“21世紀の不幸を科学する”をコンセプトに松尾スズキ氏が立ち上げた「日本総合悲劇協会」。その第一作として1996年に発表した『ドライブイン カリフォルニア』が新たなキャストで18年ぶりに再再演される。そこでGetNavi webでは気になる出演者の中から主演の阿部サダヲさんとカンパニー最年少の河合優実さんをフィーチャー。まずは松尾作品二度目の出演となる河合さんに、前作『フリムンシスターズ』の思い出、そして今作への思いをたっぷりとうかがった。
【河合優実さんの撮りおろし写真】
2年前に初めて体験した松尾さんの舞台は、私にとって挑戦というよりご褒美でした
──松尾スズキさんの舞台は2020年のミュージカル『フリムンシスターズ』に続いて2作目の出演となりますね。
河合 はい。もともと大人計画のファンだったんです。どんなきっかけで大人計画の存在を知ったのかは明確に覚えてはいないのですが、宮藤官九郎さんのドラマもよく拝見していましたし、潜在的にずっと追いかけていて。ですので、『フリムンシスターズ』への出演が決まった時は、まさか自分が松尾さんの舞台に立てるとは思わなくて、ビックリしました。
──その時の稽古はいかがでした?
河合 いろんなことが衝撃的でした(笑)。一人ひとりがモンスター級の俳優さんたちですし、皆さんすごく楽しそうにお芝居をされていて。それを見ているだけでも幸せでした。それに、私はずっと歌とダンスをしていて、舞台に立ちたくてこのお仕事を始めたので、『フリムンシスターズ』への参加は、挑戦というよりご褒美みたいに感じていて。コロナ禍でまわりの方たちがいろんなことに不安を抱えている中、自分だけこんなに楽しんでいいのかなって思っていたぐらいでした。
──3年前にデビューされ、これまでは映像の仕事が多かったかと思いますが、舞台の面白さはどんなところだと感じましたか?
河合 分かりやすい部分でいえば、稽古があるかないかというところに大きな違いがあります。約1カ月かけて稽古を重ねていくと、“このメンバーで作品をつくっているんだ!”という強い一体感が生まれる。映画も共同作業なのですが、やはり実感としては舞台の方が強いですね。私はそこがすごく楽しいですね。
──稽古自体に緊張はなかったんでしょうか?
河合 前回はミュージカルということもあり、特に私の役は歌ったり踊ったりすることが多かったので、楽しさしかなかったですね。また、それぞれが考えたお芝居を稽古場で試し、それが少しずつ形になっていく過程をみんなで見守っていくという作業にも面白さを感じていました。
──では、今回の出演も喜びが大きかったのでは?
河合 驚きました。松尾さんが『フリムンシスターズ』の公演中に決めてくださったみたいで、私が知ったのも大阪公演の大千秋楽直後だったんです。東京に着いて、大きなスーツケースをゴロゴロと転がしながら帰っている途中に連絡を頂いて。“松尾さんとの舞台が終わっちゃった……”と思っていたら、すぐに次が決まったので(笑)、最初は本当に信じられなかったですね。
──こうして再びオファーがきた要因は何だったと思いますか?
河合 え〜、分からないです。私が松尾さんにお聞きしたいぐらいです(笑)。ただ、当時「ありがとうございます。頑張ります」と松尾さんにお伝えした時、『もう21歳でしょ。大丈夫だよ、君ならできるよ』と言っていただいて。その言葉に勇気を頂きましたし、その瞬間から2022年が来るのを待ちわびてました(笑)。
稽古場で見た阿部サダヲさんは、ちょっと理解できなさすぎる生物でした(笑)
──今回の『ドライブイン カリフォルニア』は再再演になりますが、ご覧になられたことはありますか?
河合 2004年の再演版を映像で拝見しました。その後に戯曲も読んだのですが、自分が演じるエミコの役が(再演時の)小池栄子さんの声でずっと再生されてしまって。役のことを考えるたびに、小池さんの影がちらついてます(笑)。ただ、こうした“再演”って舞台特有のものですし、これまでいろんな役者さんがこの作品に挑み、歴史を作ってきたんだということをしっかりと受け止めながら、自分らしく演じていけたらなと思っています。
──作品自体にはどのような印象を持たれましたか?
河合 この作品のほかに昔の大人計画の舞台映像も拝見したのですが、基本的にずっとカオスだなと感じました。いろんな傷や不幸を背負った人間たちがそれらを一つの場所に持ってきてしまったことで、いつしか全てがごちゃ混ぜになりながら物語が進んでいくという印象があって。前回の『フリムンシスターズ』は珍しくハッピーエンドでしたけど、この『ドライブイン カリフォルニア』は悲劇で終わる。それに悲劇といっても、優しさやぬくもりが後味として残るような印象もありました。……とはいえ、ほかの過激な作品に比べて穏やかな登場人物が多いからそう感じるだけで、冷静に考えたら、全然そんなことないんですけど(苦笑)。
──エミコ役についてはどのように演じていこうとお考えですか?
