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2022/5/27 6:30

阿部サダヲ「自分からは遠い存在の作品だと思っていたので、出演が決まった時は驚きました」

“21世紀の不幸を科学する”をコンセプトに松尾スズキ氏が立ち上げた「日本総合悲劇協会」。その第一作として1996年に発表した『ドライブイン カリフォルニア』が新たなキャストで18年ぶりに再再演される。“悲劇”をテーマにしながらも、ユーモラスな人間模様を描いたこの作品で主演を務めるのは阿部サダヲさん。大人計画の本公演ともひと味違う本作の魅力についてお話をうかがった。

阿部サダヲ●あべ・さだを…1970年4月23日、千葉県出身。1992年、大人計画の舞台『冬の皮』でデビュー。1995年に結成したバンド・グループ魂ではボーカルの「破壊」として活動。最近の主な出演作に、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』、映画『MOTHER マザー』など。現在、映画『死刑にいたる病』が公開中。6月26日(日)よりドラマ『空白を満たしなさい』(NHK総合)を予定している。

【阿部サダヲさんの撮りおろし写真】

自分に当て書きされた役じゃないからこそ、自由に楽しめると思えるようになりました

──『ドライブイン カリフォルニア』は再再演になりますが、阿部サダヲさんが出演されるのはこれが初めてになります。出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

 

阿部 驚きました。僕の中で『ドライブイン カリフォルニア』って、“阿部サダヲ”とは遠いところにある作品というイメージを持っていたんです。松尾(スズキ)さんが脚本を書いてはいますけど、僕が出ることはないだろうなって思っていて。ましてやアキオはこれまで初演では徳井(優)さんが、再演では小日向(文世)さんが演じてらした役なので、それを僕が演じることも意外で。

 

──どういった点にそれほどの意外さを感じていらっしゃったのでしょう?

 

阿部 初演が1996年で、僕が26歳の頃だったんですよね。大人計画に入ってまだ3〜4年目ぐらいで、客席で見ながら、ほかの大人計画の作品とは作風がちょっと違うなって思ったのを覚えてるんです。物語も、セットもいつもよりおしゃれでしたし。それに、大人計画の公演ではなく、日本総合悲劇協会としての作品でしたから、僕や宮藤(官九郎)さん、皆川(猿時)さんといった劇団員もあまり出てなくて。そうした“別世界の作品”という記憶があったので、今回声をかけてもらったことに驚いたんです。

──では、出演の話がきた時は少し迷われたんですか?

 

阿部 いえ、それはなかったです。松尾さんから直接「この役をやってくれないか」と言われたわけではないのですが、近年はあまり演じたことのない役を再演で任せていただくことが増えてきたので、そういうふうに見てもらえているのかなという嬉しさもありましたし。それに、改めて戯曲を読み返してみたら、アキオの役をちょっと演じてみたくなったんです。松尾さんが僕に当て書きしたものではないからこそ、興味が沸いて。……あ、でも、少し照れもありましたね(笑)。長年、一緒にやっている大人計画のメンバーの前でこれを演じるのかと思うと、なんとも言えない気持ちになって。特に冒頭のセリフとか、どういう感じで言えばいいのかなって。そこは今からすごく恥ずかしいです(笑)。

 

──こうした人気の再演作品に初めて挑む役で出演するのはやはり緊張しますか?

 

阿部 昔は確かに、“やだなぁ”っていう思いがありました。“前回演じた人がまたやればいいのに”って(笑)。例えば、2012年に出させてもらった『ふくすけ』って、初演(1991年)では温水洋一さんが演じてらして、2001年の『マシーン日記』は初演(1996年)が有薗芳記さんだったんです。どう考えても初演の役者さんのほうがインパクト強いじゃないですか(笑)。それを再演で新たに演じなきゃいけないって、正直つらいですよね。ただ、そうした気持ちも最近ではちょっとずつ薄れてきて。開き直ったわけではないんですけど、逆に面白く感じるようになりましたね。

 

──それは何かきっかけがあったのでしょうか?

 

阿部 2018年に『ニンゲン御破算』をやらせてもらったことが大きいです。初演(2003年/当時は『ニンゲン御破産』)で中村勘三郎さん(当時は勘九郎)が演じてらした役でしたので、明らかにお芝居のスタイルも、役者としてのキャリアも、人間性も違うから、“もう、どうなったっていいや”って思えて(笑)。それからは考えても仕方がないなって思えるようになったんです。むしろ、自分に当て書きされたものではない役なら、逆にいろんなことができそうだなって。

普遍的で分かりやすい物語。普段、舞台を観ない方にこそおすすめしたい作品です

──アキオ役については、今どのような印象をお持ちですか?

 

阿部 弱い男ですよね。主人公っぽくないところもあるし。それに、言葉に負けちゃう人でもある。自分の気持ちをうまく出せないところがあるので、共感を持ってくれる人は多いのかなって思います。あと、彼は主人公なのに、そんなに出ずっぱりじゃないところもいい(笑)。にも関わらず、まわりの人間がアキオのことをたくさん語ってくれるから彼の印象だけが残って。本当、いい役だなって思います(笑)。

 

──(笑)。また、妹のマリエ役には麻生久美子さん。2019年の大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』(NHK総合ほか)や、舞台『キレイ〜神様と待ち合わせした女〜』(2019-2020年)でも共演されています。

 

