中高生をメインターゲットにした『SCHOOL OF LOCK!』は放送開始から16年目を迎える人気番組。そこに新しい校長と教頭として今年4月から就任したのが、サンシャイン・坂田光とGENERATIONS from EXILE TRIBE・小森 隼だ。コロナ騒動で世界中が混乱する中で波乱含みの幕開けとなったが、生徒(=リスナー)たちの良き兄貴分として正面から向き合っている。そんな2人が振り返るこの半年の苦労と、これからのビジョンとは……?
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田衛)
『SCHOOL OF LOCK!』はリアルな学校
──お2人は今年4月からパーソナリティに就任しましたが、『SCHOOL OF LOCK!』自体は放送開始から16年目を迎える長寿番組です。どういう印象を持っていました?
坂田 この番組が始まったとき、ちょうど僕は高校生だったんです。もともと僕はラジオ大好き人間で、それこそ高校のときなんてラジオばかり聴いていたんですよね。僕の場合、芸人がやっているAMの深夜放送がメインだったんですけど。そんな中、『SCHOOL OF LOCK!』の存在は女子の友達に教えてもらいました。そういう経緯もあったので、「キラキラした10代の女子が聴く番組」というイメージが強かったです。くすぶって卑屈な青春時代を送っていた自分からすると、まぶしい存在でしたね(笑)。
──自分がいる世界とは違うと感じた?
坂田 う~ん、ただ番組自体からは熱い匂いも感じたんですよ。それに僕は音楽が好きだから、登場するゲストや曜日ごとに出演するミュージシャンが豪華なこともうれしかったですし。もっとも自分がパーソナリティをやるなんて、そのころは1ミリも想像していなかったですけど。
小森 僕は自分が高校生のとき、『SCHOOL OF LOCK!』をバリバリ聴いていたんです。だからグループの一員になってデビューしたとき、「いつかあの番組に出てみたいな」と考えていましたね。実際、GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーとしてゲスト出演したときはめちゃくちゃテンション上がりましたし。
坂田 そうだろうなぁ。自分が実際に聴いていた番組に出られるわけだから。
小森 さっき校長(坂田)は「キラキラしている」「同時に熱さがある」という印象を挙げていましたよね。逆に10代の自分は『SCHOOL OF LOCK!』を聴いていると妙にセンチメンタルな気分になったことを覚えています。
坂田 センチメンタル? なんでまた?
小森 10代特有の悩みが番組にいっぱい寄せられるじゃないですか。学校生活のこと、部活のこと、恋愛のこと、家族のこと、受験のこと……。若い子の悩みにここまで正面から取り組んでいる番組、他にはないですよ。もちろん自分が高校生のころも悩みやすい年ごろだったし、ちょっと傷ついたときに聴くと安心できるような番組でした。
──坂田さんの高校生活はくすぶっていたということですが、小森さんの場合はダンスもあったしリア充そのものだったのでは? 悩みなんてあったんですか?
小森 もちろんありましたよ! まず僕は高校が普通科じゃなくて通信科だったんですね。だから他の高校生みたいに毎日学校で友達と顔を合わせることもなかったし、その前の段階として学校で友達もできない。もちろんそれは自分で選んだ道だし、ダンスに青春を捧げていたから後悔はないんですけど、それでもやっぱり他の高校生がうらやましいなという気持ちは強かったです。だから『SCHOOL OF LOCK!』はある意味で僕にとってリアルな学校。この番組を聴けば、学校の仲間と一緒に時間を過ごせるような気持ちになれました。
プレッシャーが半端じゃない!
──番組で一緒になるまで、お2人はさほど面識もなかったんですよね?
坂田 そうですね。だから小森くんと一緒にやると知ったときは、「えっ、教頭はあのGENERATIONSの小森くん!? 俺みたいな泥芸人が一緒でいいの!?」って恐れ多くなりました。なんなら今でも申し訳ない気分でいっぱいで……。
小森 よくそんなことが言えますね(笑)。番組では完全に僕をリードしてくれているじゃないですか。大体、最初に顔合わせしたとき、僕からすると校長はめちゃくちゃ怖かったんですよ。
坂田 え~!? どこが怖かったの!?
