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2022/5/10 19:30

バッシングの嵐を乗り越えた加トちゃんとの「夫婦愛」——加藤綾菜さんインタビュー

加藤茶さんの妻として、今年結婚10周年を迎えた加藤綾菜さん。3月30日に自身初となるマンガとエッセイによる著書「加藤茶・綾菜の夫婦日記 加トちゃんといっしょ」(双葉社)を上梓。

 

いまでこそネットニュースに取り上げられるたびにその献身的な姿が絶賛される一方で、新婚当初は苛烈なバッシングに遭っていたことは、多くの人が覚えているのではないだろうか。今回はコミックエッセイをもとに、壮絶な日々と立ち上がるまでの過程と、同時に”一般人”綾菜さんが覗いた、やんごとなきスターの世界をうかがった。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:有山千春)

加藤綾菜●1988年4月12日生まれ、広島県出身。2011年に日本を代表するコメディアン・加藤茶さんと結婚。年齢差が45歳、年の差婚として話題になるもネットでは「財産目当て」や「保険金目当て」等とバッシングの嵐を受け続けた。しかし、現在は10周年を迎え、料理研究や介護資格取得など、その献身ぶりが注目されている

 

バッシングコメントは厚さ30センチ!

ーー2011年6月23日、近い関係者以外の誰にも告げずに入籍されたそうですが、数か月はバレなかったんですね。

 

加藤綾菜(以下、綾菜) バレる気配はまったくありませんでした。でも2、3か月後、ふたりで福岡から帰京すると、搭乗口に突然護衛の人がついたんです。なんだろうと思っていると、歩く先に200人くらいの報道陣がいる。「誰か有名人が来るのかな?」なんて思っていたら、その目当てが加トちゃんだったんです。

加トちゃんは報道陣にもみくちゃにされながら護衛の人に連れられて、顔バレしていなかった私は他の通路に誘導されました。

加トちゃんとはその後車内で合流するのですが、そこまでカメラマンが追って写真を撮っていました。そのときに私の手だけが撮られたようで、手のアップの写真とともに「これが加トちゃんの嫁だ!」と報道されたんです。その日、実家に電話をすると、「おばあちゃんの家まで週刊誌の人が来ているよ」と言われました。その日から、生活が一変しました。

 

ーーまずは週刊誌のネガティブな報道があったと、マンガに描かれていました。

 

綾菜 一番最初の週刊誌記事を覚えています。今では笑ってしまうんですが、「加藤茶の妻は、北川景子の親友!」。もちろんお会いしたこともありません。その後、「着物の似合う和風女性と結婚!」、わたし、ゴリゴリのギャルだったのに(笑)。

そのうち「私が加藤茶の妻、加藤綾菜です」という女性も現れました。さすがに驚き心配した加トちゃんのスタッフさんが、「そろそろ綾菜さんの存在を公開したほうがいいかもしれない」と気遣ってくださり、わたしは何も考えず、あ、いや、「盛れているほうがいいな」と考えて(笑)、ギャル姿で撮ったプリクラをマスコミに出したんです。そのころって、盛ることしか考えていなかったので(笑)。するとさらに報道が加熱しました。

 

ーーいつの間にか追われる立場になってしまったんですね。

 

綾菜 でも、このころは家から出ないようにしていたくらいで、特別に嫌な思いはしなかったんですよ。それから2か月後くらいでしょうか、うちの両親は広島で頑張って事業をやっていたのですが、「父親は漁師で、母親はホステス、金持ちの芸能人に娘を売った」という噂がネット上に書き込まれ、そこから「財産狙い&保険金狙いで結婚した」と叩かれるようになったんです。

同時期、バラエティ番組では「40歳年下の女性がおカネ目当てにおじさんに近づき、騙す」というコントをやっていたり、後妻業を取り上げた番組もありました。年の差結婚=手をかけようとしている、とうイメージが植え付けられたのか、「加トちゃんを助けてあげなきゃ」という正義感がバッシングが加熱したひとつの要因だと思います。

