フォロワー数620万人超を誇る日本のトップTikTokerマツダ家の日常。始まりは、Mr.都市伝説こと芸人の関暁夫さんの語り口をオマージュし、コンビニグルメを紹介する「ロスチャイルドファミリーマート」だった。秒でバズった彼らだが、納得せずにはいられないロジカルな戦略があったのだ。メンバーの関ミナティさんにインタビューを敢行した。
マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake
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お風呂で1度練習した程度の物まねで、大バズリ!
──Tik Tokを始めたきっかけは、お友達同士の“ノリ”だったと聞きました。
関 はい、親友3人でキャンプに行ったとき、僕が酔った勢いでMr.都市伝説 関暁夫さんの物まねをすると、1人が「面白いからTikTokに投稿したい!」と言い出したのが始まりでした。
──もともと関暁夫さんの物まねが得意だったんですか?
関 いえ、前日に関さんの都市伝説の番組を見て、1人でふざけて風呂場で練習した程度なんです(笑)。それでキャンプの日、暖炉のあるコテージに泊まって、1人が暖炉に火をつけようとしていたら、湿っていてなかなかつかなくて。最初は「頑張れー」なんて応援していたんですが、だんだん暇になってきたので、僕が関暁夫さんの物まねをしながらその状況を解説し始めまして。
「いい? これは何者かの力によって火をつけさせてもらえないってこと。前の『ヤリすぎ都市伝説』でも言ったでしょ?」
みたいなことをずっと言っていたんですよ。そしたら深夜ノリもあって2人が死ぬほど笑ってくれて、僕は調子に乗って2時間くらいずっとやっていて。
──思った以上に軽い感じで始めたんですね。
関 そうなんですよ。そのときに思ったのが、この日がめちゃくちゃ楽しくて、「3人でもこんなに楽しいんだから、100人でこの楽しさが共有できたらどれほど楽しいだろう」ということ。TikTokで発信することで楽しむ仲間ができたら面白いなと。
──それで初投稿されたのが、2020年11月27日、ファミリーマートの「紅茶の生チーズケーキ」を、関暁夫さん風にレポートする「ロスチャイルドファミリーマートシリーズ」の第一弾でした。当初からシリーズ化を見据えていたんですか?
関 そこまで深く考えていませんでしたが、「もしこれがバズったら、コンビニの商品は新しいものがどんどん出るし、シリーズとして続けられるな」とは思いながら投稿しましたね。
──当初から戦略手的な思考がうかがえますが、ユーザーとしてもTik Tokをそういった目でご覧になっていたんですか?
関 TikTokをやる前は、「これは面白いな。これはあんまり面白くないな。なんでだろう」程度に見ていましたが、投稿する側になってからは「これはなぜバズっているのか」「なぜバズっていないのか」ということを徐々に言語化できるようになっていきました。
いいグルメ動画=「次の日に行けるお店」
──マツダ家さんは1本目からバズり、ロスチャイルドファミリーマートシリーズが定着すると1か月も経たぬうちにフォロワー数が10万人を突破しました。その理由も分かっていたんでしょうか。
関 そうですね、その当初から僕の中で仮説を立てていて、ラッキーなことにそれがハマったんだなと思いました。
──仮説?
関 1本目を投稿する前、「ごはんを食べに行く動画がすごい流れてくるなあ。再生数もいいね数もすごいし」と思ってTikTokを見ていました。じゃあ、都市伝説風にグルメを紹介する動画はどうだろうと考え、でもそれだけでは自信がなくて。まずは自分の中で、“いいグルメ動画”を定義する必要があると思いました。そこで至ったのが、“いいグルメ動画”=「身近にあり、次の日にすぐ食べに行けるお店をレポートする」ではないかと。全国の人たちが等しく「次の日にすぐ食べに行けるお店」はつまり、コンビニですよね。そうやって、「コンビニ商品を都市伝説風に紹介する」にたどり着いたんです。
──すでにロジックを考えていた上で制作していたんですね。“グルメ動画”といいつつ、食べないし味をレポートするわけではないという振り切り方も、ほかの動画との差別化だったんでしょうか。
関 あ、それは、僕が一切顔出しをしたくなかったから食べなかったんです。食べると顔が映っちゃうじゃないですか。そういえばそうだった、食べなかった理由、今思い出しました(笑)。
──顔出しNGだったんですね! 初の顔出しは、関暁夫さんを彷彿させる黒スーツとセンターパートにサングラス姿で登場した、12月18日でした。この頃はもう、TikTokに本腰を入れていらっしゃったということなんですか。
関 そうですね。初期メンバーの3人とも自営業で、すでにTikTokに全振りしていました。
──全員が同じタイミングでTikTok1本に絞ることは、勇気がいることではなかったですか?
関 いえ、逆に、ほかの業務もしながらTikTokに微力しか注げないことのほうが、僕らにとっては恐怖でした。1本目で”バズる”という体験をしたとき、「3人で地面を掘っていたら急に金がバーーッと出てきて『やべえ! すげえ!』となったけど、ふと周りを見ると、みんなは気づかずスルーしている」という感覚を覚えたんです。みんなは気づかないけど、ここをもっとちゃんと掘ったら、もっとすごいことになるんじゃないか、と。
勝因は、1日20時間TikTok漬け
──嗅覚がすごいですね。
関 単純に興奮していたし楽しいから「ここに全振りしよう!」となったんです。「儲かりそうだからやろう」ではなかったですね。マネタイズを意識したら絶対に縮小してしまうだろうなということは、感覚としてわかっていたので。なので、儲けを優先せず、「自分たちのチームをいかに最大化できるか」ということを目標にやっていくようになりました。
──全振りを考えたのはいつ頃ですか?