阿部 麻生さんは何でも出来る方という印象ですね。シリアスな作品からコメディまでこなされていて。それに勝手なイメージですけど、脚本に対して、「これはどうしてこうなるんですか?」と聞かなさそうな雰囲気がありますよね(笑)。というのも、松尾さんはそうやって聞いてくるタイプの役者が苦手っぽい気がして。だからこそ、松尾さんは麻生さんともよく一緒にお仕事をされているのかなと思います。だって、“どうしてこうなるの?”っていう疑問を持っていたら、松尾さんの作品なんて出られませんから(笑)。説明がつかなくて、訳が分からないところがたまにありますし。もちろん、そうした難解さも面白さのひとつで、僕も大好きなところなんですけど。

──とはいえ、先ほど阿部さんもおっしゃっていましたが、この『ドライブイン カリフォルニア』は、いわゆる大人計画の作風とは少し毛色が違い、とても分かりやすい物語になっていると感じます。

 

阿部 そうなんです。物語がすごくしっかりしている。それに、どの時代でも通用する普遍性があるから、こうして時間を経ても再演されるんでしょうし。その意味では、まだ舞台を一度も観たことがないという人にもおすすめしたい作品ですね。反対に、普段僕たちの作品をよくご覧になっている方にとっては、僕がこのアキオを演じる姿に新鮮さを感じていただけるのではないかと思います。

 

──初演が96年で、阿部さんは当時26歳だったというお話をされていましたが、当時と今とで松尾さんの演出に違いは感じられますか?

 

阿部 優しいところはずっと変わらないですね。というより、以前よりももっと優しくなっているかもしれないです。大人計画のメンバーも年齢とキャリアを重ねてきているので、お互いの実力が分かってきているからというのもあるのかもしれませんが。あと、変わらないところと言えば、“あんまりこっちを見ないでくれ”という雰囲気を出しているところです(笑)。ようは、“演出家の顔色をうかがうな”っていうことなんですが、たまーにいるんです。稽古中に、松尾さんが笑っているかどうかを確認する人が(笑)。それはあまり好きじゃないみたいです。それぐらいかな。怒鳴っている姿を見たこともないですし。それは大人計画の公演でも、プロデュース公演でも同じで。役者さんが無理してそうな演技をしていると、すぐに演出を変えて別の方法を考えたりして。そうしたところにも優しさを感じます。

 

──では、演出の面以外で変化を感じるところは?

 

阿部 そうですね……台本を書くのは早くなったかも。以前は稽古をしながら台本を作り上げていくということが多かったんです。でも、2年前に僕も出させてもらった『フリムンシスターズ』は稽古前には出来上がっていて驚きました。

今気になっているのは六波羅蜜寺の空也像の模型。初めてフィギュアを買ってみようかと思ってます

 

──古いお話になりますが、阿部さんは役者になる前、家電量販店にお勤めでしたね。やはり家電がお好きだったんですか?

 

阿部 ……いや、それが違うんですよ(苦笑)。僕は楽器が好きで、そっちの売り場に行きたかったんです。でも、その第一希望が通らなかったことでやる気もなくなって。そこから僕の役者への人生が始まった感じですね。

 

──では、普段家電を買われる時は……。

 

阿部 基本的に奥さん任せですね。ただ、最新家電を触るのは好きです。最近のものって音声機能があって、給水する時に「ありがとうね」ってしゃべりかけてくれたりして面白いじゃないですか。そういえば、先日うちの奥さんが給水したら、「おおきに」って関西弁でしゃべったっていうんです。そんなことってあります?(笑)

──方言機能ですか?(笑)

 

阿部 聞いたことないですよね。で、少し調べてみたら、ないことはないみたいで。ただ、奥さんが耳にしたような会話は絶対になさそうでした。「苦労かけてすまんのぅ」みたいな(笑)。

 

──そんな機能があれば和みそうですけどね(笑)。ちなみに楽器が好きだったということは、何かお持ちなんですか?

 

阿部 いえ、店を辞めてからは一切興味がなくなりました。大人計画でグループ魂を始める前に宮藤さんたちと四天王っていうバンドを組んでいたんですけど、その時、「ギター弾けます」って嘘をついて。すぐにバレましたけどね。「阿部くん、これチューニングもできてないよ」って言われて(笑)。それからは、「僕はもう、何も楽器はやりません」って宣言しました(笑)。

 

──では、最近購入されたお気に入りの家電や、普段コレクションされているものなどはありますか?

 

阿部 最近買ったものといえば、プロジェクターですね。popIn Aladdinというメーカーが出している室内照明にもなるもので。それを使って、夜中にテレビやNetflixを見たりしています。最近見たのは『永遠の門 ゴッホの見た未来』。仕事でゴッホについて知る機会があり、その流れで見たのですが、主演のウィレム・デフォーが本物そっくりで(笑)。作品自体もちょっとドキュメント風になっていて面白かったです。コレクションしているものは……特にないかなぁ(苦笑)。そもそも、あまりそういう習慣がないんです。……あ、でも、京都の六波羅蜜寺というお寺に空也の像があり、それをわざわざ観に行ったことがあるんです。そうしたら現地で、「今、上野の博物館に行ってるから、ここにはいないよ」って言われて(笑)。そんな近いところにいたのかと悔しくなりましたね。その展覧会でフィギュアが売っているらしく、それはちょっと欲しいので、今度初めてフィギュアを買ってみようかなと思ってます。

 

日本総合悲劇協会Vol.7『ドライブイン カリフォルニア』

【東京公演】 2022年5月27日(金) ~6月26日(日) 本多劇場
【大阪公演】 2022年6月29日(水) ~7月10日(日) サンケイホールブリーゼ

(STAFF&CAST)
作・演出:松尾スズキ
出演:阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背 椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/中山知美 スタイリスト/チヨ(コラソン)