Vol.128-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはASUSから発売された小型ゲーミングPC「ROG Ally」。ValveのSteam Deckも含めて、小型ゲーミングPCのビジネスモデルを紐解いていく。
ASUSの「ROG Ally」のような小型ゲーミングPCは、現在、新製品の投入が活発に続けられている。もちろん「売れているから」なのだが、そこにはいくつかの背景がある。
ひとつは、開発難易度が下がったこと。PC向けのプロセッサー、特にAMD製の内蔵GPU性能が上がっていることで、ゲーム向けPCを作る場合にも、外付けGPUを前提とした構成をせずに済むようになっている。AMD自体、そうしたニッチ市場にはかなり積極的だ。
ディスプレイ解像度を4K・WQHDと上げていくと厳しくなるが、モバイル機器では2K程度までがほとんどであり、ゲームとのバランスも悪くない。バッテリー動作時間を長くしようとするとまだ難しいが、「自宅の中で数時間プレイ」を満たすなら、そう難しくはない。あとは各社のノウハウの世界だ。
もうひとつは「生産ロット数の少なさ」だ。
製品は品切れになったら再生産されるもの、と我々は思っている。しかし実際には、最初から生産数は決まっていて、少数生産・多品種を矢継ぎ早にリリースして切り替えていく、というやり方もある。
これは予測も踏まえた話ではあるが、ごく少数のモデルを除き、多くの小型ゲーミングPCは、似た設計でプロセッサーやデザインのバリエーションを増やし、小ロットで高速にビジネスを回すやり方を選んでいるのだろう。1ロットで何十万台も生産することはなく、こまめにパーツ調達と生産を繰り返しながらバリエーションを広げ、市場での存在感を高めているのではないか。
ここでいう「少数の例外」とは、ValveのSteam Deckのこと。多く生産して長く売り、そのかわり価格を抑えるという作り方であり、PCというよりハイエンドスマホやゲーム機に近い。AMDから独自のプロセッサー(といってもカスタマイズ品に近い)を調達し、年単位で同じ製品を再生産しつつ売る、というやり方はゲーム機に近く、異例なやり方である。
同じ小型ゲーミングPCでも、ほかの製品は比較的高付加価値狙いで、必ずしも安くはない。特に、Steam Deckとの価格差は大きい。無理に安価にするより「ゲームに必要なスペックをコンパクトにまとめる」ものが多く、一般的なノートPCに比べ、メモリーやストレージの容量が大きめになっているのも特徴だ。別の言い方をすれば「懐に余裕があるゲーマー」向け、とも言える。
もちろん、そんななかでもコストパフォーマンスの良い製品が人気になるのは必然。ROG Allyは発売以降急速に人気が高まり、本記事を執筆している6月末現在、ほぼ品切れの状態にある。AMDの新プロセッサー「Ryzen Z1」を優先的かつ先行搭載したゆえのコスパの良さだが、これは、相当の数量をAMDに対してコミットした結果だと推察できる。
そういう意味では、ほかの小型ゲーミングPCよりはSteam Deckに少しだけ近い存在、という見方もできるだろう。
では、こうした機器は「携帯ゲーム機」市場とはどう違うのだろうか? この点は次回解説する。
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