お笑いコンビ・品川庄司として活躍する傍ら、映画監督として『ドロップ』や『漫才ギャング』などのヒット作を生み出してきた、品川ヒロシ。今回、6年ぶりとなる長編映画監督作『リスタート』が7月16日に公開(7月9日北海道先行公開)される。本作は、北海道・下川町と吉本興業が SDGs 推進における連携協定を結びスタートしたプロジェクトであり、クラウドファンディングで費用を募り、制作された。主演には、新進気鋭のフォークデュオHONEBONEのボーカルEMILYが起用され、女優デビューを果たしたことでも話題だ。
今回は、キャスト・スタッフの熱い思いが結集して完成した本作の撮影秘話や、出演者たちとの裏話を品川監督本人に語ってもらった。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)

偶然見つけた歌姫・EMILY「泥臭さがかっこよかった」
――『リスタート』公開おめでとうございます。久しぶりの長編映画となるのでしょうか
品川 6年ぶりの公開になるのですが、自分では久しぶりって感じがしなくて。取材を受けていく過程で気づきました。「え、6年も経ってるんだ!?」って気持ちです。撮影自体は2年前に終わっていたのですが、その後もドラマやMV撮影などが続いていたので。
――本作の企画はどのようにスタートしたのですか?
品川 北海道・下川町と吉本が地域創生プロジェクトの一環で、映画を作ることになって。そこで監督をやってみないかと声をかけてもらったんです。下川町を舞台にすることが前提で、作品作りがスタートしました。
――そうだったんですね。主演のEMILYさんを起用しようと思ったのは、どのタイミングだったんですか?

品川 まずは、下川町へシナリオハントに行ったんです。その時に、田舎に帰ってくるミュージシャンの女の子の話はどうだろう、と構想が浮かんできて。劇中にも出てくる下川町の澄んだ川を見ながら、ここでアカペラで歌ったらきれいだろうな、とか考えていたんですよね。それで、歌がうまい子いないかなと探そうと思って、帰ってきてテレビをつけたら、『家、ついて行ってイイですか?』(テレ東)にEMILYが出演していたんです。番組内で歌ってたんですけど、それが泥臭さもあって、ものすごくかっこよくて!
――偶然の出会いだった訳ですね。
品川 本当にたまたまです。『家、ついて行ってイイですか?』が毎週録画で溜まってたんですけど、その回をたまたま再生したんです(笑)。
――運命的ですね! 今まで、音楽を中心に据えた映画は制作されていなかったと思いますが、もともと構想があったのですか?
品川 今回、今までのようなアクション映画を作るのは予算的にキツいなと思って、でもエンタメ色を映画に入れ込むのは好きですから。アクション以外だったら、何で見せられるんだろうって思った時に、音楽映画も好きなので〝歌〟という選択肢に辿り着きました。
アンチ役の小杉、本人役の西野にも……「共感できる自分がいる」
――主人公の杉原未央は、シンガーソングライターを目指すも、スキャンダルに見舞われて、夢破れて田舎に帰ってくる女の子ですよね。こういったキャラクターにしようと思ったきっかけや、モデルはいたりするんですか?
品川 モデルはいないですね~(笑)。でも、夢破れて田舎に帰ってくるっていうのは、よくある話だと思うんです。あと、炎上して世間で叩かれて、謹慎するってニュースも多いと思いますし。それぞれ具体的なベースがあった訳ではないですが、身近なテーマだったんだと思います。
――劇中で、主人公が炎上してSNSで叩かれて傷ついている心情や、それに対する周囲の反応なども生々しい雰囲気がありました。どうやってキャラクター作りをされたんでしょうか?
品川 主人公も、慰めてくれる周りの人間も、全部あのまま〝僕〟なんですよね。叩かれたら傷つく自分もいるし、「そんなの大したことないよ、気にするな」って言っている自分もいるので。さらにいえば、主人公のスクープ記事を書く記者の立場も分かる。「言われるのが嫌だったら辞めちゃえば?」という意見も、少なからず僕の中にあることなんです。
――なるほど。ご自身の気持ちがそれぞれの登場人物に表れてるんですね。
品川 はい。他にも、小杉さん(ブラックマヨネーズ)が演じていた、アンチのおじさんのような人もそうですね。例えば、球場で選手に「ヘタクソー!」ってヤジを浴びせたり、格闘技で世界チャンピオンに向かって「弱いぞー!」って平気で言ったりするじゃないですか。そんな時、選手は相当傷ついているかもしれない。でも、普通に聞き流してしまうし、なんなら自分も「なんでそこでガード下がるかね~」なんて口に出してしまったりする。他にも、久々に見たハリウッドスターに対して「老けたね~」って口走ったり。自分が老けたって言われたら絶対嫌なのにね……。だからアンチの人も、大きな悪意がある訳じゃなくて、まさか自分の声が本人に刺さっていると考えてもいないんじゃないかと。もしかしたら、叩いている側の人も、実際に会って話すとそこまで嫌な奴じゃないかもって思うんですよ(笑)。

