関連は、ゲーミングPCだけが伸びたわけではなく他の機器もコロナ禍の「巣ごもり需要」で伸びている。だが、PCとしてビジネス向けよりも単価が高いうえに、ディスプレイやヘッドホン、キーボードにマウスと、派生製品が多く、市場としては魅力的である、というのが各社共通の見解だ。
一方、ゲーミングPC自体も含め、一般的なPC向けとは売れる製品が異なる、というのもまた事実であり、イージーに作った商品は意外とヒットしづらい。
例えばキーボードは、いくらでも低価格な製品はあるのだが、反応速度やキーの同時認識など、ゲーム向けにカスタマイズすべき要素を備えていないと売れない。そうしたモノを、eスポーツのプロプレーヤーやYouTuberなど、ゲームファンに訴求力のある層と連携して売っていく、マーケティング上の工夫も必要になる。
そうした部分は海外市場が先行している。日本はPC向けゲーム市場がコロナ禍になって立ち上がってきたところはあるので、海外市場から日本に参入する企業の方が多いし、国内市場向けにやっているところは、海外でのゲーミングPC市場から学んで進めているところがほとんどだ。
ソニーの「INZONE」はゲーミングPC向けとしては後発であるが、販売が「日本だけではない」ところがポイントになる。
ご存知のように、ソニーは世界的なブランドだ。だが、販売している製品は国によってかなり異なる。家電製品全体を見たとき、世界中で同じ製品が売れるジャンルの方が少ない。販売ルートも商品の好みも違う市場に対応するには、「その国で売れる」製品を作る必要がある。
そうした傾向は白物家電で顕著なのだが、ソニーが扱うテレビやスピーカーですら、完全に同じラインナップを売っているわけではない。
例外はスマートフォンやカメラくらいだろうか。
実は、INZONEはその“例外”にあたる。世界中で盛り上がるゲーミングPC市場は、どの国でもニーズが近い。だから、「世界中で売れる良い製品」を作って売ることが大きなビジネスになり得る。ソニーが参入したのは、そうした市場の特質を読んでのことでもあるのだ。
では、ソニーはどこを強みとするのか? その点は次回解説していく。
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