鈴木亮平さんが主演を務める映画『花まんま』が現在絶賛上映中。朱川湊人氏による直木賞受賞作の短編小説にオリジナルの要素を加えた本作。関西の下町を舞台に、家族や兄妹の絆を優しい視点で描いている。脚本を読み、その温かさに心を打たれたという鈴木さんはいかに主人公の俊樹と向かい合っていったのか。制作の裏側をたっぷりとうかがった。

【鈴木亮平さん撮り下ろし写真】
妹に少し怯えてる兄のリアルな姿もぜひ楽しんでください(笑)
──主演映画『花まんま』が現在上映中ですが、あらためて最初に出演オファーがあったときの印象をお聞かせください。
鈴木 この作品は朱川湊人さんが書かれた短編小説が元になっているのですが、僕はまず脚本を読ませていただきました。他人の記憶を巡るファンタジー的な要素が入っているとはいえ、今の時代にしては珍しい人情話だなと感じて。人と人との絆もテーマになっていますし、脚本を読みながら、じんわりと心が温かくなったのを覚えています。
──鈴木さんが演じられた俊樹は両親を早くに亡くし、男手一つで妹のフミ子を育ててきた心優しい兄であり、言動にも気持ちの良さがある役でした。
鈴木 人情話によく出てくるような、古風な男気がありながらも、どこか現代的な部分もある人物なんですよね。なので、昭和と平成の間くらいの男性像をイメージして演じていきました。
──“昭和と平成の間の男性像”というのは……?
鈴木 俊樹って人懐っこさがありつつも、決して熱い男ではないと思うんです。彼のお父ちゃんは熱い人で、子どもの頃はそんなお父ちゃんを見て、ちょっと引いてたところもあったぐらいなので(笑)。フミ子の結婚が決まったときも、俊樹は大声で万歳三唱をしますが、それも幼少期にフミ子が生まれて万歳をしていた父親を真似てみただけのことなんですよね。もちろん、それをやってしまうところには、父親譲りの熱さがあるんだと思います。でも一方で、周囲に「結婚と言っても、そこがゴールじゃないんだから」ということを言ってしまう現代的な価値観も持ち合わせている。そういった両面に、昭和と平成の間で育った人間っぽさがあるなと感じたんです。
──なるほど。また、俊樹が大切にしている妹のフミ子役には有村架純さん。意外にも今作が初共演だったそうですね。
鈴木 有村さんとは、“兄妹だけで生きてきた”という2人の歴史が垣間見えるような関係性を一緒に作れたように思います。というのも、兄妹を演じるうえで僕が大事にしたのが、フミ子が通ってきたであろう思春期の過去だったんです。きっと俊樹は昔やんちゃしてたんだろうなっていうのは想像できますが、おそらくフミ子もただ優しいだけの女の子ではなく、「お兄ちゃん、嫌い!」っていう時代があったはずで。
──いわゆる10代の反抗期みたいなものですよね。
鈴木 はい。ちょっと話しかけただけなのになぜか無視されたり、睨まれたり(笑)。そうした時間を俊樹は兄として、ときには親代わりで味わってきたと思うんです。ですから、今でもフミ子に少し怖さを感じているというか(笑)。仲の良い兄妹に見えるけど、でも俊樹の中には“嫌われたくない”“怒られたくない”という感覚がどこかしらに残っている。そこを意識して演じたところ、有村さんもその距離感を見事に汲み取ってくださったんです。
──フミ子から何度も何度も「一生のお願い」をされて、それを最後には聞き入れてしまう俊樹の優しさには、少し怯えも混じっていたわけですね(笑)。
鈴木 まさにそうです(笑)。「お前、何回“一生のお願い”を言うねん!」ってあきれながらも、ちょっとフミ子を気遣ってる。そうした“兄妹感”はすごく大事にしたところですね。
結婚式のスピーチのセリフは俊樹の気持ちになって考えていきました
──今作では現場でアドリブも多かったとうかがいました。
鈴木 よく言われるんですが、そんなにアドリブをたくさん入れた記憶はなくって。思い当たる節があるとすれば、あえてしっかりとセリフを頭に入れていかなかったからというのがあるのではないかと思います。すごくかっこいい言い方をすると、僕は普段から、 “役を生きる”ことを目指しているんです。今回のような作品では一字一句を間違えないようにするよりも、いい意味での曖昧さや余白があったほうが、現場でも自由に役を生きられると思ったんです。そうした自由さがアドリブのように感じられたのかもしれないです。
──そうした“役を生きる”という鈴木さんの思いが結集したのが、フミ子の結婚式での俊樹のスピーチなのではないかと思います。このシーンのセリフは鈴木さん自身が考えられたそうですね。
鈴木 僕だけではなく、監督と脚本家さんの3人ですね。というのも、最初に脚本を拝読したとき、生意気ながら、結婚式のスピーチのセリフだけは少し違和感があったんです。 “俊樹は自分の気持ちをこんな言葉で伝えないんじゃないかな”って。それで監督に、「このセリフはみんなで考えてもいいですか?」とお願いをしたところ、「撮影をしながら俊樹が何を感じ、スピーチでどんなことを伝えたいと思うかを考えてください。それを脚本に落とし込みます」と言ってくださったんです。
──最初の脚本ではどんなところに違和感があったのでしょう?
