Vol.117-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、ゲーミングPCに再参入したNEC PCの狙いを紐解いていく。
NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)は、今夏より、「LAVIE GX」シリーズでゲーミングPC市場に参入する。
ご存知のとおり、NEC PCはレノボグループの傘下であり、レノボは「Legion」というゲーミングPCブランドを展開中だ。同じグループ内でゲーミングPC事業がバッティングしてしまうわけだが、その辺はそもそも、ビジネスPCでもバッティングしているわけで、特に問題になるわけではない。むしろ、調達などではレノボグループの強みもあるわけで、NEC PCがゲーミングPCを作る素地は十分に整っていたわけだ。
だが、ここで問題がある。NEC PCのブランド認知は、どちらかといえば年齢層が高い。都会の専門店以上に、地方のロードサイドの家電量販店で強みを発揮するタイプのメーカーだ。
そうした属性は、いわゆるゲーミングPCを支持する層とは少し異なっている。普通にゲーミングPCを作っても、すでに国内でブランド価値を形成している各社に対して有利か、というとそうではないだろう。
NEC PCは2019年、社内プロジェクトとして「プロジェクト炎神」が進行中である、と公表した。過去にNECは、PC-8001に始まる8ビット・16ビットPCで1980年代・90年代にゲーム市場の基礎を作った。当時NECの関連会社であったNECホームエレクトロニクスは、ハドソンと組んでゲーム機「PCエンジン」も作っている。それにあやかり、「日本のNECらしいゲーミングPCを商品化しよう」というのがプロジェクト炎神だ、と筆者は理解している。
発売まで3年が必要であったというのは、NEC PC内部で相当いろいろなことがあったのだろう、とは予想できる。このプロジェクトによる「ゲームを指向したPC」開発は複数のラインが進行中で、LAVIE GXはあくまで、最初に製品化されたもの、という扱いであるらしい。
前述のように、NEC PCは既存のゲーミングPC市場とは少し距離のあるブランドだ。だから彼らは、サポートをセットにし、「リビングで安心して使えるゲーミングPC」というゾーンを選んだようである。
やりたいことはわかるが、これはなかなか厳しい道のりだ、というのが筆者の感想だ。
ゲームはやはり個人のものであり、リビングで遊ぶなら家庭用ゲーム機の方がいい。そのアンマッチ感が拭えない。NEC PCの読み通り、ゲーマーでないゲーミングPCニーズを発掘できればおもしろいが、その可能性はあまり高くないように思える。
ただ、これを足掛かりに、企画中のゲーミングPCが出てくるのは間違いない。LAVIE GXは、普通のゲーミングPCにすることもできた製品である。そうしなかったのなら、これから出てくるものも、他社で見たようなゲーミングPCとは違う線を狙っているのかもしれない。
難しいことだが、そうした市場開拓にチャレンジするのは悪いことではない、と筆者は思う。昔はPCゲーマーが、特殊かつ数の少ない市場だと思われていた。だが、どうやらそうではないことが見えてきている。すでに確立している「ゲーマー」層とは違うPCゲーマーを開拓できたら、おもしろいことになるだろう。
過去にNEC PCは、モバイル技術を使った試作機なども公開している。次に攻めるところがどこか、楽しみに待ちたい。
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