関 2、3本目を投稿した頃ですね。
──早い!
関 3人で言葉にしたわけではなく、自然と「こっちやな」と暗黙の了解でしたね。
──2021年になると、完全に顔出ししてラップ動画を投稿するようになりましたが、これも流行りを察知してですか?
関 そうですね。当時は「ロスチャイルドファミリーマートを、やればバズる」というのは分かってきて、正直飽きてもいました。「これをずっとやっていてもなあ」と。それで、なにか違うシリーズをやってみようと探ると、そのときはかっこいいラップを巧みに披露するブームだったんです。で、都市伝説をかけ合わせてちょっとふざけたラップをやってみたらどうだろうと思い投稿すると、バズってくれました。
──すごく気軽に「バズった」とおっしゃいますが、普通ではありえないことだと思うんですよね。出す動画がすべてバズるなんて。なにがほかのTikTokerとの違いなんでしょうか。
関 TikTokについて考える量と時間が違うと思います。当時は、僕らのほかにTikTokのことを1日20時間考えている人なんていなかったんですよ。特別才能があるというわけではなく、それだけ時間と労力をかければ誰でもそうなると思います。
もし才能があるとすれば、そこにいかにハマれるか、ということでしょうか。僕らは文字通り、寝る時間以外はずっとTikTokを触っている状態で、そんな生活に慣れることができたのが勝因だったのかもしれません。そのときほかにも同じような人がいれば、同じような結果が出ていたと思いますよ。
──力の注ぎ方が、ほかのTikTokerとは違ったと。「ずっとTikTokを触っている」とはいえ、普通は皆さん流し見していると思いますが、マツダ家さんはどんなポイントを見ていらっしゃるんですか?
関 初期の頃は、「面白いのに、なんでこの動画はバズっていないんだろう」とか、逆に「僕は面白いとは思えないけど、なんでバズっているんだろう」という疑問がどんどん沸いてきました。それに対して、1つひとつ仮説を立てて検証していくような見方をしていましたね。「これがバズらないのは、面白くなるのが10秒以降だから、最初に興味を引けずに飛ばされてしまうんだろうな」とか。
最初の2秒で、バズが決まる
──すごく細かく見ていらっしゃるんですね。
関 あとはコメント欄もチェックします。自分の感覚とTikTokの中の空気の感覚とが、ズレていないかが分かるんですよね。例えば、「こういうコメントが多いだろう」と思って開くと、全然違うコメントが多かった場合、「自分の感覚がズレているな、チューニングを合わせないとな」と意識できます。僕らの動画の根底には「見た人をがっかりさせたくない」というポリシーがあるんです。無料とはいえ、視聴者からは時間をもらっている。だから「今回はあんまり面白くなかったな」とは思わせたくないんです。
──コンテンツを提供する側が常に直面する葛藤といいますか、「自分が面白いと思う」ものと「見る人が面白いと思う」かをすり合わせるのは、とても難しいことだと思います。
関 僕らの場合は「自分たちが楽しいこと、うれしいこと」=「多くの人に喜んでもらえること」なんです。たとえ「僕らはこれがおもしろいと思う!」というものがあったとしても、それが多くの人におもしろいと思えなかったら、結果、僕はそれが楽しいとは思えないんです。そうやって需要と供給が重なったことは、ラッキーだと思いますね。
──さきほど「最初の10秒」とおっしゃったように、すごくシビアな時間感覚が必要とされるんですね。
関 例えば、僕らの最近の動画を例にあげると、“最初の2秒”が、食べ物を食べるシーンです。複雑な説明一切なしに、
・おいしそうな食べ物がある
・それを口に運ぶ
これが“最初の2秒”のツカミなんですが、この“最初の2秒”で、多くの人に受け入れられるか否かが決まってしまうんです。
──たしかに分かりやすいですね。
関 逆に、例えばツカミで「今東京で大変なことが起こっているんです」というセリフを言うとします。そうすると、この言葉を理解できる人以外は離脱します。興味があって、しっかり聞いてくれる人にしか見てもらえない。どんどん狭くなっていくんです。“最初の2秒”が、「今、東京で大変なことが起こっているんです」VS「おいしそうな食べ物を食べる」だとしたら、後者が圧勝するんですよね。……という感じで、動画を作る前に案を対戦させているんです。
──さまざまな案を上げて、精査して、勝ち残った「より多くの人の興味を引く」動画を制作していると。
関 さらにその食べ物も戦わせます。
「そば」
VS
「チーズの乗った食べ物」
ならば、チーズが強いよなとか。
──企画会議すら面白そうですね。
関 僕らは今、さまざまな企業のTikTokアカウント運用をサポートする「マツダ家コンサル」というコンサル業をしていますが、たくさんのクライアントさんと企画会議をしていて、すごく楽しんでやっています。
──コンサルは、戦略から企画、リサーチ、そして撮影から編集まで、一手に引き受けていらっしゃるんですよね。
関 例えば、マツダ家の動画制作中、「これ、A社さんの動画のほうが合うんじゃないか?」となったり、A社の動画を作っているときに「これはA社では無理だけど、B社さんだったらできるな」とか。企画を考えれば考えるほど、どこかで使えるという状況です。
──もう余すところがないですね。
関 そうですね。クライアントさんが増えれば増えるほど、企画の精度が上がっている状態です。やっぱり、本気でアカウントを運用しないと、見えてこないものはあるんだなと思います。
<後編に続く>
TikToker マツダ家の日常・関ミナティ・後編「日本だけでは興奮できない体になってしまった」動画作りの背景にあった、少年時代の1人遊び
マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake
撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/