エンタメ
音楽
2018/1/11 22:30

8K時代にまさかのVHS画質でリリース?! サニーデイ・サービスのライブDVD「夏のいけにえ」が感動的

昨年は3回かな、サニーデイ・サービスのライブを見る機会があった。晩夏の日比谷。初秋は、ポラリスとのツーマン。そして年末のワンマン。3回見たけど、3回ともまるで違っていて、それぞれに震えた。どれも素晴らしかったのだけど、どれかひとつ選ぶのだとしたら、19年ぶりの日比谷野外大音楽堂での公演だろう。

 

4枚目の再現ライブとなったリキッドルームもマイ・フェイバリットアルバムの再現なんだから、問答無用に1000%最高だったんだけど、やっぱりツーマンなんで、短かったのが惜しまれる。短いからこその再現ライブだし、ポラリスも素晴らしかったけど。

 

一方で、年末のライブは新作中心。「Popcorn Ballads」の曲は、ライブで見るとこれがまた信じられないほど表情を変える楽曲ばかりで、ものすごく良かった。また、曽我部さんが「柄にもないけど」と照れながら紹介してくれたラストのクリスマスソング「Rose for Sally」は、どこまでも甘くドリーミー(これをライブで聴けただけでも昇天)。もう恵比寿あたりには幸せしか充満してなくて、こちらも満足度1000%だったのだけど、遅刻してしまい最初の2曲を聴き逃したのが悔やまれる(自分のせい)。ああ年の瀬だったんだね。

 

ということで、全部最高だった。でもやっぱり、気合満点で観た日比谷の素晴らしさったらなかった。その徐々に暮れ行く情景の素晴らしさも相まって、僕にとってはベストアクトだ。会場では知ってる人5、6人(元部下とか、クライアント様とか、元ベストギア編集長とか)に偶然会って、みんながみんな一様に大笑顔だったのも印象深い。それほど8月27日の日比谷野外大音楽堂の空気はハッピーだった。

 

ライブが始まるのが惜しかったし、終わるのはもっともっと惜しかった。その惜しさにすがるように、週刊誌「パーゴルフ」のサニーデイ・サービスファンの人(ex tokyo-mirai)と居酒屋に行って、新橋でスナックを探して、最終的にはラーメンを食べて、終電を逃した。酒を飲みながら、この日のベストチューンを執拗に語り合った。パーゴルフの人は基本的にしつこいんだけど、そのしつこさまでもこの日は心地よく、ベストチューンを5分毎に変えて、あれもよかったこれもよかったと延々と語り合って、最後には「サニーデイ・サービス 名曲イントロ・ドン」を、ふたりで口(くち)メロでやった。そんな多幸感が、とめどもなく空から降り注ぐ新橋の夜だった。

 

その日比谷の公演がパッケージングされたDVD「夏のいけにえ」が、17年末、ついにリリース。正直、見て驚いてしまった。画質がVHSなのだ。90年代、洋楽少年だった僕は、なかなか見ることのできない外タレのライブ映像を求めて、西新宿でブートレグVHSを買っては何度も何度も再生していた。何度ダビングされたのか、どんな機材で撮られたのかもわからないその怪しげなVHSは、なぜか僕を強烈に引き付けた。そんなノスタルジックな気持ちが僕を刺激した。

↑田中貴兄貴。画質はVHS的な感じだけど、演奏の熱気はなぜだかダイレクトに伝わってくる
↑田中貴兄貴。画質はVHS的な感じだけど、演奏の熱気はなぜだかダイレクトに伝わってくる

 

19年ぶりの日比谷だから、19年前の世界観を再現したのかもしれない粗い画質は、どうしてだろう、とても心地よかった。4Kとか8Kとか、「精細なほど感動が高まる」というのはもちろん本当だろう。でも、それが全部じゃないってことを教えてくれた。カメラワークもなんだかキュートで、「96粒の涙」の冒頭の震える感じなんて、とてもリアルな感じで愛らしい。

 

録音もまた大変に生々しく(音質自体はとてもよい)、オーディエンスのおしゃべりも、リンリンと鳴く虫の歌も気の利いた味付けだ。現地でも魂が震えるほど感動したけど、このDVDも同じくらい、ひょっとしたらそれ以上の感動を届けてくれるのだ。「海へ出た夏の旅」から「セツナ」、そして「白い恋人」の流れとかもうドラマチックすぎて、ちょっとだけ泣いた。

↑ラストの「One Day」は、再結成後の代表曲のひとつ。すっかり陽も落ちて、ますますロマンチックに!
↑ラストの「One Day」は、再結成後の代表曲のひとつ。すっかり陽も落ちて、ますますロマンチックに!

