1970年代にドラマ化され、一世を風靡した『西遊記』が装いも新たに豪華キャストで舞台版としてかえってくる。片岡愛之助さん演じる孫悟空らと一緒に三蔵法師のお供として天竺に向かう猪八戒役には戸次重幸さん。かつて西田敏行さんが演じ、コミカルさと愛嬌たっぷりの存在感で人気を博したこの役に、果たしてどのような生命を吹き込んでいくのか──。会話の中にも“西遊記愛”と“猪八戒愛”が溢れ出る戸次さんに、舞台への意気込みを伺いました。
【戸次重幸さん撮り下ろし写真】
大泉洋とずっと物まねをして遊んでいたぐらい猪八戒が大好きなんです
──絢爛豪華なキャスト陣が集結した舞台『西遊記』が間もなく開幕します。最初に、出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
戸次 純粋に嬉しかったです。僕と同世代の方なら共感してもらえると思いますが、『西遊記』といえば堺正章さん主演のドラマの印象が強く、僕も大好きでした。もちろん、今作は当時のドラマの舞台化ではないのですが、とにかく『西遊記』という作品に携われることが幸せで。しかも、この共演者ですからね。誤解を恐れずに言うなら、お客さま以上に僕自身がこの舞台の稽古と本番を楽しみにしている自信があります(笑)。
──このインタビュー時はまだ稽古前の段階ですが、すでに台本は読まれたのでしょうか?
戸次 ええ。共演者の方々とも話したのですが、みんな口を揃えて言うのが、“新しい西遊記になっている”ということなんです。二部構成の舞台で、第一部は誰もが知るエピソードが盛り込まれ、第二部は完全オリジナルになっている。特に第二部は“ザ・エンターテインメント”といえるほど、さまざまなキャラクターが登場し、派手な演出も用意されているので、かなりの壮大さと新鮮さを感じていただけると思います。何より、僕が猪八戒を演じるというのが意外ですよね。だって、豚の妖怪なのに太っていないんですから(笑)。その意味では、“もしかして、かなり新しい部分を担っているんじゃないか……!?”という強い重責も感じています(笑)。
──猪八戒といえば、やはりドラマで演じた西田敏行さんのイメージが強いです。先日の製作発表の際、戸次さんも猪八戒役の西田さんをリスペクトされているとお話しされていましたね。
戸次 子供の頃から大ファンでした。大学時代も、よく大泉(洋)と一緒に物まねをして遊んでいましたね。例えば、美女に出会ったときの福島弁なまりの猪八戒のセリフとか。「あんれ、これまた、めんこい子でね~の」って(笑)。堺さん演じる悟空との掛け合いなんて、極上のコントを見ているようでしたから。それと、大好きだったのが猪八戒の筋斗雲で。彼の雲にはハンドルが付いているんですよ(笑)。で、たいてい黒煙をはきながら墜落していく。「あらぁ、調子悪いなぁ、あら、あら、あらららぁぁぁ〜〜〜」って(笑)。
──物まねがどれも激似なのに文字では伝わらないのがとても残念です(笑)。そうした熱い想いを、直接西田さんにお伝えしたことはあるんですか?
戸次 これが実はあるんですよ。30歳の頃にTEAM NACSが北海道から東京に進出して、個人としてもいろんなお仕事をさせていただくようになったのですが、僕が初めて東京で出演した舞台をたまたま西田さんが観に来られていたんです。それで、終演後に飲み会を開いてくださって。その後に下北沢のスナックにまでお呼ばれして(笑)。そのとき、ここぞとばかりに僕の“西遊記愛”を語り、当時のいろんなエピソードを根掘り葉掘りお聞きしました。やはり悟空と猪八戒の掛け合いの面白さは堺さんと西田さんのアドリブだったことなどを教えていただき、僕にとっては忘れられない、夢のような一夜でしたね。その西田さんが演じられた役を、約20年後に自分が演じるわけですからね。嬉しさや感慨がありつつ、まだどこか現実味がわかないというのが正直なところです。
──そこまで思い入れのある役だと、お芝居にも無意識のうちに西田さんの猪八戒像が滲み出そうですね。
戸次 どうなんでしょうね。でも、きっとオマージュ的な部分は少なからず出てしまうと思います。それに、台本を読む限り、マキノノゾミさんが書くセリフにも、“これ、西田さんが漏れ出てるよな……”というところがいくつかあるんです(笑)。ですから、もはや切り離せない部分があるんだと思います。とはいえ、そうやって過去の西田さんの素晴らしい猪八戒の表現を継承しつつ、やるからには戸次重幸なりの新しい猪八戒もお見せしていきたいなと思っています。
松平健さんの牛魔王、眼力だけで割り箸程度なら折れそうな迫力
──演出の堤幸彦さんとは2015年の舞台『スタンド・バイ・ユー ~家庭内再婚~』ですでに一度お仕事をされていますね。
戸次 舞台はそれ以来になります。ほかの作品でも、ドラマ『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』でゲスト出演させていただいたぐらいで。
──舞台の演出にはどのような印象をお持ちですか?