 

ーー「揚げ物料理を作ったら、『加トちゃんを殺す気か』とバッシングされた」というエピソードも書かれていましたね。のちに「苦言は加トちゃんを思うわたしへのアドバイスだと気づき、健康に気遣う料理を作るきっかけになった」と書いていましたが、バッシングも真摯にとらえる姿勢が印象的です。当時、どんな精神状態だったんでしょうか。

 

綾菜 あまり記憶にないのですが、ご飯が食べられなくなり痩せていって、「明日もなにかが週刊誌に書かれるのではないか」と思うと、眠れなくなっていきました。

 

ーーバッシングコメントを印刷したら、厚さ30センチ以上になったとも書かれていました。

 

綾菜 悪口を言われすぎて慣れてしまったというか、むしろ「なにか罰が当たったのかな」と思うほど追い詰められていたように思います。

 

ーーまわりのご友人はいかがでしたか?

 

綾菜 エッセイにも登場する、一緒に警察に行ってくれた友人は「悪口なんて気にしなくていいよ!」と常に寄り添ってくれました。加トちゃんの親友でもある井上順さんは心から励ましてくれましたね。

ただ、中には「足を引っ張られそうだから連絡してこないでほしい」とメールが来たり、友達だと思っていた子とご飯を食べていたとき、私が離席したタイミングで同行者の女性に「加藤茶の嫁だから、使えると思って仲良くしているんだ」と話しているのを聞いてしまったこともありました。今思うと、言われたい放題でしたね。

10代のときにいじめに遭った経験から、「心を許せる友達がほしい」とずっと思っていました。そのうえで20代でこの経験をしたことで、人の本質を見極めることの大切さを学んだように思います。それを経て、いまは周りの友達がかけがえのない子ばかりで、すごく楽しです!

 

加トちゃんの「10年辛抱」の言葉に

ーー綾菜さんに降り掛かった世間の声や人間関係は、想像を絶するしんどさだと思います。どうやって乗り越えたれたと思いますか?

 

綾菜 結婚によりいろいろな環境が変わり、世間からも身近な方からもバッシングされて、ここ数年でそれが一転し、ポジティブな声が届くようになりました。とてもうれしい一方で、「こんなに簡単に、記事ひとつで周りの反応が変わるんだ」と思ったんです。「連絡しないで」と言った子からも「遊ぼうよ」と連絡がきましたし。

それで、「自分が強くならないと危ない」と実感したんです。ブレない芯がないと、褒められたらすぐに調子に乗ってしまうし、叩かれたらいちいち落ち込んでしまうから。「すべてに動じない自分になりたい」と思ったんです。

 

ーー加藤茶さんはバッシングの最中に、バッシングに言及することはなく、ただ「10年辛抱だよ」と言っていたことが描かれていましたね。

 

綾菜 「非難があったとしても、10年間誠実に生きていれば、それがすべて称賛に変わるときがくる。どんなに辛いことがあっても、絶対に誠実に生きることをやめちゃいけない」と言われました。そのときはその言葉をまったく理解できませんでした。こんなに嫌われているのに、1人でも「好き」だと言ってくれる人なんて、絶対に現れるわけがない! と思っていたから。

でも10年経ったいま、本当にそうなって。「オイラが言うことって当たるだろ?」とドヤ顔をしていましたね(笑)。

私が泣きながら落ち込んでいるときに、隣でずーーっと「強くなれ強くなれ強くなれ」って言われたこともありました。でもそんなことを言われたって、「そう簡単に強くなれんわ! 私の気も知らないで!」と思うじゃないですか。

