オール富山ロケを敢行した1月29日公開の映画『おもいで写眞』で主演を務めた深川麻衣さん。東京で挫折を味わって帰ってきた地元で、写真を通じてお年寄りたちと触れ合い、人生の素晴らしさに目覚めていく主人公を熱演した深川さんに、撮影中のエピソードを中心にお話を伺いました。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)
自分がこうと決めたことに関しては貫きたい性格
――「第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞」を受賞した『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)以来、約3年ぶりの主演映画になりますが、オファーがあったときは、どんなお気持ちでしたか。
深川 私の所属する事務所「テンカラット」の設立25周年記念作品ということでプレッシャーもありましたが、錚々たるベテランの俳優さんと共演できる機会はそうそうないですし、純粋に楽しみな気持ちで撮影に臨みました。
――脚本を読んだときの印象を教えてください。
深川 まず遺影写真をテーマにした作品って、今までにありそうでなかったなと。あと、私が演じる音更結子の成長物語でもあるんですけど、登場人物たちの人生がそれぞれ印象的に描かれていて、すごく暖かい作品になるだろうなと思いました。
――『パンとバスと2度目のハツコイ』で深川さんが演じた市井ふみもそうでしたが、結子も一度夢を諦めて、違う世界で再起を図ります。結子に共感するところはありましたか。
深川 いつも脚本を読む段階で、どういうところが自分と似ていて、どういうところが自分にないのか探してみるんです。夢を持って上京した境遇。いろいろな挫折を東京で経験した29才の女性の焦り。自分には何もできないんじゃないかという苛立ち。そういう結子の抱えている葛藤は、すごく共感できました。
――結子は嘘が嫌いで、気が強くてまっすぐな役どころですが、深川さん自身に共通する点はありますか?
深川 たまに私も「頑固だね」って言われるんですけど(笑)。結子ほどじゃないにしても、自分がこうと決めたことに関しては貫きたい性格です。日常生活とか、お仕事では、自分の思っていることが絶対に正しいとは思ってないので、普段から人のアドバイスは聞きますし、何か教えてほしいときは自分から行きます。でも、上京するタイミングとか、グループからの卒業を決めたときとかは自分の直感を信じて行動しました。
――他人の意見に耳は傾けるけど信念は曲げないということですね。
深川 自分の人生の転機になるときはそうですね。
――仕事柄、普段は被写体になることが多い深川さんですが、撮影する側の役を演じる上で、どういうことを意識しましたか?
深川 結子もプロではなく、カメラは扱えるけど本格的に人を撮影したことがないところからスタートします。最初はぎこちないところから始まって、だんだんと余裕が生まれて、相手をリラックスさせるために世間話などをして。カメラマンさんはシャッターを切るリズムや空気の作り方など、それぞれのスタイルをお持ちだと思うので、私も人によって声のかけ方を変えるなど、被写体との距離の詰め方は意識しました。今回の撮影のためにカメラの練習もしたんですけど、カメラマンさんは限られた時間の中でセッティングをして、調整をしながら指示も出して、手際が素晴らしいんですよね。改めてプロの方はすごいなと感じました。
――どのようにカメラの練習をしたんですか。
深川 実際にカメラ一式をお借りしたんですけど、カメラマンをやっている友達がいるので、その子とお休みの日に公園などに行って教えてもらいました。撮影現場でも千葉さんというカメラマンさんがついてくださって、いろいろ指導していただきました。
――そういう経験をすると、被写体のときでもカメラマンさんの動きが気になるんじゃないですか?
深川 確かにそうですね! カメラマンさんって瞬時にいろんな判断をしますよね。撮られているときはカメラのレンズを見なきゃいけないのに、ついついカメラマンさんの動きに注目してしまいそうです(笑)。
この世界に入る前に経験してきたことが演技にも役立っている
――結子は東京で挫折し、故郷の富山県に戻りますが、東京でのヘアメイクの経験が“おもいで写眞”にも活きていきます。深川さんも学生時代にデザインを学び、服飾専門学校にも通っていますが、そうした経験が芸能活動に活きた部分はありますか?
深川 洋服とは直接関係ないんですけど、イラストのお仕事などもさせていただいているので、そこは学生時代に学んだことが活きていますね。あと、私がこの世界に入ったのは二十歳のときで、決して早いほうではありません。十代から芸能活動を始める子が多いので、最初は焦りもあったんです。でも、高校を卒業して、バイトをしながら専門学校に通って、一通りの経験をしてきたので、そこはお芝居でも役立っていると思います。実際、結子の人生が、自分の人生ともリンクしました。
――結子は次第に富山への郷土愛に目覚めていきます。深川さんにとって故郷の静岡はどんな場所ですか?