戸次 稽古中、役者に対して、いい意味でどこまで本気か分からない泳がせ方をする方ですね(笑)。「これ、本当に本番でもやるつもりですか?」と聞きたくなるような動きを我々に求めてくるんです。それで結局本番ではやらない(笑)。でも、きっとそれは堤さんの作戦のひとつで。そうやっていろんな方向性のお芝居を役者にやらせることで、最終的に“これしかない”と残る正解を浮き彫りにしていっているんだと思います。ですから、今回もそのムチャブリのような術中にはまりながら、楽しく、いいお芝居を作っていけたらなと思っています。
──お話を伺っているだけでも稽古が楽しそうです。
戸次 すごく楽しいですよ。でも、怖さもあります。というのも、堤さんは特に僕で遊びたがるんですよ(笑)。僕がなんでも言うことを聞くと思っているのか、“それ、絶対に作品を壊しちゃいますよ!?”というような演出を要求してくるんです(笑)。
──それだけ信頼が厚いということなんでしょうね。
戸次 どうなのかな(笑)。でも、そうだとしたら、役者にとってこれ以上嬉しいことはないですね。
──また、孫悟空を演じる主演の片岡愛之助さんとは昨年、舞台『奇人たちの晩餐会』で共演されました。そのときの印象はいかがでしたか?
戸次 皆さんがイメージされる、そのままの方です。裏表がなく、ユーモアがあって、それでいてお名前のとおり愛に溢れている。我々役者やスタッフたちだけでなく、お客さまのことをすごく愛していらっしゃって。また、御本人もおっしゃっていたことですが、愛之助さんは父子相伝で歌舞伎役者になられたわけではなく、養子として歌舞伎の世界に入られた方なので、役者の仕事が出来ることに対して感謝の気持ちでいっぱいなんですよね。だからこそ、誰に対してもとても優しく、愛に満ち溢れていらっしゃるんです。
──そんな愛之助さんが演じる孫悟空がとても楽しみです。
戸次 まだ稽古前ですが、僕の中ではすでに明確なイメージが出来あがっています。きっと朗らかさがあり、陽気な孫悟空になるのではないかなと。それに、マキノさんが書かれる悟空はすごく頼れる男なんですよ。それがとにかくかっこいい。堺さんが演じられた悟空もかっこよかったですが、お師匠さんを大事にしつつ、ちょっと暴れん坊のイメージがあったと思うんです。でも、今回の悟空にはハードボイルドさがあって。それを愛之助さんがあのミステリアスな笑顔で演じるわけですから、想像するだけで楽しみです。なんといっても、僕は笑顔の信用できない役者さんが大好きなので(笑)。
──(笑)。その嗜好はいろんなところでお話しされていますね。ご自身が作・演出される舞台のキャスティングでも“笑顔の信用できない役者を選ぶ”とよくおっしゃっています。
戸次 ええ。愛之助さんはその筆頭ですから(笑)。もちろん、これはお芝居の上での話ですし、僕にとっては最大級の褒め言葉です。本当に心から笑っているのか、それとも裏で何かを企んでいるのか……。そうやって勘ぐって見てしまうような演技をされる方が大好きで。その意味でも、愛之助さんはきっとこれまでにない悟空像を見せてくれるのではないかと思います。
──ほかにも、三蔵法師役の小池徹平さんや沙悟浄役の加藤和樹さんなど、豪華な旅の一行になっていますね。
戸次 お二人とも初共演なんです。ですから、どんな稽古になるのか楽しみですね。僕は本番以上に稽古が大好きなタイプなので、今からワクワクしています。また、『西遊記』のいちファンとして楽しみにしているのが松平健さん演じる牛魔王です。製作発表の場で初めてお会いしたのですが、存在感といいますか、醸し出すオーラや圧が半端なくて。目をカッと見開いたら割り箸程度なら折ることができるんじゃないかと思えるほどでした(笑)。まさに、牛魔王ですよ(笑)。それにキャラクターの設定も素敵なんです。台本を読むだけでも、人間の弱さを持った牛の妖怪という感じがして。それを松平さんがさらにどのように表現されていくのか、楽しみは尽きないです。
──牛魔王との立ち回りはあるんですか?
戸次 それについては本番までのお楽しみということで(笑)。ただ、猪八戒の殺陣はふんだんにあるということはお伝えしておきます。とはいえ、ちょっとだけ僕のなかで不安要素がありまして。日本刀を使った立ち回りは大好きですし、得意でもあるんですが、猪八戒が持っているのは鍬なんです。ビジュアル撮影のときに持ってみたのですが、これがとてつもなくバランスが悪い(苦笑)。日本刀は剣先が軽くて柄が重く、すごく振りやすい構造になっているのに対して、鍬は先端が重いんです。農具なので当然なんですが、これまで培ってきた殺陣のノウハウが生かされるかどうかが怪しくて。もしかすると、本番では撮影時のものとは違う鍬を用意していただけるのかもしれませんが、そこは課題の一つだなと感じています。
──なるほど。そのほか、稽古以外で楽しみにされていることはありますか?