――たしかにそうですよね……。それを踏まえると、小杉さんの役作りは、すごくリアルでした。何か人物像をお話しされたり、演技の指示をされたんですか?
品川 とくに話してないです。でも、芸能人なら一度はアンチの人との遭遇経験があると思うんですよね。道端で「写真撮ってよ!」って言われて断ると「なんだよ、偉そうに」とか言われたり。あるあるな話なので、そこを汲み取ってくれたんだと思います。
――そうだったんですね。小杉さんの他にも、キングコングの西野さんも出演されていました。ご本人役でしたが、西野さんが言いそうなセリフがハマっていて、そちらもリアリティがありました……!
品川 いや、あれは実際に西野が言っていたことをそのまま台本に書いただけなんですよ(笑)。本人は嫌だって言ってましたけどね。

――(笑)! そうだったんですね。品川さんにしかできない演出だと思いました。
品川 これも新たな西野のイジり方ですね(笑)。でも、小杉さんのアンチ役も、西野のキャラクターもどちらも共感できる自分がいるんですよ。最終的に、誰もがそれぞれの正義があるんだって思えるようにしたかったんです。ある意味、登場人物がみんな可愛く見えて、愛されるような形にできればと。

撮影は一週間で!「クランクアップのときは泣きました」
――今回、クラウドファンディングなどもそうですが、制作の方法に変化はありましたか?
品川 いい意味で文化祭みたいでしたね。みんなで徹夜して、一週間で撮影しました。
―― 一週間!? とんでもないスピード感ですね。
品川 下川町に4日間、東京で3日間ですね。不眠不休で撮影しました。みんなでスポーツをしているような感覚で、そのエネルギーがそのまま映画に落とし込まれていると思います。結果論ですが、じっくり撮ったら、この熱量にならなかったかもしれない。しかも、若手の役者たちの「この映画で売れたい!」というハングリー精神溢れる空気感も映像に表れていると思います。
――皆さんの気概が、作品自体に表れている訳ですね。
品川 はい。低予算で映画を制作する大変さはありましたが、熱がこもった作品に仕上がったと思います。スタッフ自らクラウドファンディングに参加してくれたりもして。みんなで作り上げた感じで、物語と実際の映画作りがリンクしていた部分があったんです。
――おお、それは素敵です!
品川 この映画自体が〝綺麗事〟の話って言われたらそれまでですが、実際に〝綺麗事〟ってあるじゃんって思いましたね。ラストシーンの撮影では、みんな感極まっててトランス状態でしたよ! 感動しちゃって。大輝役のSWAYは、ホテルに帰った後、風呂場で泣いたって言ってましたね~。僕もクランクアップのときは泣きました(笑)。
気合いを入れる時は……「〝リスタート癖〟があるんです」
――今回『リスタート』というタイトルですが、品川さん的に何か〝リスタート〟に特別な意味はありますでしょうか?
品川 僕ね、「リスタート癖」があるんですよ。子どものころ、転校や引っ越しがめちゃくちゃ多かったんですが、誰も知らない場所で新しく始めることが、自分の中でなんだか盛り上がるんですよね。僕は〝リスタート〟っていうのが好きなのかもしれないです。
――「リスタート癖」 ですか……! 最近のリスタートは何かありましたか?
品川 今がまさにそうですね。この映画の宣伝や『池袋ウエストゲートパーク』の舞台演出など仕事が重なって、人生で何度かある一番しんどい時。こういう時は、一旦死ぬ気でやろうって思わないと乗り切れないじゃないですか。だから、ここからリスタートする気持ちで、気合いを入れて臨んでいます。僕それもあって、よく坊主にするんですよ。気合い=坊主! 古いタイプの人間なので(笑)
ーー作品制作も充実されている時期かと思いますが、これからの監督としての目標や展望は何かありますか?
品川 いつか海外で映画を撮りたいっていう気持ちがありますね。でもこれから2年くらいは頂いている仕事の予定があるので、まずは目の前のことをやり切りたいです。
――おお、すごい! 今後も詰まっているんですね。
品川 はい。ただ、次の夢に生かすために、これをやって……という訳ではなく、とにかく自分の目の前にあることに全力を注ぎたいです。映画を撮ることは本当に楽しいので、仕事が数珠つなぎになっている間は、走り切りたいと思います。
――楽しみにしています!ありがとうございました。
リスタート
7月9日(金)北海道地区先行公開中
7月16日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル新宿ほか全国公開-
監督・脚本:品川ヒロシ
出演:EMILY(HONEBONE)、SWAY(DOBERMAN INFINITY/劇団EXILE)他
配給:吉本興業
©吉本興業
【STORY】
北海道下川町で育った未央は、シンガーソングライターを夢見て上京。しかし、不本意ながら売れない地下アイドルとして活動していた。
ある日、意図せず起きた有名アーティストとのスキャンダルによって、世間からのバッシングを受けることに。思い描いていた夢に破れ傷つき、故郷に帰ってきた未央だったが、家族や友人にも上手く接することが出来ずにいた。
そんな中、同級生の大輝は、未央を思い出の場所へと連れ出す。自然豊かな景色とその優しさに癒され、未央はゆっくりと前を向き始める―。