“松井秀喜以上の逸材”と言われ、2013年に阪神タイガースに入団した元プロ野球選手の横田慎太郎さん。若くして病に冒され、引退を決意した最後の試合で見せたバックホームのプレーは、阪神ファンのみならず、多くの野球ファンの心に残っている。その横田さんが綴った自伝エッセイを基に、間宮祥太朗さんを主演に迎えドラマ化した『奇跡のバックホーム』が3月13日(日)にテレビ朝日系で放送する。「タイガースファンであるということだけで、この役を背負っていいのかと最初は悩みました」と話す間宮さんに、ドラマの撮影や原作を通して感じた横田さんの人柄や野球への思いをたっぷりと語っていただきました。
【間宮祥太朗さん撮りおろしカット】
“奇跡”のひと言では終わらせてはいけない、そこに至るまでの思いも知ってください
──このドラマは横田選手の自伝エッセイが基となっています。原作はお読みになりましたか?
間宮 拝読しました。横田選手が引退試合で見せたバックホームの映像も拝見していたのですが、本を読んだあとでは印象が全然違って。やはり映像のほうが視覚的なインパクトがありますし、すごさがダイレクトに伝わってきますけれど、原作にはそこに至るまでの横田さんの苦悩や葛藤が克明に描かれているんです。僕自身、初めて知ることが多く、それを踏まえた上で再度映像を見た時は、簡単に“奇跡”というひと言で終わらせてはいけないものがあるなと感じました。
──今回のドラマでは、横田選手がプロ野球選手となり、そこから病気を患い、引退を決意するまでの流れもしっかりと描かれているとお聞きしました。
間宮 はい。原作を読んだ時にも感じたのですが、“自分はここに戻るんだ!”という明確な場所や目標がある人間は強いなと思いました。横田さんも、確固たる意志を持って闘病に挑む自分を奮い立たせているように感じて。しかも、そこには球団関係者やチームメイト、それにファンの方々など、自分を待ってくれている人たちがいる。それが強さになっているんだなと感じました。
──撮影はいかがでしたか?
間宮 撮影に入る前はいっぱいいっぱいで、いつもと違うプレッシャーがありました。というのも、実在した人物を演じた経験は時代劇などでありますが、ご存命の方は初めてで。それに、実際に僕が演じた横田さんの姿をご本人や関係者の方が見るのかと思うと、普段感じないような緊張感に襲われて(苦笑)。同時に、横田さんが歩んだ半生をしっかりと伝えていかなければいけないという使命感や責任感もあり、気持ちがいつもと大きく違いました。
──演じる上で特に意識したのはどんなところだったのでしょう?
間宮 実は撮影に入る前に、実際に横田さんにお会いする機会をいただいたんです。その時にすごくピュアな方だなと感じたんですね。心の透明度が高いといいますか。そうした印象をしっかりと視聴者にも伝えていきたいと思いながら演じたのを覚えています。
──間宮さんは阪神タイガースの大ファンでもいらっしゃるので、縦縞のユニフォームに袖を通した時は感慨深かったのでは?
間宮 いやぁ、ものすごく嬉しかったです!(笑) ただ、ユニフォームもそうですが、ちょっと不思議な感覚というか、感動を覚えたのがドラフトのシーンでした。横田選手と同期の選手の名前がテーブルの前に並んでいて、そこに僕も一丁前の顔をして座っていたんです。“…あ、隣は梅ちゃん(梅野隆太郎選手)だったんだ”とか思ったりもして。その時は、いちタイガースファンとして、ものすごく気持ちが舞い上がってましたね(笑)。
──(笑)。また、先ほど実在する人物を演じることにプレッシャーがあったとお話しされていましたが、撮影を終えた今はどのような心境でしょう?
間宮 ドラマの中には横田さんの思いが詰まったシーンがたくさんあり、そこは自分らしくしっかり表現できたかなと感じています。きっとそれは、自分自身がプロ野球ファンであり、阪神タイガースファンであり、そして横田選手のお人柄に感銘を受けたからこそできたことなのかも……とも思っていますね。
──では、改めて間宮さんにとって横田さんはどのような存在になっていますか?
間宮 原作やドラマのセリフに、「野球がうまいのがプロ野球選手ではなく、応援されてこそプロ野球選手なんだ」というのがあるのですが、この言葉に横田選手のすべてが詰まっているなと感じます。というのも、本当に多くの方に愛されている方なんだということを演じながら強く実感したんです。これは横田選手に限ったことではないのかもしれませんが、現役を引退されてもなお、ドラマ化されたり、たくさんの方の記憶に残っているのは、純粋に選手としての技術や活躍だけでなく、みんなから愛される人柄だったというのも大きいと思うんです。僕個人としては、もし横田選手が引退せず、まだ現役でプレーをされていたらどんな選手になって、どんな活躍をされていたのかなと想像することもありますが、今、前向きに力強く人生を送っていらっしゃる姿からもたくさんの刺激をいただいています。
自分に子どもができたら、一度はしっかりと野球をやらせてみたい
──ちなみに、間宮さんの中で記憶に強く残っているプロ野球選手といえばどなたですか?