鈴木 あまりにもストレートすぎる感じがしたんです。そのひとつに、“関西人はこういうスピーチをしないかな……?”というのがありました。素直すぎるといいますか。特に俊樹のような関西人であれば、これまでお世話になった方々を前にしたとき、「アカン、アカン、ちょっと真面目になりすぎましたわ」って笑いを混ぜていくだろうなって。それに、先ほどの“役を生きる”という話に通ずることですが、あのスピーチに関しては脚本のセリフ通りではなく、多少内容が逸れたとしても、監督と脚本家さんと僕が届けたい想いは同じだということを共有できたんです。だからこそ、僕に委ねてくださった部分も多くて。これって俳優をよほど信用していないとできない撮り方ですし、鈴木亮平という役者を信じてくださったことに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

妹の願いを唯一拒んだ場面は僕にとっても大きな課題の一つでした
──また、今作の大きな核となっているのが、フミ子に宿るもう一つの記憶。かつて、事件に巻き込まれて23歳の若さで命を落とした繁田喜代美の記憶が幼少期のフミ子の中に突如として芽生え、俊樹との約束でその事実を封印していたはずだったのに、フミ子がずっと繁田家と連絡を取り合っていたことを俊樹は知ります。
鈴木 僕は自分の登場シーン以外がどのような映像になっているかを知らなかったので、完成した作品を観たときは胸が苦しかったです。俊樹も早くに両親を亡くしているので、家族を失った繁田家の悲しみが痛いほどわかる。それに、幼い頃の俊樹とフミ子が繁田家に初めて訪れた場面はたまらなかったですね。酒向(芳)さん演じる喜代美さんの父親がフミ子を見て、「喜代美やね……」と気づく。あの言葉は親じゃないと言えないなと思いました。
──印象的だったのが、それまでフミ子の「一生のお願い」に文句を言いながらも最後には聞き入れていた俊樹が、繁田家を結婚式に呼びたいというフミ子の願いだけは頑として許しませんでした。
鈴木 実は、僕もあの場面が俊樹という人物を捉えるうえで最初に課題にしたところでした。なぜ俊樹はフミ子に「いいよ」と言ってあげられなかったのか。繁田家に対しても、どうして「今まで妹の成長を見守ってくれて、ありがとうございました」って言えなかったんだろうって。
──フミ子のことを思えば、その選択肢もありますよね。
鈴木 そうなんです。でも、それをしなかったのは、やはり両親のためだと思うんです。自分たちを大事に育ててくれた優しい両親の存在があり、その両親がいなくなったあとは、お父ちゃんとの約束を守って俊樹が両親代わりに妹を見てきた。きっと俊樹の中では、どれだけ年月を重ねてもこの4人が今でも家族で、みんなの心を一つにしてここまで生き抜いてきたんだという思いがある。つまり、俊樹にとってあの家族はある種、聖域だったわけです。なのに、急に妹から「私にとってのもう一つの家族も結婚式に呼んでいい?」って言われたら、「いや、ちょっと待てよ」となりますよね。それだとお父ちゃんとお母ちゃんに申し訳が立たないだろうって。
──そうやって怒りながらも、繁田家を呼ぶことに心が揺れてしまう。そこが俊樹の優しさだなとあらためて感じました。
鈴木 どんな葛藤があり、最後にどのような結論を下したかは、ぜひ映画をご覧いただければと思うのですが、俊樹が答えを出すシーンは大好きでした。両親に問いかけているようでもあり、彼の深層心理を覗いているようでもあって。それがあったうえで、先ほどお話しした結婚式のスピーチにつながっていきます。本当に素敵な展開になっているのでご期待ください!
実の妹に小バカにされ、今はAIを勉強中です
──では最後にGetNavi webにちなみ、最近ご自身のなかでハマっているものがありましたらお聞かせください。
鈴木 今、ちょっとずつAIの勉強をしているんです。妹がその業界で仕事をしていることもあり、「AIのことがわかってないと、マジでこの先、生き残れないよ!?」って馬鹿にされたので(笑)、それが悔しくて、いろいろと教えてもらっています。それに僕だけかもしれませんが、俳優業に集中していると、どうしても世の中の動きや流行りに乗り遅れてしまうんです。なので、社会に追いつかなきゃという意味も込めて勉強中です。でも、実際に触れてみたら、“これはものすごく革新的な技術だ!”と衝撃を受けましたね。世界がそれまでと違って見えるようになりました。
──普段はどのような活用の仕方を?
鈴木 調べものが多いです。例えば、旅行のスケジュールとか。行きたい国と滞在期間、それに最低限やりたいことを決め、一番効率よく周るための移動手段を教えてほしいと入力すると、おすすめのホテルも含め、最適な旅行プランを提案してくれるんです。ただ、当然ながら、AIは僕の好みをすべて理解しているわけじゃないんですよね。だから、どう質問するかもすごく重要で、入力次第で回答が変わってくる。それでもひと昔前には考えられなかったようなことが、今では簡単にできてしまえるのが本当にすごいなと思います。
※こちらは「GetNavi」2025年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
花まんま
現在全国上映中
【映画「花まんま」よりシーン写真】
(STAFF & CAST)
原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫)
監督:前田 哲
脚本:北 敬太
出演:鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ、安藤玉恵、オール阪神、オール巨人、板橋駿谷、田村塁希、小野美音、南 琴奈、馬場園 梓、六角精児、キムラ緑子、酒向 芳
(STORY)
早くに両親を亡くし、「兄として妹を守る」という父との約束を胸に妹のフミ子(有村)を守り続けてきた俊樹(鈴木)。そんな兄妹には秘密があった。フミ子の中には、すでに亡くなった別の女性の記憶があるのだ。やがて、フミ子が結婚を間近に控えたある日、妹がその亡き女性の家族と会っていたことを俊樹は知る。
(C)2025「花まんま」製作委員会
撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/Kaco(ADDICT CASE) スタイリスト/丸山 晃 衣装協力/ジョン スメドレー、ジョンロブ