例年より早く梅雨が明け、すでに夏の陣よろしくな熱風が激しく吹き込んでおり、夏好きとしては嬉しいやらちょっと悩ましいやら。夏といえば恒例の野外フェスがたくさん控えているのが楽しみでもありますが、それ以上にキラキラと輝く青い海や白い波が恋しくなってきてしまいます。
今回は、数ある海モチーフの中から、直球で「湘南」の舞台を描いた楽曲を懐メロ目線でセレクトしてみました。とりわけ、80年代は湘南=トレンディな場所というイメージがあったようで、湘南ソングは80年代に量産されていた記憶があります。茅ヶ崎、国道134、江ノ島、江ノ電などなど、いましっかりと聴き込むと、遠い夏の甘酸っぱい記憶の象徴の場所にも映ります。
ちょっと強引な解釈で選ばせてもらっているものもありますが、広義の湘南にまつわる題材を取り上げた楽曲10選です。ジャンルやテイストがビックリするぐらいバラバラなので、選曲の流れに苦心したあげく、新しい年代の音楽から過去にさかのぼるというズルイ形の構成を取らせていただきました。
「Spotify(スポティファイ)」アプリをダウンロードすれば、有料会員でなくても試聴ができますので、夏の湘南や海に思いを馳せながら、そして湘南のドライブ時に直球で活用していただければうれしいです。
※画面をタップすると試聴できます
【Spotifyで聴ける】湘南ソング10曲
01.茅ヶ崎メモリー/ギャランティーク和恵
(2016年7月20日リリース)
アニメソングの女王と呼ばれる堀江美都子が、ブラス・ロックバンドのスペクトラムのリーダー、新田一郎のプロデュースにより新路線を打ち出したアルバ「Ready MADONNA」(1983年発売)。本作でひときわ輝いていた湘南ソングが、数年前から和モノ系DJ諸氏の間で夜毎スピン。この隠れた名曲をGetNavi webでもお馴染み、歌謡曲のマエストロことギャランティーク和恵がグルーヴィーにカバー。寄せては返す白い波に2人の心情を重ねあわせた妙なる歌世界。しなやかなリズムセクションと弾むベース、軽やかに駆けていくキーボードの饒舌な音色。そして心が沸き立つギャランティーク和恵のヴォーカルと、すべての要素が見事に音へと昇華された傑作。まさに国道134号線(横須賀市〜大磯町間)をドライブする際のサウンドトラック。ミニアルバム「ANTHOLOGY#2」に収録。
02.鎌倉/土岐麻子
(2010年5月26日リリース)
80年代のシティ・ポップを現代にアップデートさせた音楽性で人気のシンガーソングライターが、2010年に発表した鎌倉ソング。「滑川 行き過ぎて サーフボードに伸びる影」と、由比ヶ浜と材木座海岸の間を抜けて海に注ぐ鎌倉市の代表的な「滑川」が描かれているので、広義の湘南ソングとしてチョイス。都会に住む主人公が、故郷である鎌倉の季節の移り変わりを想う、もしくは鎌倉の家族や懐かしいあの人を振り返る。「鎌倉はどうですか?」と。でも「私は相変わらずです」と。音の感触はシティ・ポップ夜明け前。例えば初期荒井由美やはっぴいえんどを重ねる枯れたアレンジが、「風街鎌倉編」とでもいうべきサウダージな世界観を描いている。作曲は森山直太朗、編曲は高田漣という布陣も納得。アルバム「乱反射ガール」に収録。
03.湘南ドリーミング/村田和人
(1990年7月25日リリース)
山下達郎に才能を見出されて、バックコーラスでツアーに参加。その後、彼のプロデュースで82年にソロデビュー。夏をテーマに湘南界隈の情景を歌った楽曲が多いことでも知られている氏が、久しぶりに夏路線へと回帰。過去と未来の湘南ドリーミングを歌い上げる。かつての湘南ドリーミングは過ぎ去った夏の日々、これからの湘南ドリーミングは新しい夏の微笑みとの出会いへの期待。永遠の少年のような爽やかな歌声にあらためて魅せられてしまう。ヴォーカリストとしての資質が高い評価を得たアルバム「空を泳ぐ日」に収録。2016年に急逝。この年の山下達郎のツアー「PERFORMANCE 2016」のラストで、村田の初期のヒットシングル「1本の音楽」を追悼弾き語りをしたことは記憶に新しい。
04.湘南ハートブレイク/荻野目洋子
(1989年6月7日リリース)
バブリーダンスを象徴する「ダンシング・ヒーロー」の再評価で復活した荻野目ちゃんの18枚目のシングル。本作は日本人好みの「泣き」のメロディが全編にわたって爆発した歌謡ユーロビート路線(?)の決定版。舞台は国道134であろうか。雨降る湘南を走る車中での、雲行きの怪しい2人の別れ話の駆け引き、そして失恋模様。お互いの心が離れたときのあるあるな描写がとっても秀逸です。作詞は数々の大ヒット曲を手がけた売野雅勇。この楽曲で荻野目ちゃんは東京系列主催の音楽祭「メガロポリス歌謡祭」でポップス大賞を受賞した。ちなみに湘南を舞台にした他の楽曲に「湾岸太陽族」(1987年)がある。
05.Route 134/杉山清貴&オメガトライブ
(1985年7月1日リリース)
