デジタル
2023/5/1 10:30

【西田宗千佳連載】歴史的PCのX68000復活に注目集まるも、ビジネスとしては多難?

Vol.126-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは歴史的なPCである「X68000」の復活。クラウドファンディングで大きな支援金額を集めた背景には何があるのか。

↑「X68000 Z LIMITED EDITION」(4万9500円)。ホビー用PCとして初の16ビットMPU搭載、6万5536色同時発色のグラフィック機能など、当時としては画期的なスペックのマシンが復活。初代と比較してサイズは2分の1以下、質量は10分の1以下とコンパクトだが、細部まで忠実に再現されている。現在販売受付は終了している

 

期待が支援額に表れたオールドPCの復活

「X68000」というPCをご存知だろうか。1987年にシャープから発売された製品だ。時代が時代なので、WindowsやMS-DOSで動作しているわけではなく、独自のOSを採用した、ホビー向けの色合いが強いパソコンである。

 

その復刻と言えるプロジェクトがスタートしている。手掛けているのは「瑞起」という会社だ。2022年12月にクラウドファンディングがスタートし、2023年4月に入り、クラウドファンディングへの支援者6000名に向けた「X68000 Z・アーリーアクセスキット」が出荷された。クラウドファンディングへの出資額は、累計3 億5400万円以上。目標額の10倍以上に達した。

 

大きな注目を集めた理由は、X68000が“歴史的なPC”だからだ。シェアは大きくなかったのだが、当時のアーケードゲーム機に近い性能を持ち、ソフトも開発しやすかったため、熱心なファンがいた。そこからは、のちのゲーム業界や家電業界、ソフトメーカーなどで活躍するエンジニアや、大学教員などが多数輩出されている。実は筆者も、X68000に育てられたユーザーのひとりだ。

 

あれから35年が経過し、半導体などの技術は劇的に進化した。そのため、別の種類のハードウェア上で動作を再現する「エミュレーション技術」を使った場合であっても、実機と同じレベルの速度を実現することは可能になっている。

 

X68000 Z開発元の「瑞起」という会社は、低価格なプロセッサーを使って組み込み機器を作ることを専門としているメーカー。これまでは、ゲームメーカーなどから“受託”の形で、過去のゲーム機を小型な機器として再現する「ミニゲームハード」を多数開発してきた。セガの「メガドライブミニ」やコナミの「PCエンジン mini」の開発にも携わっている。

 

実はそのノウハウを生かして作られたのがX68000 Z……ということになる。

 

出足は上々だったがビジネスとしては多難

PC用OSがWindowsとMacで寡占される以前、特に1970年代末から80年代末にかけては、いろいろなアーキテクチャの「PC」が生まれた。当時の少年の多くは現在40~60代。当時のパソコンへの憧憬は強く、以前からこの種の「オールド・PC復元」の動きはあった。X68000 Zもそのひとつと言える。

 

他方で、こうした「オールド・PC」「ミニゲームハード」がどれも成功しているのか……というとそんなことはない。むしろ苦戦した製品の方が多い部分はある。

 

こうした製品を作るのは、技術的な部分でも、そうでない部分でもかなり難易度が高い。さらにビジネスが継続するように仕掛けるのは大変なことだ。X68000 Zは上々なスタートを切ることができたが、むしろビジネスとして大変なのはこれからとも言える。

 

では「オールド・PC」や「ミニゲームハード」はどこが難しいのか? これまで市場に出た製品はどうやって問題を解決してきたのか? そして、今後の市場はどうなるのか? それらの点は次回以降で解説していくことにする。

 

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