Vol.140-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。ソニーのテレビは「映像配信が生んだ映画需要」に賭ける姿勢が見えてくる。
今月の注目アイテム
パナソニック
ビエラ Z95Aシリーズ
実売価格36万6300円(55V型)
映像配信の普及により、パナソニックはテレビで使っているOSを、AmazonのFire OSに変更した。同じような「配信による変化」は、もちろん他社にも大きな影響を与えている。
実は今年のソニーの戦略も、映像配信の普及を受けてのものであったりする。ソニーは今年のBRAVIAにおいて、製品自体も大型・高輝度の製品を軸にしている。日本も含めリビング向けのテレビは世界的に大型化傾向が進んでいるのだが、それを受けての選択である。
そこで全世界共通のキャッチフレーズとしたのが「CINEMA IS COMING HOME(映画が家にやってきた)」。読んで字の如く、映画推しだ。発色をはじめとして、映画のクリエイター達が劇場のために作り上げた表現を忠実に再現する機能を搭載した。
配信が普及したことで、高画質な映画を楽しむハードルは著しく下がった。ディスクの売り上げは下がってきており、画質的にも体験的にも、「劇場+配信」という形が映画の基本となりつつある状況だ。
そして、テレビの大型製品で特に見られているのはなにか……と考えたときに、それは「映画である」ということになり、映画むけの機能強化が中心になっている。単に大型のテレビを作るのではなく、機能的にもプロモーション的にも“大型テレビで映画を楽しむには”という軸が徹底されている。
中でもわかりやすいのが、いわゆるフラッグシップモデルを「有機EL」ではなく「ミニLED搭載液晶」としたことだ。一般的な印象として、「もっとも高画質なディスプレイ技術は有機EL」と考えている人が多いのではないだろうか。それは必ずしも間違いではなく、多くのメーカーがフラッグシップを有機ELとしている。
だがソニーは方向性を変えた。有機EL採用の「BRAVIA 8」シリーズは、画質と薄型デザインを求める層に向けたものとし、今年モデル向けの最新技術にはミニLEDを採用して「BRAVIA 9」に搭載した。
実は、今年モデルの「BRAVIA 7」シリーズは、昨年のミニLED採用フラッグシップ機とほぼ同等の性能を持っている。昨年モデルを少しお買い得にしたうえで、さらに新しい技術を、あえて有機ELではなくミニLEDの方に入れた。
BRAVIA 9には、ソニーセミコンダクタと共同開発した新しい「LEDドライバー」が搭載されている。その結果、発色をコントロールできるゾーン数が劇的に増加し、明るさも昨年モデルに比べ50%アップしている。映像編集業務に使うマスターモニター「BVM-HX3110」のノウハウを注ぎ込み、発色もマスターモニターに合わせた。すなわち、「映画制作の環境に近いもの」を目指したわけだ。ソニーが映画制作向けの機器を多数作っており、それらを使う制作現場からのフィードバックを受けやすい環境であるためにできることだ。
こうした変化は、技術だけだと消費者にはわかりづらい。そこで「CINEMA IS COMING HOME」という、「映画に絞る」大胆なプロモーションに打って出た……ということでもある。
では他はどうなっているのだろう? 次回のウェブ版ではREGZAの動きを説明してみたい。
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