間宮 大好きだったのは金本(知憲)さんでした。あのオーラはやっぱりかっこいいなって思ってましたね。あと、スアレス選手も好きでした。特に昨年は、“ここでスアレスにどうにかしてもらわないと負けちゃうぞ!”っていう試合を何度も救っていただきましたから。タイガース以外なら(広島東洋)カープの黒田博樹投手。マウンドから威圧感を放っている雰囲気にいつもシビレてました。
──金本さん以外ではピッチャーが多いんですね。タイガースの若手で期待している選手はいますか?
間宮 やっぱり及川(雅貴)選手ですね。だって、まだ20歳ぐらいですもんね。役者もそうですが、プロのスポーツ選手は20歳だろうが、40歳だろうが関係なくて。同じ土俵に立てば立場は一緒だし、20歳のルーキーピッチャーがベテランの強打者から空振りを奪ったりする。そうしたプレーを見ていると本当にワクワクします。
──実際に球場に観に行くことも多いんですか?
間宮 時間があれば、よく観に行きます。特にピッチャーが強い時の試合って観ていて緊張感があるし、ものすごく楽しいですね。とはいえ、その半面、投手戦になりすぎると、試合の展開が早すぎてちょっと残念だったりする。“あれ? まだ21時にもなってないのに、試合終わっちゃったよ…”って(笑)。やっぱり現地観戦だと長く試合を楽しみたいなって思っちゃいます。
──では、間宮さんが感じる野球の魅力とは?
間宮 昔自分もやっていたから大好きだというのもありますが、それ以外の理由として、世界を相手に戦えるスポーツだというのもあります。先ほどの話にも通じることですが、小柄な日本人選手でも、体格の違うメジャーリーガーを倒す力がある。そこが見ていて気持ちいいです。ただ、そうした強い選手をたくさん輩出していくという意味でも、野球人口がこれ以上、減らないでほしいなって思います。
──確かに、今は若者の野球離れがプロ野球界の課題になっています。
間宮 もちろん僕らの時代とは違い、今は子どもたちにとって野球ができる場所を探すほうが難しいので、仕方ないところもあるとは思うんです。だからこそ、もし自分に子どもができたら、なんとか一度は野球をやらせてみたいですね。…とかいいながら、小学生ぐらいになってサッカーが好きになったらどうしましょうね(苦笑)。まぁ、それでも本人が何かしらスポーツをしたいと思ってくれれば、それだけで十分ですけど。
──さて、そろそろプロ野球も開幕しますが、最後に今年の阪神タイガースに期待していることを教えてください!
間宮 キャンプ、オープン戦を経て、一体誰が残っているのか……。まずはそこを楽しみたいなと思います。それに、もちろんそれぞれの選手に期待していますし、優勝を目指して頑張ってほしいと思っています。……ただ、それよりも何より、いちタイガースファンとして言わせていただくと、失策数を減らしてほしいなと(苦笑)。僕が言うまでもなく、野球ってエラー1つで大きく流れが変わってしまうスポーツですし、昨年もエラーから崩れていった試合が何度かありましたから。あと、昨年はシーズン後半の打線に少し元気がなかったのが残念でした。前半から中盤にかけてはどの打順からでも点が取れるようなワクワクする試合がたくさんあったので、今年こそは一年を通して強い勢いのまま最後まで突っ走っていただけたらと大いに期待しています!
ドキュメンタリードラマ『奇跡のバックホーム』
3月13日(日) ABCテレビ・テレビ朝日系24局 午後1:55~
(STAFF&CAST)
原作:横田慎太郎『奇跡のバックホーム』
脚本:ひかわかよ
監督:吉村慶介
出演:間宮祥太朗、石田ひかり、丸山智己、三浦景虎、村瀬紗英ほか
(STORY)
2014年度のドラフト2位で阪神タイガースに入団した横田はプロ3年目で活躍を見せるも、次第に視力低下や頭痛に悩まされ、翌年脳腫瘍と診断される。周囲の支えを受けながら闘病とリハビリに励む彼の目標は一軍復帰。しかし低下した視力だけは戻らず、19年9月に1096日ぶりの二軍公式戦で引退試合に挑むのだった。
撮影/関根和弘 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/三宅 茜 スタイリスト/津野真吾(impiger) 衣装協力/DELUXE、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE、BRAND SELECT