作家・伊吹有喜氏の同名小説を映画化した『今はちょっと、ついてないだけ』がいよいよ4月8日(金)に公開。本作は、シェアハウスと自然を舞台に、懸命に生きようとする不器用な大人たちの輝きを描いている。元カメラマンの主人公・立花(玉山鉄二)と出会うシェアハウスの住人の一人で、美容師の瀬戸を演じた深川麻衣さんに、映画の見どころや撮影現場の思い出、さらに私生活でコレクションしているモノなどを聞いた。
【深川麻衣さんの撮りおろし写真】
シェアハウスでの出会いによって少しずつ打ち解けていく感じが伝わったらいいな
──原作も読まれたそうですが、作品の印象について聞かせてください。
深川 登場人物それぞれの人生が章ごとに描かれていて、それらが影響し合って最後にまとまっていくというお話になっていて。原作を読んでいて、その流れが気持ちよかったです。あまり人に言いたくない過去や“あの時、こうしておけば”という後悔は、生きていれば誰もが持っていると思うんですけど、ちょっと言葉を言い換えたり、ちょっと考え方を変えたりするだけでそれを肯定できる気持ちになったりするんですよね。そういうことを教えてくれるというか、過去の失敗を受け入れてくれる、すごく優しい本だなと思いました。
──深川さんが演じた瀬戸というキャラクターについてはどうですか?
深川 努力家で美容に関する技術はあるのに、ちょっと口下手な女性です。なかなかうまくコミュニケーションを取ることが苦手で、仕事をリストラされてしまって。その不器用な感じは、読んでいて応援したくなりました。私自身も何か言葉にする時、大切なことや本音ほどうまく言葉に伝えられずにもどかしさを感じることがあるので。そこはすごく共感できましたし年齢も近い役なので、自分と重ねて演じた部分も多かったです。
──特に意識して演じた部分は、どんなところですか?
深川 序盤の方にある、ぎこちなさかなと思います。周りの人たちの話が気になっている瀬戸が“踏み込んじゃいけないのかな……”と顔色をうかがっているところとか。相談されて本当はうれしいのに、最後のひと言が言えないとか。あと、異性で年齢が離れている人と共同生活するというのは、結構勇気がいることだと思いますが、年が離れているからこそ心が開けることもあって、シェアハウスでの出会いによって少しずつ打ち解けていく感じが伝わったらいいなと、表情の変化をどう出していくかは特に意識しながら演じました。
“お父さんってこんな気持ちなんだ”という感じで、微笑ましかった
──作品を通じて、シェアハウスに魅力を感じた部分はありますか?
深川 何かあった時に助け合えるのは、すてきだなと思いました。私自身も寮で暮らしていたことがあり、家の中にみんなで集まれる食堂みたいなものがあると、疲れたことがあっても人と話すことで気持ちが切り替わったり、元気になったりするので。無理なく人と関わり合えるというのは魅力的だなと感じました。もしシェアハウスに住むとして、おいしいご飯を作ってくれる人がいたらぜひお任せしたいですね。私はたまにご飯を作るぐらいで、基本的にはお風呂掃除担当がいいかなと思います(笑)。
──お風呂掃除も大事ですからね(笑)。映画では、深川さんよりもかなり年上の男性陣がわちゃわちゃしている様子も面白かったのですが、現場で見ていてどうでしたか?
深川 劇中と同じように実際もとても仲が良く、和気あいあいとされていました。家庭では皆さんお父さんで、お子さんがいらっしゃるので幼稚園のお話とか、パパトークに花が咲いていました。年上の方に私がこんなことを言うのは畏れ多いのですが、“お父さんってこんな気持ちなんだ”という感じで、微笑ましく聞いていました。
──特に安田団長さんが現場を盛り上げていたと伺いました。
深川 そうですね。団長さんがクランクインされた日から、玉山さんとの息が本当にぴったりで。漫才師みたいに、ボケとツッコミの掛け合いをいいテンポでされていました(笑)。お2人は以前共演されていたことがあるみたいで、さすがだなと思いました。
お世話になった地域の皆さんにぜひ映画を見ていただきたいです
──風景描写も美しい映画ですが、ロケ先の思い出は?
