2021年本屋大賞にノミネートされた深緑野分の人気小説『この本を盗む者は』が待望の劇場アニメーション化。“本嫌いの少女”と“謎の犬耳少女”が手を取り合い、「本の世界」を駆け巡る、謎解き×冒険ファンタジーが繰り広げられる。主人公の深冬を演じる片岡 凜さんと、深冬のバディ・真白を演じる田牧そらさんに、お互い声優初挑戦となった本作のエピソードや、仕事現場に欠かせないものなどを聞いた。

(写真右)田牧そら●たまき・そら…2006年8月2日生まれ。生後半年でモデル活動を開始し、2010年に山崎製パンのCMで芸能界デビュー。『騎士竜戦隊リュウソウジャー』『最高の教師1年後、私は生徒に○された』などに出演し、2023年『カメラ、はじめてもいいですか?』で連続ドラマ初主演。主な出演作に『スカイキャッスル』『I,KILL』など。2025年12月29日放送の「今日もカレーですか?」ではテレ東グルメドラマで主演を務める。公式プロフィール/Instagram
【片岡 凜さん&田牧そらさん撮り下ろし写真】
誰しも持っている感情にフォーカスが当たっている作品
──お二人は『この本を盗む者は』が声優デビュー作となりますが、オファーを受けたときのお気持ちはいかがでしたか。
片岡 びっくりしましたが、以前からアニメの声優というお仕事に興味があったので、とても楽しみでした。
田牧 私ももともと声のお仕事に興味があったので、お話をいただけてうれしかったです。最初に脚本と参考映像をいただいたのですが、一気に物語にのめり込みましたし、映像が本当に綺麗で、「これやりたい!」と思いました。
──初めて脚本を読んだときの印象は?
田牧 主人公の深冬(みふゆ)ちゃんと真白(ましろ)の関係性が強く印象に残りました。深冬ちゃんが本嫌いというところから始まって、本好きの真白が冒険に誘うという物語が新鮮で面白かったですし、ひとつの作品の中に、いろんな物語が組み込まれているのも魅力的でした。
片岡 最初に原作を読んでから、脚本を読ませていただいたのですが、それでもどういう画になるのか想像がつかなくて。「一体どんなアニメになるんだろう」という混乱が最初は大きかったです。ただ作品全体を通して、好きなものに対する気持ちや、トラウマを克服する強さなど、誰しも持っている感情にフォーカスが当たっていて、強いメッセージ性を感じました。
──それぞれ役作りは、どんなことを意識しましたか。
片岡 深冬は一見すると、どこにでもいるような女子高生なので、特別な感じを出すというわけではなくて、常に倦怠感が漂っているような、「めんどくさいなぁ」という雰囲気を意識しました。でも、物語が進むにつれて、次々と予想外の出来事に直面して、人として強くなって、どんどん成長していくので、振り幅を持たせるように、声のイントネーションに気を付けました。深冬の声に関しては、コミカライズ版の絵も参考にさせていただくことが多くて。ここで面倒くさそうな顔をしているから、こういう声なんだろうなとか、普段からそんなに声は高くないだろうなとか、脚本とコミックを照らし合わせながら考えました。
田牧 前半の真白は、あまり感情の起伏がなく、どちらかというと機械的なところがあるのですが、冒険が進むにつれて、どんどん感情が出てきます。いろんな側面を持っているキャラクターなので、どのようにうまく切り替えられるかが課題でした。監督と一緒に、どのタイミングで、どのくらいの変化なのかを調整しながら進めていきました。難しかったですけど、とても楽しかったです。

