モバイルバッテリーや急速充電器など、充電関連製品のカテゴリーで世界No.1モバイル充電ブランド(ユーロモニターインターナショナル調べ、2020年の小売販売額ベース)の地位を築いているAnker。この7月には「GaNPrime」という新たな技術を発表し、高出力・小型化が進んでいる充電器をさらに高性能化させている。
家電やプロジェクターなど、新たなカテゴリーにも意欲的に進出しているAnkerグループだが、2013年1月の日本進出以来、そのブランド力の基盤となってきたのが、急速充電器やモバイルバッテリーなどの充電関連製品だった。マルチブランド戦略をとる現代の同社にとって、充電器関連製品はどのような存在なのか。そして、今後どうなっていくのか。
技術革新の歴史とこれからの展望について、同社の日本法人であるアンカー・ジャパンで、充電関連製品などの事業戦略本部を統括している芝原 航さんに話を聞いた。
Ankerを草創期から支えてきた技術「PowerIQ」
Ankerグループは、創業以来から現在にいたるまで、充電関連製品を作り続けてきた。いま、同社はモバイルバッテリーや充電器をはじめとするカテゴリーにおいて大手ECプラットホームでシェアNo.1を獲得しているが、その歴史はノートパソコンのバッテリーの販売から始まったという。その後モバイルバッテリーや充電器といったカテゴリーに打って出ていくわけだが、そのときの同社が強みとして打ち出したもののひとつが「PowerIQ」という同社の独自技術だった。
「PowerIQは、接続された機器を即座に認識し、その機器に適した最大スピードでの充電を可能にするAnker独自のテクノロジーです。2014年以降の当社の製品に搭載され、PowerIQ2.0、3.0、そして2022年7月26日にした4.0と、代々進化を続けてきました。リリース当初・2014年の初代PowerIQの最大出力は12Wでしたが、4.0では100Wを超える出力にも対応しています」(芝原さん)
高出力・安全性・小型化にこだわり続ける
Ankerは、充電関連製品の開発において、3つの要素を一貫して重視しているという。それが、「高出力」で、「安全」で、「小さい」というもの。PowerIQは高出力と安全性の両立を叶えるために必要不可欠なものだが、Ankerの製品が人気を集めている秘訣は、それだけではないのだ。
安全性の面でいえば、最新のGaNPrime搭載製品には充電器の温度を毎秒感知し、コントロールする「ActiveShield2.0」という機能が搭載されている。Active Shieldは、今年7月の新テクノロジー発表会でActive Shield2.0にアップグレードされたことが公表され、同社製品の安全性はより高いものになった。
一方で、小型化の面でインパクトをもたらした技術革新が、次世代パワー半導体材料「GaN(窒化ガリウム)」の採用だった。Ankerが、GaNを搭載した製品を初めて発売したのは2018年の5月。それ以降、同社の充電器の高出力化・小型化が一層進むことになった。
「Ankerの歴史において、GaNはPowerIQと並ぶマイルストーンでした。リリースしたときの反響は予想以上に好評で、幅広いお客様に当社を知っていただくきっかけとなりました」(芝原さん)
芝原さんは「GaN搭載製品をリリースしたときは、ガジェット好きのコア層がユーザーの中心になるかなと思っていた」という。しかし、ノートPCやスマホ、タブレットといった高性能デバイスが一般化したいま、高機能で小型な充電関連製品の需要は大きく上がっており、GaN搭載製品は多くのユーザーに受け入れられた。
GaNの技術は、年々さらなる進歩を遂げており、2021年7月には電源ICと回路構造を刷新したGaNⅡ、そして2022年7月26日には、最新の独自技術・GaNPrimeを発表している。GaN Ⅱを搭載したAnker Nano Ⅱシリーズは、国内で50万個の販売を達成しており、筆者もそれを愛用中だ。軽いことはもちろん、リュックの内部ポケットにおさまるので、バッグのなかの整理整頓にも一役買ってくれている。
ユーザーニーズがあるからこそ、Ankerはテクノロジーを開発する
さて、芝原さんによれば、充電関連製品における近年のトレンドは2つあるという。複数のデバイスへの急速充電を1台の充電器から行うための「複数ポートの搭載」、コード不要で給電できる「マグネット対応ワイヤレス充電」だ。
複数ポートの搭載に関しては、GaNPrime搭載製品がそのトレンドを象徴する動きといえる。というのも、GaNPrimeは、複数のポートを搭載した急速充電器に特化した技術なのだ。
たとえば、GaNPrimeを搭載した新製品であるAnker 737 Charger(GaNPrime 120W)は、周囲のコンセントにも干渉しない小型の本体に、3つのUSBポート(USB-C2つとUSB-A1つ)を備え、合計120Wの出力に対応している。ノートPCを充電しながら、タブレットとスマホも同時に急速充電するなどの使い方が可能だ。
Ankerは、マグネット式ワイヤレス充電に対応した製品群をAnker MagGoシリーズとして販売している。芝原さんは「ケーブルなしで充電できるのは、持ち物をコンパクトにしたい日本人の好みに合っています。特に、小さなバッグを持ち歩くことが多い方にとって、バッグの中でかさばってしまうコードが不要になるメリットは大きいと思います」と語る。
同社は、Apple製デバイスに対応する製品を多く世に出している。たとえば、Anker 633 Magnetic Battery(MagGo)。本品は、外出先ではマグネットタイプの非接触モバイルバッテリーとして、自宅ではマグネット式ワイヤレス充電器として使用できる二刀流だ。しかも、製品裏側にはスタンドがあり、充電しながらスマホを操作できる。このようなアイテムは、Apple公式品にはライナップされていない。
「Appleは素晴らしいメーカーです。でも、同社が満たしきれていないユーザーニーズがあることも事実で、我々はそこを補おうとしています。ユーザーからのニーズがあるからこそ、そこに特化してテクノロジーを研究する。Ankerのテクノロジーは、ニーズがあってこそのものなんです。近年、当社は高機能の製品を多数発表していますが、これはノートPCやスマホ、タブレットなどの機器自体のハイスペック化に合わせた動きです。そのぶん金額が安くはないものもありますが、『デスク環境を整えたい』『機器に最適な製品を揃えたい』というお客様のニーズに基づいています。逆に、自分達の自己満足のためのテクノロジー開発や、ユーザーから求められていないほどにオーバースペックな製品開発は行いません」(芝原さん)
スマート家電やスマートプロジェクター、オーディオなど、マルチブランド戦略で事業を多角化している現在のAnkerグループ。手がけるジャンルを広げた同社だが、芝原さんは「いまでも充電関連製品のメーカーとして認知されていることが多い」と語る。
「充電関連製品のカテゴリーで、ユーザーから信頼を得られる製品を開発し続け、充実したカスタマーサポートをあわせて提供できているからこそ、Ankerグループ製品全体に安心感を醸成できているのだと思います。他のジャンルでの成功があるのは、充電関連製品という土台があってこそのものだと認識しています」(芝原さん)
コロナ禍の現在は、充電関連製品の市場にも変化が起きているという。リモートワークが普及したことから、家のデスク環境を整備したいというユーザーが増え、USB急速充電器などの需要が高まっているというのだ。先日発表された、GaNPrimeを搭載した急速充電器の登場は、こういった市場の変化を捉えたものかもしれないと、取材を終えた筆者は思わされた。Ankerは今日も、粛々と、そして着実に、市場のニーズに応える製品を追い求め、開発を進めている。
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