 

ベースの田中貴さんは、本ウェブサイトでもおなじみのラーメン兄貴である。ラーメンを語っている瞬間もとても凛々しいし、生き生きしている御仁だが、やっぱり日本が誇る名バンド、サニーデイ・サービスでベースを弾いている瞬間がカッコいい。前者のときは博多華丸寄りに感じるが、後者のときは福山雅治に近い。いやいや、そんなことない。やっぱり田中貴として、カッコいいのだ。

 

サマーライブらしく夏の歌が過半数。19年前の日比谷のころにリリースされた「24時」からの曲がやや多め。後日、再現ライブをやることになる4枚目からは選曲なし。最新作「Popcorn Ballads」からは、誰もが名曲と感じる「花火」だけ。そういうちょっとしたファクターはあったけど、基本、ある意味オールタイムベストなセットリストで、どの瞬間を切り取っても、心を奪われっぱなしの2時間半だった。曲はどれも端正でキラキラと美しい。だけど一方で妙にドラッギーでいやらしさも感じてしまう。そんな素晴らしすぎるライブの一部始終が2700円で楽しめてしまうなんて、価格破壊も甚だしいよ実際。

↑選曲の幅広さ、バランスの良さに感動。まずは序盤の「MUGEN」連発に溺れよう
↑選曲の幅広さ、バランスの良さに感動。まずは序盤の「MUGEN」連発に溺れよう

 

ぜひみなさん買ってみてください。

 

ライブも後半戦。「週末」が終わって、「サマー・ソルジャー」のイントロがなり響く。このわずかな間に、ひとりのお客さんが笑いながら言った。

 

「最高だね」。

 

本当にそう思う。

 

最高だよね。

 

【トラックリスト】

1 今日を生きよう
2 あじさい
3 八月の息子
4 江ノ島
5 スロウライダー
6 経験
7 さよなら!街の恋人たち
8 恋におちたら
9 苺畑でつかまえて
10 96粒の涙
11 海へ出た夏の旅〜それから
12 セツナ
13 白い恋人
14 シルバー・スター
15 花火
16 時計をとめて夜待てば
17 24時のブルース
18 週末
19 サマー・ソルジャー
20 海岸行き
21 忘れてしまおう
22 夜のメロディ
23 青春狂走曲
24 胸いっぱい
25 One Day

 

20180111_wadafumiko_004
SUNNY DAY SERVICE「日比谷 夏のいけにえ」
2700円
販売元: ROSE RECORDS
発売中

 

20180111_wadafumiko_005

サニーデイ・サービス

曽我部恵一(vo,g)、田中貴(b)、丸山晴茂(dr)からなるロックバンド。1995年「若者たち」でアルバムデビュー。以来、“街”という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディで鮮やかに描きだしてきた。その唯一無二の存在感で多くのリスナーを魅了し、90年代を代表するバンドのひとつとして、今なお、リスナーのみならず多くのミュージシャンにも影響を与えている。7枚のアルバムと14枚のシングルを世に送り出し、2000年に惜しまれつつも解散。
2008年7月、奇跡の再結成を遂げ、以来、RISING SUN ROCK FESTIVAL、FUJI ROCK FESTIVALに出演するなど、ライブを中心に活動を再開。そして2008年に再結成を果たして以降、アルバム「本日は晴天なり」「Sunny」をリリース。かつてのようにマイペースながらも精力的な活動を展開している。2016年8月3日に通算10枚目のアルバム「DANCE TO YOU」を発売。2017年6月にはニューアルバム「Popcorn Ballads」を配信限定でリリースし、Apple Music J-POPチャート第1位を獲得。12月25日にはCDとアナログ盤をリリースした。さらに同日、昨夏行われた日比谷野外大音楽堂公演の模様を収めたライブDVD「サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ」を発売。