深川 シェアハウスのシーンは千葉県茂原市で撮影しました。地元の方々が現場の近くで餃子を焼いて持って来てくださるなど、名産品をたくさん差し入れてくださったのがうれしかったです。撮影中の楽しみの1つである食事に、出来たてのものを頂けるのはありがたいなと思いました。実はシェアハウスにある家具も、茂原市の方にご協力いただいていて。皆さんが寄付してくださった家具が、美術セットの中に入っていたりするんです。長野県や愛知県の方々にもご協力いただきましたが、お世話になった地域の皆さんにぜひ映画を見ていただきたいです。
──今作では、不器用な大人たちの人生が描かれています。深川さんも30代に入られて1年がたちましたが、年齢を重ねていくことを今どのようにとらえていますか?
深川 自分が29歳の時は、女性が20代から30代になるのは大きなことだと思っていたんです。取材でも「どんな30代になりたいですか?」と聞かれることが多くなって、“どうしていったらいいんだろう”と、将来に向けて気難しく考えていたところもありました。私の身の回りの先輩は、皆さん口々に「30歳を過ぎてからが楽しいよ」とおっしゃっていて。皆さんがそうやって30代の世界をポジティブに迎え入れてくださったので、私も明るい気持ちで突入できました。20代の私はちょっと失敗して一気にヘコむということの繰り返しで、とにかく目の前にあることをひたすらやっていた10年間だったんですけど、30代はちょっと肩の力を抜いて、ゆとりを持って楽しく過ごしていけたらと思っています。
──肩の力を抜いてやっていこうと思った、きっかけみたいなものというと?
深川 思うようにできなくて失敗したり、理想が到達できなかったりしても“頑張るだけ頑張ったんだから、それが自分の実力なんだ”と思うようにしたんです。そうしたら、不思議と肩の力が抜けてきました。今回もそうですけど、いろいろな現場に素晴らしい先輩方がたくさんいらっしゃるので。すぐに追いつけるとは思ってないですが、“こうなれたらいいな”というものを皆さんから吸収していきたいです。
スノードームって心が癒やされるし、その旅行先でしたこともよみがえってくるので好きです
──では、ここからは深川さんの愛用のアイテムについてお聞きできればと思います。撮影現場に必ず持って行くモノは何ですか?
深川 すごく現実的なんですけど(笑)、ポータブル充電器とイヤホンが手元にないとソワソワしてしまいます。特に移動中は音楽を聴いたり映像を見たりするので、家に忘れるとテンションが下がります……。イヤホンは、ちょっと前にワイヤレスに変えました。ヘッドホンも持っていますが、仕事の時はイヤホンを持って行くようにしています。
──ほかに最近手に入れたモノはありますか?
深川 コロナ禍になってからプロジェクターを買いました。家にいる時間が多くなったので、家の中の居心地をよくしたいなと思って。インテリアを見直して、模様替えをしてみたりしたんです。そんな中、映画館にもなかなか行けない時期もあったので、プロジェクターで映画やドラマを大画面で見られたらいいなと思って。天井に取り付けるタイプなのですが、スクリーンがなくても家の壁にきれいに映るので、目も疲れないですし、操作も分かりやすくて、本当によかったなと思っています。
──ちなみに何かコレクションしているモノはありますか?
深川 趣味で集めているモノはあまりないのですが、スノードームだけは長年ずっと集めています。日本だと売られているところが限られるんですけど、外国のお土産屋さんでは定番というか、必ず小さいスノードームが売られているんです。最初は確か、台湾に行った時かな。スノードームって、地元にゆかりのあるものが外側の土台に彫ってあったりするのがかわいいんですよね。眺めているだけで心が癒やされますし、その旅行先でしたことも鮮明によみがえってくるので好きです。
今はちょっと、ついてないだけ
2022年4月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
(STAFF&CAST)
原作・伊吹有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫・刊)
監督・脚本・編集・柴山健次
出演・玉山鉄二、音尾琢真、深川麻衣、団長安田(安田大サーカス)/高橋和也
(STORY)
人気カメラマンとして脚光を浴びるも表舞台から姿を消した立花(玉山)はある日、シェアハウスで暮らし始めることに。そこには、失職した元テレビマン・宮川(音尾)、求職中の美容師・瀬戸(深川)、復活を望む芸人の会田(団長安田)ら不器用な人々がいた。ゆったりとした時間が流れる中、彼らは“心が本当に求めるもの”を見つけ出そうとする。
【映画「今はちょっと、ついてないだけ」よりシーン写真】
(C)2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
撮影/干川 修 取材・文/橋本吾郎