戸次 やはり、稽古後の飲み会でしょう! と言いつつ、ここにも一つ懸念材料がありまして。今回はアンサンブルの方が18名もいるんです。さすがに全員を引き連れてお店に行くのは無理なので、どうしようかなと頭を悩ませています(笑)。
──稽古後の飲み会でのコミュニケーションは大切ですし、ちょっとずついろんな稽古場でも、そうした時間を作ることが解禁されてきていると聞きます。
戸次 そうなんです。それに、こうした飲み会を開くのは年上の義務だと思っているんです。というのも、以前、中井貴一さんと舞台で共演させていただいたとき、何度も飲みに連れていってもらったんですね。そのたびに恐縮していたのですが、貴一さんが言うには、「僕たちも先輩たちにたくさん奢ってもらってきて、その御礼をシゲたちに返しているだけだから」と。「だからシゲにも後輩ができたら、俺への御礼として後輩たちに同じように奢ってあげな。役者の付き合いってそういうものだから」とおっしゃったんです。その言葉が僕のなかに金言として残っていて。だからこそ、若い子たちを飲みに連れていきたいと思っているんです。とはいえ、もしかしたら、そもそも僕と飲みたくないと思っている人もいるかもしれませんけどね(笑)。そこは稽古を通して、探っていきたいと思っています。
今、“張り子”に多大な可能性を感じています
──ここからは、GetNavi webということで家電やマイブームのお話もうかがっていきたいのですが、最近購入されたガジェットなどはありますか?
戸次 直近だと、iPhone 15を発表されたと同時に予約して、すぐさま購入しました。もちろんPro Maxです。なぜかって? 老眼だからです(笑)。もう、Pro Maxのサイズじゃないと見えづらいんですよ(苦笑)。フォントの設定も、最大の大きさから2段階下ぐらいのサイズにしていて。妻からは、「文字でかっ! らくらくホンか!」ってツッコまれました(笑)。
──(笑)。スマホは新機種が出るたびに買い替えるほうですか?
戸次 いえ、そんなことないです。今回もiPhone 12からの買い替えなので、久々に新調しました。ストレージ容量はいちばん大きな512GBにしていますね。どうしたって家族の動画や写真が増えていきますから。今、1人目の子が小1なんですが、以前は写真をメインで撮っていたんです。でも、どんどんとカメラが高性能になっていったので、これはもう絶対に動画のほうがいいなと思い、最近は動画撮影が中心になっています。ですから、正直に言うと、512GBでも足りないくらいで。きっと近い将来は1TBとか2TBが標準装備になっていくでしょうし、もしそうなれば、子どもたちが生まれて成人するまでの成長の軌跡や記録を常に手元に持っていられるようになる。本当に便利な時代になったなと思います。
──では、最近はまっている趣味などは?
戸次 この前、息子が誕生日でNintendo Switchを買ってあげたんですよ。僕も人生で初めてマリオカートをやったんですが、ものすごくはまってますね(笑)。どうしてもコンピューターに勝てなくて、息子と2人でムキになってやっています(笑)。それと、最近になって始めた趣味といえば張り子です。
──張り子って、あの張り子ですか?
戸次 そうです。ダルマとか赤べことかの。これも家庭の話で恐縮なんですが、もともとは息子が自由研究の工作として張り子を作っていて、それを手伝ったことがきっかけだったんです。そしたら、息子以上に僕自身がのめり込んでしまって。
──張り子というと小学生の頃にお面を作った記憶がありますが、製作の過程は同じなのでしょうか?
戸次 基本は同じです。ただ、きっとそのお面は風船に新聞紙や和紙を貼って作っていったと思うのですが、本格的なものは木彫りの型を使うんです。この型が何よりも大事なんですよね。今、非常に張り子の可能性を感じています(笑)。
──完成したものはどこかで発表されるんですか?
戸次 せっかくなのでSNSなどで披露していこうかなと考えています。そのためだけにInstagramを開設しようかなと。やはり、誰かに見てもらうことでモチベーションも上がりますから。
──お会いするたびに趣味が増えていっているようですし、日々の生活を謳歌されていますね。
戸次 のめり込むとはまっちゃうタイプなんですよね。ここまで来たら、あとはもう作業場の確保ですね。アトリエを手に入れたい。それが今の一番の夢ですね(笑)。
日本テレビ開局70周年記念舞台
『西遊記』
(STAFF&CAST)
作:マキノノゾミ
演出:堤 幸彦
出演:片岡愛之助、小池徹平、戸次重幸、加藤和樹、村井良大、藤岡真威人、中山美穂、松平 健 ほか
(公演スケジュール)
大阪公演 2023年11月3日(金・祝)〜5日(日)オリックス劇場
福岡公演 2023年11月10日(金)〜23日(木・祝)博多座
名古屋公演 2023年12月27日(水)〜2024年1月2日(火))御園座
東京公演 2024年1月6日(土)〜28日(日)明治座
<札幌上映会&スペシャルトーク>
12月16日(土)、17日(日)カナモトホール(札幌市民ホール)
公式サイト https://saiyuki-ntv.jp/
撮影/小澤正朗 取材・文/倉田モトキ