デジタル
2023/5/16 18:00

【西田宗千佳連載】過去のゲームをビジネスにする際、いま抱える課題は何か?

Vol.126-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは歴史的なPCである「X68000」の復活。ゲームビジネスにおける各社の取り組みと現状の課題を洗い出す。

↑「X68000 Z LIMITED EDITION」(4万9500円)。ホビー用PCとして初の16ビットMPU搭載、6万5536色同時発色のグラフィック機能など、当時としては画期的なスペックのマシンが復活。初代と比較してサイズは2分の1以下、質量は10分の1以下とコンパクトだが、細部まで忠実に再現されている。現在販売受付は終了している

 

10年前まで、ゲームビジネスの課題は「商品寿命の短さ」にあった。パッケージで売りきりのビジネスが主力であったので、過去のハードウェア向けのゲームを長く売るのが難しかったからだ。

 

現在は2つの事情により、そこに変化が生まれた。

 

1つは「互換性」。CPUやGPUのアーキテクチャが収斂してきた結果、過去のハードウェア向けのゲームをそのまま販売しやすくなってきた。PCはもちろんだが、ゲーム機も同様だ。ただしこの場合にも、2000年代以前のゲーム機までカバーするのはなかなか難しい。

 

そこで出てくるもう1つの事情が「ダウンロード配信」だ。ダウンロード配信によって、いまとなっては規模の小さくなったゲームを安価に販売したり、過去のゲームを動かすための「エミュレータ」込みでゲームを作り、不具合を修正しつつ販売・配信したりすることも可能になってきた。特に現在のゲーム機向けではこの要素が重要である。

 

ゲームの販売・配信権を得て、最新のプラットフォーム向けに販売するビジネスは増えてきており、それは、ゲームメーカーにとっても、名作で長期的に収益を得るために重要な施策となってきている。レトロハードのような「ハードウェア製品」が存在しうるのも、こうした流れとともにある。

 

X68000 Zの場合には今後の計画として、過去のゲームや一部の新作をSDカードで配布する動きがある。SDカードの場合、長期的保存の点で課題はあるのだが、“古いハードウェアから新しいプラットフォームを作る”試みとして、おもしろいとは思う。

 

一方、すべてのゲームが権利を取得できるわけではなく、配信できるのは一部に過ぎない。キャラクターモノのゲームなどは権利処理が複雑でビジネスになりづらいし、権利を持つところが商品化を望まない場合もある。

 

また、別の課題もある。

 

エミュレータ技術自体は拡散しており、“過去のゲーム機のソフトがとりあえず動く環境”を作るのは難しくはない。その結果、違法にネットで拡散されたゲームの存在を前提にした、「エミュレータを動かすためのゲーム機」が、中国などから出荷されるようにもなってきた。過去には「販売中のゲームの海賊版」が問題となり、そこはネット配信の普及でかなり解決されてきた。しかし、技術的な対応が難しく、コスト的にも割に合わない過去の作品については、間違いなく違法な形ではあるのだが、なかなか改善が進んでいない。

 

本当は、過去に販売されたゲームがみな合法的に「現在の環境でも遊べる」のが望ましい。しかし、現実的にはなかなか難しい。ようやく一部が配信され、遊べるようになってきた。このあたりは、じっくりと進めていくしかないのだろう。

 

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