深川 仕事で自分を作っているという意識はないですし、自分は自分なんですけど、やっぱり実家に帰ると、まっさらな自分に戻れる感覚があって。すごくホッとする場所です。コロナになってからは全然帰れてなくて寂しいんですけど、年末年始はテレビ電話で家族と話しました(笑)。
――撮影期間はどれぐらいでしたか?
深川 二十日間ぐらいです。
――それだけ長く地方ロケをする機会って珍しいですよね。
深川 初めての経験でした。しかも撮影中は一度も東京に帰らなかったんです。富山の空気を存分に感じて、タイトなスケジュールでしたけど、東京とは違った空気とゆったりした時間に助けられて、リフレッシュしながら演技ができました。
――吉行和子さん、古谷一行さんと、大ベテランの役者さんとの共演はいかがでしたか?
深川 吉行さんも古谷さんも圧倒的な存在感をお持ちでしたが、お2人ともクランクインのときから気さくに話しかけてくださってありがたかったです。長年にわたってお芝居の経験を積んで、いろんなやり方をお持ちだと思うんです。でも、自分のやり方を無理に貫くのではなく、監督の急な演出に対して、「監督がそう言うんだったら、こうしてみよう」と柔軟に現場を楽しんでいらっしゃるんですよ。その姿を間近で見させていただいて、自分もこういうキャリアの重ね方をできたらいいなって憧れました。正直、今回は出ずっぱりだったので、あまり周りを見る余裕がなくて、自分のことばかり考えがちだったんです。でも、お2人のように自分の役と向き合いながらも、余裕を持って、現場のハプニングも楽しむスタンスが素敵でした。
――事務所の先輩との共演はいかがでしたか。
深川 すごく安心感がありました。頼りになる先輩方が近くで見守ってくれているからこそ、役に没頭できて。自分がいっぱいいっぱいになったときも、高良さんや香里奈さんが声をかけてくださって。先輩方の存在に助けられましたし、自分もこうなりたいなって思いました。お仕事の上では偉大な先輩方ですけど、撮影以外ではお兄ちゃんでありお姉ちゃんであり、すごく心強かったです。今回は喜怒哀楽の中でも“怒”と“哀”を強く出していかないといけない役柄で、シリアスなシーンが続くと、だんだん私も役に引っ張られていくんです。そんな中で、先輩方が声をかけてくれたり、ご飯に行ったときに他愛のない話をしてくれたり。そういうときに気持ちを切り替えることができました。
――ここまで怒りを出す役柄も過去になかったですよね。
深川 喜怒哀楽の激しい役柄は過去にもあったんですけど、ここまで人間の負の感情をストレートに出して、そこにフォーカスした役柄は自分にとって初めてで。怒りを人に向けるのって、とてもエネルギーを使うし、想像以上に大変でした。自分が普段、人に対して怒ることはあっても、それをぶつけるタイプではないので、そこに気持ちを持って行くまでに苦戦もして。なかなか監督の演出に応えることができないシーンもあって、役者として鍛えていただいた現場でした。
――最後に2021年の展望を教えてください。
深川 まだまだ先が見えない世の中ですけど、2020年はリモートでお芝居に挑戦する方も増えて、こういうときだからこそ今までになかった新しい表現も生まれています。私も演技はもちろんですが、どういう状況になっても写真やイラストなど自分にできることを通して、いろいろ発信していきたいです。
(ヘアメイク:村上 綾/スタイリスト:原 未来)
『おもいで写眞』
■公開日:2021年1月29日全国公開
■出演:深川⿇⾐ ⾼良健吾 ⾹⾥奈 井浦新 古⾕⼀⾏/吉⾏和⼦
■監督・脚本:熊澤尚人
■脚本::まなべゆきこ ■音楽:安川午朗
■原作:熊澤尚人「おもいで写眞」(幻冬舎文庫)
■主題歌:安田レイ「amber」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
■製作:テンカラット ソニー・ミュージックエンタテインメント イオンエンターテイメント 関西テレビ放送 スタジオブルー
■製作プロダクション:スタジオブルー
■ 配給:イオンエンターテイメント
©「おもいで写眞」製作委員会