隣にいてくれるだけで安心感があった
──アフレコはお二人で行われたそうですね。
片岡 この物語は深冬と真白のコンビ感が大事な作品だったので、ずっと二人でのアフレコでした。田牧さんが横にいてくださると、声のトーンが分かった上でお芝居できるので、心強かったです。
田牧 私も片岡さんの存在は心強かったです。最初に一度リハーサルがあったんですが、私があまりにもできなさすぎて、すごく落ち込んで。でも、ずっと一緒に収録をしていたので、隣にいてくれるだけで安心感がありました。
片岡 お互いに初めての挑戦だから、驚くことが一緒で、そこにも安心感がありました。例えばリハーサルのときに、初めて映像を見て声を当てたんですけど、一つひとつの尺が短くて、一緒に「早いですよね……」と驚きながらやっていましたよね(笑)。
田牧 決められた尺の中で、絵には表情もついていて、そういう制約がある中でお芝居するのは難しくもあり、新鮮でもありました。決められた条件のなかで、どれだけ表現できるかというチャレンジは気が引き締まりました。
片岡 絵を見ながら口の動きを合わせるのと同時に、下の秒数も見てやらないといけないので、そこも大きな挑戦でした。
田牧 スタッフの皆さんとも気軽にコミュニケーションを取れる環境にしてくださっていたので、分からない部分や不安な部分は、すぐに聞くことができていたので、それは本当にありがたかったです。
──初めてお互いの役の声を聞いたときは、どう感じましたか。
片岡 真白そのものだなと思いました。原作と脚本を読んで想像していたお声そのままで、話している雰囲気も真白だったので、お芝居に入ったときも全く違和感がなかったです。
田牧 ありがとうございます! 片岡さんも深冬ちゃんそのもので。深冬ちゃんは表情がコロコロ変わるのですが、片岡さんのお芝居を間近で見ると、本当に表情豊かで、「ああ、深冬ちゃんだ!」と思ったのを覚えています。
──アフレコで息を合わせる難しさはなかったですか。
片岡 難しさは全くなかったです。お互いに考えることがたくさんあったので、あまりお話をする余裕もなく集中していましたが、アフレコが始まった瞬間にバディ感があったんですよね。真白が田牧さんだったからこその安心感があったからだと思います。
田牧 私も同じです。隣で片岡さんの呼吸を感じながらアフレコするのが、普段のお芝居の仕方とも似ていて、やりやすかったです。
──二人きりでお芝居するのも貴重な経験だと思いますが、人見知りはしなかったですか。
片岡 全然なかったです。
田牧 私はちょっとだけ人見知りしていました(笑)。最初はとても緊張していたんですが、片岡さんは気軽に話しかけやすい雰囲気をまとっていらっしゃるので、すぐに打ち解けることができました。不安なところがあったときも「ここってこういう感じでいいですかね?」と相談させていただきました。

今まで経験したことのないやり方ばかりで刺激的な時間
──監督の演出で印象的だったことはありますか。
片岡 二人のコンビ感というか、お笑い芸人さんでいう「ボケとツッコミを大事にしてほしい」とおっしゃっていて。真白は天然な感じでボケて、深冬がツッコむのですが、強くツッコめるように意識していました。
田牧 演技指導も二人同時にということが多くて。「セリフを二人で合わせてやってみたら、もっと息が合うよ」と言ってくださったので、一緒に「せーの!」と言ってからやろうとか、手をつないでセリフを言おうとか、壁ドンしようとか。今まで経験したことのないやり方ばかりで楽しかったですし、刺激的な時間でした。
──普段はボケとツッコミ、どちらのタイプですか。
田牧 うーん……私はツッコめない派ですね。
──分かる気がします。
片岡 ちょっと真白っぽくて、ボケ感がありますよね(笑)。
田牧 片岡さんは普段からツッコミがうまそうですよね。
片岡 本当ですか?
田牧 ツッコミが鋭そうな印象です。
片岡 ありがとうございます(笑)。
──共演してみて、お互いの印象はいかがですか。
田牧 片岡さんはクールな印象があったんですけど、収録中に「ああ、楽しい!」とかおっしゃったりするんです。それが本当にかわいらしくて、そんな一面もあるんだという発見がありました。お芝居に関しては、積極的にいろんなスタッフさんにお話を聞きに行かれていて、尊敬できる方だなと思って見ていました。
片岡 田牧さんの前でも、「楽しい」と口にしていました?
田牧 はい!
片岡 実際に楽しかったので素直に口に出たんだと思います(笑)。収録中は、ただただ幸せでしたので、監督にも「楽しいです」と言っていました。田牧さんは、すべてにおいて全力を注がれているという印象が強かったです。収録待ちのときも、よく横でお声を出して練習されているんです。特に印象的だったのが、真白がお風呂に入っているシーンがあって、声にならないような気持ち良さを、アニメっぽい声で表現してほしいという監督の指示があったんです。その時に横でずっと練習されていて、それがかわいくてかわいくて! 実際の声も素敵でした。
田牧 言い慣れない言葉だから、ずっと声に出しておかないと馴染まないなと思ってやっていました(笑)。
──作品の見どころをお聞かせください。
田牧 一つの作品でいろんな世界を見られるのが大きな魅力です。普段、あまり本を読まない方も、本が大好きな方も、物語の世界にどっぷりと浸かって、深冬ちゃんと真白ちゃんと一緒に冒険していただきたいです。
片岡 自分の好きなものに対する純粋な気持ちや、ずっと自分が抱えている不安に打ち勝ちたいという気持ちなど、本好きでも、そうじゃない人でも、共感できる部分が非常に多い作品だなと思います。自分自身と照らし合わせながら作品を見ていただけたらうれしいです。