とはいえ、加トちゃんと離婚することはないし、周囲の環境が変わるわけでもない。周りが変わらないなら自分が強く変わるしかないんだろうな、と。

それに、お先真っ暗だと思っていると夫婦関係にも響いてしまいます。私の一番の目標は「家族が仲良しでいること」なので、何があっても加トちゃんと仲良くすることだけを考えていれば、周囲に惑わされず希望が生まれる気がします。

 

 

突如放り込まれた華々しきセレブの世界

ーー綾菜さんの結婚は、シンデレラストーリー的な側面もあるかと思います。マンガでも、加藤茶さんが「サインは日本の人口分くらい書いてきた」と言うなど、芸能人と一般とのギャップが楽しめますが、ほかにもギャップを感じたことはありますか?

 

綾菜 いままで生きてきた世界が違いすぎて、最初は芸能界のことを理解することすら、大変でした。たとえば、加トちゃんの舞台についていったとき、楽屋を挨拶してまわらなければいけないとか、それを知らずに楽屋でコーヒーを飲みながらテレビを見ていたら、スタッフさんに注意されたこともあります。そういうことに関して、加トちゃんは何も言わないんですよ。

あとは、結婚した年から加トちゃんが毎年参加している忘年会に同行することになったんです。芸能人のかたのほか、一流企業の社長やスポーツ選手など、めまいのするようなメンバーで……。

そんな場所に生まれてこのかた行ったことがないですし、悩んだあげく、3800円のワンピースで参加しました。みなさんきっと桁違いのお金持ちでしょうし、無理をして10万円のドレスを着るよりも、背伸びせず等身大のままいつものワンピースを選んだんです。

 

ーー周囲の反応はいかがでしたか?

 

綾菜 マダムたちが優しくて、「こういうところ、初めて? かわいいじゃないの」と、意外にも受け入れてくださって。とはいえ、振る舞い方などまったくわかりません。張り付いた笑顔で出されたものを食べるしかできませんでしたね。

そもそもテーブルマナーもあやふやで、フォークやナイフを使わずにすむように、ずーっとパンをもそもそと食べていました(笑)。

それで、いつの間にかわたしの前に挨拶のマイクが回ってくるんです。ひとりだけ一般人なのに喋らなきゃいけないなかで、記憶にないくらいのことを喋ったら、誰もなにも反応してくれなくて。しーーーーん、と。それからプレッシャーに耐えられなくて、極力喋らないように、気配を消すようにしていたんです。

そんな私を見たとある大御所芸能人の方が、「あなた、旦那さんをたてることを覚えなさいね」と、ピシャリと言ってくださったんです。そこで、「ブスッとしているように見えたのかもしれない」と意識を改めて、家で自然な笑顔の練習とかをするようになりました(笑)。

 

ーー聞いているだけで胃が痛くなります(笑)。

 

綾菜 そうですよね(笑)。それから3年間くらいは緊張しっぱなし、ガチガチ状態でしたが、マダムたちのすごい規模の話を聞いているうちに、「すごい世界に生きている人の話って、面白い!」と気付き、こちらから質問をするようになったら、みなさん優しく教えてくださり……という感じで、仲良くしてくださるようになりました。

そのうち大御所の方からも「あんた、がんばっているじゃない」とねぎらいの言葉をもらえるようになりました(笑)。

 

ーー加藤茶さんファンの方の苦言を受け入れ成長する、ということに通じるものがありますね。

 

綾菜 加トちゃんがよく言うんです。「一生懸命にやっていたら、人の欠点なんて見えてこないよ」と。つまり、愚痴を言う必要がなくなるということなんですが、そういったことを間近で教えてくれる加トちゃんと、加トちゃんを大事に思ってくださる世間のみなさんに育ててもらって、大人になることができたと思っています。

 

【書籍情報】

加藤茶・綾菜の夫婦日記『加トちゃんといっしょ』

著者:加藤綾菜
価格:1320円(税込)
発行:双葉社

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/B09WHVN4BX/ref=dp_kinw_strp_1
楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/17071406/