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2017/2/17 20:00

内山田洋とクール・ファイブ「この愛に生きて」に重ね合わせて耐え忍ぶ禁断の恋

ギャランティーク和恵の歌謡案内「TOKYO夜ふかし気分」第9夜

みなさんこんばんは。ギャランティーク和恵です。寒い日が続きますね。2月は耐える季節…そう言い聞かせながらワタシは毎年この2月を過ごしております。1月は新しい年を迎えた晴れやかな気分が残ってますし、3月は春の気配を感じて待ちわびる楽しみもあります。しかし2月という月は、ただただ寒さに耐え忍ぶストイックな季節。寒さ以外に何もありません。あるとすれば、まぁバレンタイン・デーくらいでしょうか……。しかしこれも、ワタシにとってはなんの魅力も得もない日です。チョコをくれるくらいだったら、生ハムかサラミ、もしくはもつ煮込みでも買ってきて欲しいわ……。

 

このコラムを読んでくださってるみなさんはきっともう立派な大人の方々ばかりでしょうから、好きな人にチョコレートをあげて告白だの、いくつもらったかを競うだの、恋愛に敏感な思春期に植えつけられた悪しき習慣からは解き放たれているかと思います。あらためて考えてみるとこの「バレンタイン・デー」って行事、人間形成における大事な時期でもある思春期に、「本命」だの「義理」だのという女子の無邪気で一方的な選定にウブで敏感な男子の気持ちは弄ばれてしまい、チョコレートごときで自分がモテるかモテないかという価値観を否応なしに突きつけらる、なんとも過酷で悪しき習慣だと思いませんか? 可愛いウブな男の子たちが、女の子からチョコレートをもらえるかをビクビクしながら今年もバレンタイン・デーを迎えていたかと思うと、オバちゃんは居たたまれません……。

 

ワタシの思春期の話なんか聞きたくもないかもしれませんが、ワタシもその頃にバレンタイン・デーで一喜一憂していたかと言うと、そんなことはありませんでした。ゲイとして過ごしたワタシの思春期は、少しばかりみなさんとは違うところがあります。ワタシたちのようなゲイの場合は、モテるかモテないか、付き合えるかフラれるか、というよりも、まず周りに同じ趣向の人間がいなければ、恋愛相手どころか、そんな自分の趣向を共有する友人さえ見つけられなかったのです。さらには、そんな趣向が誰かにバレてしまったものなら、失恋どころの話ではなく、学校にまともに居れなくなってしまうほど自分の趣向は「タブー」なものだと理解しながら、中学から高校まで6年間、好きな人へ募る想いも湧き上がる性欲も、誰にも気付かれないように全て胸の奥底にしまいこんで過ごしてきました。

 

そんな当時のワタシの“耐え忍ぶ恋心”を支えてくれたのが、今夜ご紹介する曲、内山田洋とクール・ファイブの「この愛に生きて」という歌です。許されぬ愛、人目を忍び、誰にも言えず、後ろ指さされてもこの愛に生きて、そして、こみ上げる涙……。ここまでワタシの当時の心境を言葉に表してくれた歌はほかにはありません。10代にしてはかなり大人びた曲かもしれませんが、当時の周りの友人たちが好んで聴いていた所謂「J-POP」によくある、好きな人が出来て、付き合って、別れて、嬉しい、楽しい、寂しい……というような内容の恋愛ソングにはまったく響かず、ワタシの重く閉ざした恋心を慰めてなんかくれませんでした。「この愛に生きて」に描かれているような、タブーを乗り越えて愛を貫く主人公にこそ、当時のワタシの恋心と重ね合せることが出来たのです。

 

【今夜の歌謡曲】

提供:ソニー・ミュージックダイレクト
提供:ソニー・ミュージックダイレクト

09.「この愛に生きて」/内山田洋とクール・ファイブ

(作詞/阿久 悠 作曲/彩木雅夫)

 

70年代の歌謡曲や演歌には、こういった「耐え忍ぶ恋」「許されぬ愛」というようなストイックな恋愛テーマの歌が多くあります。こういう歌にワタシが惹かれてしまうのは、そんなゲイ特有の思春期を過ごしてきたからかもしれません。ワタシに限らず、愛することに高い垣根や障害があるほうがドラマティックに感じるでしょうし、そういう歌が日本人は好きなのでしょう。ただ、70年代のそういった歌にはまだ暗い影が潜んでいて、いま聴くには重すぎるかもしれませんが、80年代になると、女性が自立してゆく時代性やファッション感覚や当時のサウンドなどが加わることで、そういう類の歌は少しライトになっていきます。例えば、80年代のテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」や「別れの予感」などを聴くと、そのムードが強く感じることができるんじゃないでしょうか。しかしテレサ・テンのあの当時の強気なヘアメイクとファッションを見ていると、どんなに可憐に歌おうとも、打っても倒れないくらいの強靭な自立心のほうが前に出てきちゃってるような気もしてしまいますが……。

