Vol.126-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは歴史的なPCである「X68000」の復活。こうしたレトロハードの復活が増えた背景を探る。
近年、1970年代から1990年代前半までのパソコンやゲーム機を復刻する動きが目立つ。最大の理由は、その年代に育った人々が懐に余裕がある年代になってきて、売れる可能性が高いという点だろう。
だが、理由はそれだけでなはない。
大きいのは、安価なSoCでも性能が上がり、エミュレーションによって過去の機器を再現しやすくなったからだ。半導体技術とソフトウェアの進化により、当時であれば高価なハードであっても、いまなら安価に再現が可能になった。簡単に言えば、スマートフォンの普及によってARM系SoCの開発と生産が活性化し、安価でもそれなりに性能があるものが作られるようになったからだ。
次に、ソフトの権利処理についての意識が変わってきたことだ。
15年前だと、1990年代までのゲームやソフトウェアの権利を得るのは大変だった。だが、発売から20年・30年・40年といった時間が経過すると、それを高い価格で売るのも難しくなってくる。過去いくつかの事例を経て、休眠していた過去のゲームを販売する権利を発掘し、比較的安価な価格で販売する方法論が見え始めてきたことで、“ソフトが大量に入ったオールドゲーム機”を出しやすくなってきた。
日本では少なかったものの、海外では“多数のゲームが入ったオールドゲーム機”はいくつか出ている。もちろん著作権を無視したコピーが入っている海賊版は論外だが、正当な権利のもとに「IPを再活用した製品」としてビジネスをする感覚は、海外の方で先に活性化していた。アーケードゲームを再現して家に置く「ARCADE1UP」はその代表格だろう。
そうした流れから、特に日本では、任天堂やセガが過去のゲームを自社で展開するビジネスが広がり、さらに、PCやゲーム機に拡散した……という部分がある。
ただ、そうした形である程度の成功を収めているのは「ゲーム」に限られる。
過去のパソコンを再現したものは、短期的に注目は集めてもなかなか大きなビジネスになりにくい。ほとんどが「ゲーム機」としての展開で終わってしまっている。3月に出荷された「X68000 Z」は、ゲーム機を超えた息の長い展開を狙っているのだが、まだ始まったばかりだ。
また、過去のゲーム機を復活させたものも、ファンの注目は集めるものの、“ファングッズ”“懐かしのアイテム”の域を超えたビジネスにするのが難しいところもある。それはなぜなのか? 次回はその点を解説する。
週刊GetNavi、バックナンバーはこちら