二人の仕事現場の必需品とは?
──お二人は本を読むのは好きですか?
田牧 大好きです。家族や青春について描かれたヒューマンドラマ系が好きで、作品でいうと、森 絵都さんの『リズム』が印象に残っています。
片岡 私も学生時代から読書が大好きで、何かに集中したいときや、ここじゃない場所に逃げたいときの、いい逃げ道になってくれているのが本です。よく読むのはサスペンスとミステリーで、好きな作家さんは伊坂幸太郎さんです。
──仕事現場で欠かせないものはありますか?
片岡 私が絶対に、仕事現場に持ち歩くのは、炭酸水と手鏡、それとロックミュージックが必須です。私が花だとしたら水じゃなくて炭酸水をあげてほしいくらい、炭酸水が好きで。スパークして、とんでもなく刺激的な花になりたいです(笑)。特にお気に入りは「ウィルキンソン タンサン レモン」です。手鏡に関しては、私は鏡で自分の目を見ながら感情を作っていくタイプなので、実写のお仕事には必須です。そのため『この本を盗む者は』では手鏡は使いませんでした。
──ロックミュージックはどういうアーティストを聴くんですか?
片岡 ガンズ・アンド・ローゼズやエアロスミスなどハードロックが好きですね。
田牧 私はお仕事の現場に干し芋を持っていきます。腹持ちが良いので重宝しています。今回のアフレコでびっくりしたんですが、ページをめくる音やおなかの音まで全部拾うので、常におなかを満たしておかないといけなかったんです。サツマイモ自体が大好きなので、どの現場に行くときも干し芋を持ち歩いています。
片岡 横でずっともぐもぐしていましたよね(笑)。
田牧 こっそり食べていたつもりだったのですが、バレていましたか……。
片岡 ちゃんと見ていました!
──最後に今購入を検討しているものはありますか。
片岡 普段はしないのですが、最近少し時計に欲が出てきました。欲しい時計を絶賛探し中です。
田牧 私はあまり物欲がないのですが、強いて挙げるなら帽子が欲しいです。普段からずっとキャップをかぶっているのですが、毎日かぶっているので、そろそろ新しいものが欲しいです。冬本番で寒くなってきたので、暖かい帽子を狙っています。
──お気に入りのキャップはあるんですか。
田牧 あまりメーカーやチーム名に詳しくないんですが、父が野球をやっていて、よく大リーグのキャップをかぶっているので、かわいいものをもらったりしています。
片岡 レコーディングのときも、いつも帽子をかぶっていらっしゃったんですが、よくお似合いで、素敵でした。
田牧 寝癖を隠そうとしていただけなんですけどね(笑)。

劇場アニメーション
『この本を盗む者は』
2025年12月26日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
(STAFF&CAST)
原作:深緑野分「この本を盗む者は」(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督・コンテ・演出:福岡大生
構成・脚本:中西やすひろ
キャラクターデザイン・作画監督:黒澤桂子
声の出演:片岡 凜 田牧そら
東山奈央 諏訪部順一 伊藤 静 土屋神葉
千葉 繁 鈴木崚汰 上田麗奈 関 智一 高橋李依
大地 葉 小市眞琴 花守ゆみり 上田 瞳 石見舞菜香 福山 潤 / 朴 璐美
(STORY)
書物の街・読長町(よむながまち)に住む高校生の御倉深冬(みくら・みふゆ)。曾祖父が創立した巨大な書庫「御倉館(みくらかん)」を代々管理する一家の娘だが、当の本人は本が好きではなかった。ある日、御倉館の本が盗まれたことで、読長町は突然物語の世界に飲み込まれてしまう。それは本にかけられた呪い “ブック・カース”だった。呪いを解く鍵は、物語の中に……。町を救うため、深冬は不思議な少女・真白(ましろ)とともに本泥棒を捕まえる旅に出る。泥棒の正体は一体誰なのか? そして、深冬も知らない“呪い”と“御倉家”の秘密とは……?
【劇場アニメーション『この本を盗む者は』からシーン写真】
(C)2025 深緑野分/KADOKAWA/「この本を盗む者は」製作委員会
撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/北原 果(KiKi inc.)(片岡さん)、石邑麻由(田牧さん)スタイリスト/高野夏季(HITOME)(片岡さん)、野田さやか(田牧さん)