 

一方、終始棒立ちで歌う前川 清さんをセンターに男6人がかりで恋心を歌うクール・ファイブ。どちらかというと、クール・ファイブのほうがよりストイックに耐え忍ぶ感じがあり、ワタシの当時の心境にフィットしたんだと思います。この「ストイックさ」が、より一層高い恋愛のハードルをドラマティックに乗り越えるためのテンションとして必要なんですね。さらには、前川 清さんの粘りっこく熱量高めの高低差激しいビブラートが、そのストイックさを見事に表現しているようにも思えます。

 

そんな秘めた想いもいつかは爆発寸前になり、とうとうワタシにもカミングアウトの季節がやってきます。2月の寒い冬を耐え忍んでやっとワタシにも春がやってくる……かと思いきや、そんなバイアスのかかった思春期を過ごしたワタシがその先まともな恋愛が出来るわけがなく、初めての告白も見事玉砕。その後不器用な恋愛を重ね、気づいたらテレサに負けないくらいの強気なヘアメイクで恋の歌を歌う女に成り上がってしまいました。やっぱりワタシみたいな思春期を送るくらいなら、バレンタイン・デーに翻弄されてチョコをいくつもらったかを競いあって過ごせるフツーの思春期のほうがよっぽど、将来幸せな恋愛が出来るのかもしれませんね。

 

<和恵のチェックポイント>

1972年発売のシングル。作曲は、内山田洋とクール・ファイブのヒット曲「長崎は今日も雨だった」でもお馴染み、初期のクール・ファイブの楽曲を多く作っていた彩木雅夫さん。そして、思春期のワタシにグサグサと刺さる言葉を並べてくれたのは、大ヒット作詞家の阿久 悠さん。禁じられた恋系の歌は数あれど、この歌は男歌でありながら、その恋の相手がどんな人なのか、男なのか女なのか、それをはっきりとは描いていないところがポイントです。

 

むしろこれは“男と男の恋愛”を描いているのではないか、とさえ思えてしまうのです。当時のゲイの先輩方は、この歌にきっとシンパシーを感じていたんじゃないでしょうか。だって、「肩を抱いて心かよわせ」って部分は友人関係を思わせるし、「帰るひとを送る苦しさ」という部分に、その好きな相手には家庭があるように思えなくもないでしょ? もしかして阿久 悠さんは、ワタシたちゲイのための恋歌を書いてくれたんじゃないのかなって思ってしまいます。そうじゃなかったら、阿久 悠さん、そして前川 清さん、勝手な妄想しちゃってゴメンナサイ。

 

【インフォメーション】

1969年にデビュー以来、魅惑のコーラス・グループとして活躍した「内山田 洋とクール・ファイブ」の魅力を堪能できるCD-BOXが発売中。「長崎は今日も雨だった」「逢わずに愛して」「恋唄」「そして、神戸」「東京砂漠」といったヒット曲をはじめ、ギャランティーク和恵さんが紹介した「この愛に生きて」など、全101曲を収録(初CD化60曲)。いまも日本中で歌い継がれ、愛され続けている不滅の名曲の数々をじっくり楽しめます。

BOXdesign2

ザ・歌謡コーラス/内山田 洋 と クール・ファイブ
1万円(税抜)
CD5枚組/収納ボックス、ブックレット(歌詞付き)

 

ギャランティーク和恵さんが昭和歌謡の名曲をカバーする企画「ANTHOLOGY」の第4集「ANTHOLOGY #4」が、2017年2月1日(水)に配信&CDでリリースされました。詳しくはANTHOLOGY特設ページをご覧ください。

20161231-i01(3)

「ANTHOLOGY #4」

2017年2月1日(水)発売
配信:600円(税込)日本コロムビアより
CD:1000円(税込)モアモアラヴより
iTunes store、amazon、他インターネットショップにて

 

<曲目>
01. マイ・ジュエリー・ラブ(作詞:篠塚満由美 作曲:馬飼野康二)
02. 孔雀の羽根(作詞:千家和也 作曲:筒美京平)
03. エレガンス(作詞:橋本 淳 作曲:三枝成章)