河合 彼女は一見すると、明るくて気立てのいい子なんです。実際は彼女なりに抱えているものがあるんですが、物語の序盤ではにぎやかな存在でいられたらなと思ってます。また、彼女はドライブインで働いていて、その場の「身内」ではあるんですが、過去を知らない新参者でもある。それが、この作品における、先輩方と私自身の関係性にも似ているような気がしていて。ですから、そうした重なる部分をうまく役に活かしていけたらなと思ってます。あと、ワクワクしているのが皆川(猿時)さんとの共演。今回は夫婦役なんです! そこが本当に楽しみですね。
──その皆川さんや主演の阿部サダヲさんとは『フリムンシスターズ』でも共演されていましたね。
河合 はい。お2人とも、舞台を拝見するといつも弾けていらっしゃるのに、稽古場ではすごく物静かで、最初は戸惑いました(笑)。皆川さんはまだ、バックヤードでずっとセリフを練習されていて、自分の出番になるとそれを爆発させていたので、どうにかこうにか舞台で見るお姿の片鱗をうかがうことができたんです。でも阿部さんに関しては、いつどこで何を考えてあんな表現ができるのか、まったく分からなくて。それでいて全部のお芝居が面白い。ちょっと理解できなさすぎる生物でした(笑)。天才ってこういう方を言うんだろうなと思いましたね。
──そうしたモンスター級の人たちを松尾さんがどのように演出されているのかも気になります。
河合 作品から受ける印象だと怖い方なのかなと思っていたのですが、すごく優しい方でした。ただ、中途半端なことをすると目の奥に厳しさを感じる時があります(笑)。面白いこと、楽しいことに対して、ものすごく目が肥えていらっしゃると思いますし。
──ということは、怖い存在なんですか?
河合 いえ、優しい方です……あ、でも、やっぱり怖いですね……いや、やっぱり優しいです(笑)。ただ、あの厳しい目をずっと向けられている大人計画の皆さんって、本当にすごいなって思います。
前回の再演で演じた小池栄子さんの幻影を自分の中に落とし込むくらいの気持ちで
──河合さんとしては、今回の作品に対して、どんなところを意識して向きあっていきたいと思っていますか?
河合 前回の『フリムンシスターズ』はミュージカルで、しかも新作でしたので、0から生み出す稽古でした。でも、今回は再再演ということで松尾さんの中でブラッシュアップさせていく作業になりそうで、そうした前回とは違う稽古に、私も新たな気持でしっかりとついていきたいなと思っています。怖がらず、気張りすぎず、フラットに。……いや、絶対にフラットでいられないと思うのですが(笑)、のびのびと演じられるように頑張ります。
──早く小池さんの声が頭から消えるといいですね(笑)。
河合 そうですね(笑)。ただ、映像を一度見て、頭にインプットされた以上、こればっかりはもうしょうがないのかなと思っていまして。もちろん、自分で新しいエミコを作っていきたいと思っていますが、時には小池さんが演じたエミコが無意識に出てくると思うんです。けどそれは、自分の中に残り続けるある意味でひとつの正解の形だといえますし、もしくは変える必要のない面白さとも言える気がしますので、無理に違う表現を模索するのではなく、うまく自分の中に落とし込んでいけたらなと思っています。
──では、初めて演劇をご覧になる方に向けて、河合さんが感じる舞台の楽しみ方を教えていただけますか?
河合 映画でもテレビでも感じられないものが体感できる、そこがまず大きな違いだと思います。昨年、松尾さんの代表作である『マシーン日記』を大根仁さんが演出して再演した舞台を拝見したのですが、改めて心を蹴破られたような衝撃を受けて。松尾さんにそのことをお伝えしたところ、「まだこの物語で若い人にそう感じてもらえることはすごく嬉しい」とおっしゃっていたんですね。ですから、私と同年代の若い方にもたくさん劇場に足を運んでいただいて、同じ衝撃を感じてもらえたらなと思っています。
──最後に、GetNavi webということで、ご登場いただく皆さんに最近購入したものをお聞きしているのですが、どんなものがありますか?
河合 少し前から一人暮らしを始めたので、今はいろいろと買い揃えているところなんです。最近だとローテーブルを購入しました。実家からはテレビしか持ってこなかったので本当に何もなくて(笑)。次はラグが欲しいな、なんて思ってます。そうやってお部屋に合うものを探している時はすごく楽しいですね。今のところ、一人暮らしも満喫していますし。……と言いながら、これからちょっとずつ寂しくなっちゃうのかもと思ってますが(笑)。
日本総合悲劇協会Vol.7『ドライブイン カリフォルニア』
【東京公演】 2022年5月27日(金) ~6月26日(日) 本多劇場
【大阪公演】 2022年6月29日(水) ~7月10日(日) サンケイホールブリーゼ
(STAFF&CAST)
作・演出:松尾スズキ
出演:阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背 椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介
撮影/中田智章 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/上川タカエ(mod‘s hair)スタイリング/?田達哉