小森 なにか謎の威圧感があるというか……。「よろしく!」みたいなことを口にしていましたけど、その言い方が高圧的だったんですよ(笑)。内心、僕は怖い人だなぁって怯えていましたから。
坂田 おいおい、やめてくれよ~! ニュアンス的には矢沢永吉さんの「よろしく!」よりは、「何卒よろしくお願いいたします」って感じの完全へりくだり型だったじゃん(笑)。
小森 でも真面目な話をすると、熱い人だなというのが第一印象でありましたね。そのときに校長がご自身で書かれた小説も渡してくれたんですけど、読んでみたら文章も熱血なんですよ。番組の内容的に10代の若者を正面から受け止めるようなところがあるから、本当にピッタリだと思いましたし。
坂田 うれしいこと言ってくれるじゃないの。
小森 僕自身が普通科の学校にも行っていないし、部活もやらなかったし、大学受験も経験していないから、10代の生徒と向き合えるか不安だったんですよ。その点、校長はバリバリ剣道も部活でやっていたし、同じ女の子に5回告白して5回振られるという青春時代特有の苦い経験もしている(笑)。そういうエピソードだって、10代の若い生徒たちからしたら親近感を覚えるでしょうしね。この2人でやると決まる前の段階で、すでに僕の中で「この人と一緒ならやっていけるかもしれない」というイメージが沸きましたから。
──オンエアで2人の息が合った様子を聞いていると、タッグを組んで半年というのが信じられないくらいですけどね。長年ずっと一緒にやっているような安定感があって。
坂田 半年は半年だけど、かなり濃い半年でしたからね……。
小森 濃かった! 僕なんて今年に入ってから、自分がいるグループのメンバーより校長と会っている時間のほうが長いくらいですし。
坂田 俺も同じだな。プライベートも含め、今年一番メシ食っている相手が小森くんだよ。とにかく始めるにあたってプレッシャーが半端じゃなかったんですよ。番組自体が15年も続いているうえに、先代の校長・グランジの遠山大輔さんは10年もやっていた。そんなの絶対に前と比べられるじゃないですか。
小森 たしかに多かったですよね、「前のほうがよかった」みたいな声は。
坂田 「もう聴きません。卒業しました」とかね(苦笑)。エゴサなんてしなくても、勝手にそういうネガティブな意見が飛び込んでくる。それに加えて、ちょうどコロナ騒動が直撃し始めた時期で……。それも僕らの混乱に輪をかけたんですよ。右も左もわかっていない段階なのに、いきなり2日目からはアクリル板設置とマスク着用になって、2週間後にはリモートでの出演になっていましたし。
小森 本当に毎日、試行錯誤していました。まず生放送が始まる1時間前から綿密な打ち合わせ。2時間の本番が終わると、今度は2時間くらい反省会。「あの生徒の悩みには、もっとこう応えたほうがよかったんじゃないか」みたいな意見を出し合うんです。僕自身も「校長はこの『SCHOOL OF LOCK!』をどうしていきたいんですか?」みたいなことを問い質しましたし。
坂田 スタッフも含め、みんなが真剣勝負で臨んでいるんです。
小森 放送事故が起きず、“それなり”の内容になればいい……そんなふうに誰も考えていないんですよ。少しでも10代のリスナーに届くようにしたいし、その点では妥協したくないですから。16年目の『SCHOOL OF LOCK!』がこれからも続くなら、僕も校長も1日でも長く続けたいと考えているんです。これまで歴代の校長・教頭がこの番組を作り上げたことは重々わかっているんですけど、やっぱり僕らとしては新しいカラーを打ち出していきたいので。
大人のジャケットは着ない
──単なるバラエティではなく、10代が相手というということで意識していることはありますか?