80sの都市型リゾートポップスを歌わせたらこの人。80年代に人気を博したシンガーソングライターの杉山清貴がオメガトライブとともに、湘南ルートの象徴である「ルート134」=国道134号線の海岸線を駆けぬけるドライブソング。冒頭の「葉山を抜けたら」では、鎌倉を越えて飯島トンネルを抜けた材木海岸、もしくは由比ヶ浜が見えているに違いない。しばらくすると、かつて茅ヶ崎に存在した湘南のランドマーク的な存在だった「パシフィックホテル茅ヶ崎」が見えてくる。人によっていろんなイメージを想起させる湘南という場所。当時の湘南=おしゃれなイメージをふんだんに盛り込んだ湘南ソングと言えるかもしれない。作曲とアレンジはこの手のサウンドを手がけたら間違いない林哲司。アルバム「ANOTHER SUMMER」に収録。
06.夏をあきらめて/研ナオコ
(1982年9月5日リリース)
サザンオールスターズの5枚目のアルバム「NUDE MAN」に収録されている名曲を、当時お茶の間の人気者だった研ナオコが約1か月半後にカバー。原曲の世界観を壊さないことを意識して、歌録りが進められていったという。彼女特有のハスキーなヴォーカルが哀愁観を大爆発させており、雨に濡れる湘南の風景と二人の微妙な心情を灰色に染めあげていく。歌詞中にはパシフィックホテル茅ヶ崎が「PACIFIC HOTEL」として登場する。本作で彼女は第24回日本レコード大賞金賞を獲得し、作者の桑田佳祐は作曲賞を受賞している。ちなみに、印象的なフレーズ「熱めのお茶を飲み 意味シンなシャワーで」を、スチャダラパーが「サマージャム’95」でさりげなく引用していたりします。
07.渚に行こう/ブレッド&バター
(1979年6月25日リリース)
かつて1975年から1978年にかけて、茅ヶ崎に「Bread & Butter」という名のカフェがあった。湘南の先端を行くミュージシャンやサーファーたちが夜毎集い、ユーミンをも通わせた伝説のライブカフェ。そこを仕切っていたのは、地元出身の岩沢幸矢、二弓兄弟。ブレッド&バターとしてデュオ活動も行っていた彼らの復活作「Late Late Summer」に収録された珠玉の名曲。湘南に広がるとっておきの海の風景を、「君」と一緒に共有できる瞬間をローカルならではの視点で描く。麗しのボッサタッチなアレンジは当時ティン・パン・アレーとして活動していた細野晴臣と鈴木茂によるもの。
08.走れ!江ノ電/太川陽介
(1979年10月25日リリース)
昨年まで出演していた「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」(テレビ東京系列)で人気再燃。アイドル時代のヒット曲「Lui-Lui」ダンスのイメージが強すぎる彼が、こんなにしっとりとした哀歌も歌っていたのです。鎌倉と藤沢を結ぶローカル線の江ノ電に乗って、かつての恋人と長谷寺、七里ヶ浜、極楽寺と、一緒に揺られた思い出をプレイバック。制作の背景として、川崎市の御幸中学校放送部が作成した映像作品「走れ!江ノ電」をもとにして、本楽曲が作られたエピソードがある。少々蛇足だが、デビュー同期には川崎麻世、渋谷哲平、新田純一、ひかる一平らがおり、太川のデビュー時のキャッチフレーズは「昇れ! 太陽くん」でした。
09.かもめが翔んだ日/渡辺真知子
(1978年4月21日リリース)
1977年にシングル「迷い道」でデビューし、すでにブレイクを果たしていた彼女のセカンドシングル。本作では作詞を数々の歌謡曲やアニメソングを手がけていた伊藤アキラに発注。渡辺にとって詞ありきの曲作りは初めての経験だったという。歌い始めの印象的な「ハーバーライトが 朝日にかわる そのとき一羽の かもめが翔んだ」。このドラマティックなフレーズは、いま聴いても永遠に色褪せない「言葉」の強さがある。そしてそれを支えるマイナーコードのメロディの輪郭も実に鮮やか。ピアノとストリングスがスリリングに交差し、失恋したと思しき女性が深い悲しみや迷いからサビ部分で一気に解放されていく。歌詞中に具体的な地名は出てこないが、自身の出身地である横須賀の観音崎をイメージして歌っているとインタビューで発言している。なので厳密には湘南ソングではないが、観音崎へ行くのに「湘南京急バス」(今年の3月に京浜急行バスに吸収合併)の観音崎が最寄りの停留所だったので、超強引に湘南ソングとして紹介させていただきました。
10.想い出の渚/加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズ
(1966年11月5日リリース)
60年代に一世を風靡したグループサウンズブーム。その象徴的なバンドであるザ・スパイダースと寺内たけしとブルージーンズを渡り歩いた加瀬邦彦が1966年に結成。「想い出の渚」は彼らのデビューシングルとして大ヒットを記録し、その後のグループサウンズブームの千鞭を切った。加瀬が爪弾く12弦ギターの美しい調べ、爽やかなコーラスワーク。イントロが鳴った瞬間に60年代の湘南ワールドが瞬時に浮かんでくるよう。ちなみにメンバーは湘南サウンドの元祖とも言える加山雄三と慶応大学時代の先輩・後輩つながり。とりわけ加瀬は高校時代に加山からギターを学び、音楽の道を志すほど影響を受けている。ゆえにサウンドも加山雄三のスタイルを踏襲しており、楽曲のモチーフは加山雄三の代表曲「君といつまでも」のエッセンスに、ビートルズのリズムを取り入れたとの逸話もある。
いかがでしたでしょうか? 湘南や海を題材にした楽曲はまだまだたくさん「Spotify」に存在しますので、皆さんのお気に入りのあの曲、この曲をぜひ探してみてくださいね。