坂田 一番は目線を生徒に合わせることですよね。ただ、今年はとにかくコロナの問題が大きかったじゃないですか。そうすると、届くメールも切実なものが多くなるんですよ。コロナに関しては、今まで人類が経験したことないことが現実に起こっているわけじゃないですか。誰もどうしていいのかわからない。大人が自分の経験をもとに語れることではないんです。
小森 僕らGENERATIONSも全部のライブが中止になって、今年やろうとしていたことが全然できてなかったという現実があるわけですよ。僕は職業柄エンタメ業界の人たちに目が向きがちなんですけど、はっきり言って今はどこもつらいですよね。でも10代の子たちの声を耳にすると、自分たちが直面している問題とは別の問題も見えてくるんです。たとえば甲子園。正直、今まで僕の生活には甲子園なんてまったく関係なかったです。だけど、野球に全人生を懸けていた生徒たちの青春はどこに行ってしまったのか? そのことを想像すると、もう本当にいたたまれないですよ。言葉が出なくなる。もちろんそれはインターハイや合唱コンクールでも同じことが言えますけど。
坂田 中学生活が3年間、高校生活が3年間。時間は限られているわけです。だから彼ら・彼女らは常に“今”しかないんですよ。すごく覚えているのは、自分が悩みの多い中高生だったときに周りの大人たちから「お前も大人になったらわかるよ」って言われたこと。実際に自分が大人になった今、たしかにその通りだなって納得する部分も多いんです。だけど、10代の僕が求めていた答えはそれじゃなかった。もっとこっち側に寄り添った答えが欲しかった。今の僕もついつい生徒に「お前も大人になれば……」って言いたくなるときがあるんですけど、その言葉はグッと呑み込んでいますね。
小森 うん、大人のジャケットは着ないように僕も意識していますね。自分は大人で25歳。エンターテインメントの世界でデビューしてCDも出した。そういった経験だけで話すと、どうしても上から目線になりがちですから。だからそこはGENERATIONSの小森というより、ひとりの人間・小森 隼として丸裸でぶつかるしかないのかなと思っています。「今はつらいかもしれないね。だけど、これからもいっぱい同じようなことはあるから頑張ろうぜ」みたいに本音で語りかけることはありますけどね。
坂田 たとえば「好きな子に告白しようかどうか悩んでいます」というメールが届きますよね。僕ら大人からすると「何回でも告白すればいいじゃん」「ダメだったら他の子もいるよ」ってわかったような口もききたくなるんだけど、当人たちにしてみたら“人生初の告白”だったり“一生に一度の告白”だったりする。もう切実さが違うんですよ。若いうちって、その一瞬がすべてだから。
小森 でも、コロナによって10代の悩みが変わったことは間違いないです。「家族と上手くやっていけません」といった声も届きますし。
坂田 考えさせられたのは、不登校の生徒から「リモート授業になって精神的にすごく楽です」という意見が出たこと。その生徒にしてみたら、学校に行かなくていい大義名分ができたわけですからね。学校に行けないということで悩んでいる生徒がいる一方で、行かなくて済むことですくわれている生徒もいる。そんなことがあるなんて想像もしていなかったですよ。
小森 9月入学制のことも番組では取り上げたんですけど、これも本当に単純な話ではなくて……。たとえば9月入学制が導入されたら、資格の関係から希望する大学に進めなくなるという生徒がいたんです。これはもはや国の教育システムの話になるから、僕なんかが軽はずみに「頑張れよ」なんて言えることじゃない。いずれにせよ、この番組を始めてから世の中のいろんな出来事にアンテナを張るようになりましたね。
──ただ番組はシリアスな話題も取り上げますけど、基本はハイテンションのトークで進みますよね。
小森 そこが校長の偉大なところなんですよ。笑いで人を救うことができるというのは、僕にとってもすごく大きな発見でした。進路や家庭について生徒の深刻な悩みを聴きつつ、校長がふざけた言葉を返すと、最終的にはその悩んでいた子も「ホントにバカですね、校長は」と大笑いしながら電話を切る。隣にいながらもハッとさせられますよ。今まで僕はEXPG(LDHが経営するダンススクール)の子たちから悩みを相談されても「つらいかもだけど頑張れ」「絶対に夢を諦めるな」みたいに当たり前の言葉しか返せなかったですから。笑いというのは生きるうえですごく重要な要素だなって再確認しました。
坂田 とにかく今は世の中が悲しすぎますから。俺らだけでも、この番組だけでも楽しく笑わせていこうというのは基本の考えとしてあります。一方で面白おかしくやるだけだと、本当にシリアスに悩んでいる人たちには響かないでしょうから。そのあたりのバランスは難しいところなんですけど。
「リアル」を知ってもらいたいからラジオを聴く
──ところでコロナ禍でラジオを聴く人が増えているらしいのですが、これはどうしてだと分析されますか?
小森 ラジオって他のメディアに比べてもリアル感があるんですよ。特に『SCHOOL OF LOCK!』は生放送だから、その傾向が強いんですけど。その場で誰かに電話して、そこで相手が何を言い出すか分からないヒリヒリ感があって、さらにその発言に対して他のリスナーからも意見を求める。みんなで作り上げている感覚があるし、まさにライブだなって感じます。
坂田 「同じ時間を共有している」という感覚はテレビよりも確実に強いですよね。自分が高校時代、ラジオを夢中になって聴いていたときも「俺だけにマンツーマンで話しかけてくれている」という喜びがありましたし。僕は特に『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が好きだったんですけど、テレビでは出さないような2人の本音がそこには詰まっていたんです。なんだか秘密基地を見つけたような感覚でした。
小森 そういう「自分たちだけの部屋」という感覚があるからこそ、ラジオでは本音で悩みを打ち明けられるのだと思いますし。
──そこが不思議なんです。今はSNSに何でも書ける時代だから、若い子はわざわざ公共の電波で自分の気持ちを出す必要も感じないのかと。
小森 そこはやっぱりリアルな“声”を聴いてもらいたいという発想なんだと思う。結局、SNSって文字だけの世界ですからね。同じリプが表示されていても、それが共感して涙を流しながら書いているのか、あるいは冷やかしで書いているのか本当のところはわからないじゃないですか。文字からは温度が感じづらいので。だけどラジオで流れている声は、どうしたってそこに人間の感情が出てしまう。もちろんその声にリアクションする僕や校長の声も感情が出ますしね。どんなに文明が発展しようとも、人間が放つエネルギーの可能性は変わらないんじゃないかな。
──こうして話していても、2人とも本当にラジオが好きなんだなと再確認できました。ちなみに今、注目しているラジオ番組はありますか?
小森 あります! ズバリ注目すべきはTOKYO FMで金曜12時から放送している『JUMP UP MELODIES TOP20』! パーソナリティは鈴木おさむさんと自分の後輩でもあるTHE RAMPAGEの陣くんで、内容的にはSpotifyでヒットした曲を紹介していくんですけど。実はこの前身番組、僕も鈴木さんと一緒にパーソナリティを務めていたんですよね。『JUMP UP MELODIES TOP20』は洋楽・邦楽問わずチャート順に曲を紹介していくんですけど、Spotifyということもあって情報感度がかなり高くなっているんです。今、若い人の間で何がリアルに流行っているのか、この番組を聴けばわかってしまう!
──かつて自分も携わっていただけあって、ものすごく番宣が上手ですね(笑)。
小森 いやいや(笑)。でも、いわゆる業界関係者もチェックしている方が多いんですよ。この番組で流れていた曲が、しばらく経ってから『MUSIC STATION』(テレビ朝日系)で披露されるなんていうこともありますし。他にもTikTokでバズったYOASOBIさんとか瑛人さんの『香水』とか、この番組で繰り返し流れてから世の中に浸透したイメージがありますし。
坂田 ラジオファンとして言わせてもらうと、長く続けている方の番組はどれも面白いですよね。ナイナイさんのほかには『火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ』とか『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』とか……!
──TBSラジオばかりじゃないですか! この取材場所はTOKYO FMなのに(笑)。
坂田 TOKYO FMだったら『TOKYO SPEAKEASY』はマジで面白いですよ。取ってつけたようで申し訳ないけど(笑)。1対1対談形式のトーク番組なんですけど、「まさか!」と思うような組み合わせが多いんです。RADWIMPS・野田洋次郎さんと元欅坂46の平手友梨奈ちゃんとか、ノリさん(木梨憲武)とさっしー(指原莉乃)とか、貴乃花光司さんと松村邦洋さんとか……。これはひとえに秋元 康先生のマッチング力でしょうね。
──最後に今後、番組でやっていきたいことはありますか?
坂田 イベントをやりたいですよね。コロナがあるから今は難しいのもわかっているんですけど、できるなら生徒と直に触れ合う場を設けたいなと考えています。夏フェスで楽しんだりしながら、その子たちの青春に少しでも印象に残るようなことができたら最高じゃないですか。それこそ、この番組が本当の学校になっていくと思うんですよ。一緒にめっちゃ笑って、めっちゃ泣きたいです。
小森 僕は番組の本を出したいです。これまでも『SCHOOL OF LOCK! DAYS』というシリーズの本が4冊出ているんですけど、普通の番組本とは作りがちょっと違うんです。たとえば自殺志願者だったりニート・ひきこもりの生徒と校長・教頭が会話を続けて、そういったテーマごとにまとめているんですね。生徒がどういう悩みを抱えてきて、『SCHOOL OF LOCK!』という番組はどのように生徒と向き合ってきたか? それを記録するのはすごく意味があることだと僕は考えているんです。
坂田 僕ら2人ならではのエピソードも5冊目の『SCHOOL OF LOCK! DAYS』には収録されることになるでしょうしね。
小森 コロナ問題が終わってから変わってしまった世界と、そこで負けずに頑張る生徒たち。やっぱりそこは形にして、少しでも多くの人たちに広めていきたいですね。
【information】
“全国の蒼き若者たちの未来の鍵(LOCK)
出演:さかた校長、こもり教頭、Perfume、Mrs.
放送日時:毎週月曜日~金曜日22:00~23:55
放送局:TOKYO FMをはじめとするJFN38局ネット(※一部 東京ローカル)
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