アジア全域版アカデミー賞ともいえる「第17回アジア・フィルム・アワード(以下、AFA)」。3月10日に行われた授賞式を前に、日本人として初めてユース・アンバサダーに就任された宮沢氷魚さんに、香港で独占取材。鈴木亮平さんと切実なラブストーリーを演じた『エゴイスト』が現地でも高い評価を得た彼に、香港の街並みや香港映画の魅力について語ってもらいました。
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昨年の「AFA」で一気に自分の中の世界が広がったことを実感
──昨年の「AFA」では、『エゴイスト』で最優秀助演男優賞を受賞。そして、今年ユース・アンバサダーを務められます。
宮沢 素直にうれしいですね。昨年、受賞したときのスピーチやインタビューで「また香港に戻ってきたい」と言っていたので……。でも、翌年にユース・アンバサダーとして、すぐ参加できるとは思ってもいなかったので、今回オファーをいただいたときは「信じられない」というか、「本当に?」と、ちょっと疑ってしまうぐらい驚きました。
──「また香港に戻ってきたい」と思われた理由は?
宮沢 僕はこれまで、日本でのプロデュース作や監督さんとの作品、日本で撮影された作品と、ドメスティックな環境で映画と関わってきました。そんななか昨年、初めて「AFA」という海外の映画祭に参加し、特にアジアの監督さんとお話をする機会をいただいたことで、皆さんの映画に対する考え方や作り方、価値観の作り方の違いを知り、今まで知らなかった映画の魅力に気づけたんです。短い時間ではありましたが、その経験によって自分が豊かになれましたし、「またアジアの映画人の方々と映画のお話ができたら」という思いが募りました。
──ともにユーザー・アンバサダーを務められる台湾・タイ・香港の俳優たちの交流はいかがですか?
宮沢 まだお会いできていないのですが、なかでも『1秒先の彼女』に出演されていた台湾のリウ・グァンティンさんは、作品のなかで独特な存在感を持たれていたので、お会いするのが楽しみです。皆さん、僕と同世代なので、国は違っても、ともに成長していけたらいいなと思います。日本だけで活動していると、どうしても遠い存在に感じてしまうのですが、昨年いろんな方と出会い、SNS上でも皆さんと繋がることできて、一気に自分の中の世界が広がったことを実感したんです。だから、今年もそれを実践したいです。
──さて、「愛是自私」のタイトルで香港公開された『エゴイスト』ですが、日本と異なる反応はありましたか?
宮沢 もちろん、「面白かった」って言ってくれる方が多いですが、その中でも「あのシーンの、あのセリフは、どのような気持ちで言ったの?」と、もっと深いところで映画をご覧になっている印象が強いです。それによって、感情的なところでの話ができたり、撮影当時の状況など、テクニカルの部分の話など、質の高い会話ができたような気がします。香港の方って、映画が身近な存在だから、「作品がどのように作られたのか?」という、舞台裏やバックグラウンドまで興味を持ってくれる気がしました。
僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間
──2023年の2月の日本公開から1年経過しましたが、改めて『エゴイスト』はどのような作品になりましたか?
宮沢 映画が公開されて、皆さんに見ていただいて、終わるものではなく、「10年、20年、30年と、長きにわたって愛される、何かしらの考えるきっかけを与える作品になってほしい」と思いながら、僕たちは作品を作っていたのですが、それを実感できる1年間でした。公開から1年経っても、皆さん『エゴイスト』の話をしてくださいますし、今回も「AFA」で(鈴木)亮平さんが(「Excellence in Asian Cinema Award」を)受賞されたり、舞台挨拶付での特別上映もされますが、この先も『エゴイスト』という作品が皆さんの中で生き続けていく気がします。
──鈴木亮平さんとの絆は、さらに強くなっている感じでしょうか?
宮沢 今年1月に亮平さんとお会いした毎日映画コンクールではありがたいことに、僕が助演男優賞を受賞し、亮平さんが主演男優賞を受賞したんです。今回の舞台挨拶は、亮平さんと松永大司監督と3人で登壇するのですが、僕たち3人の関係っていうのは、頻繁に会ったり、飲んだり、遊ぶような仲ではないんです。もっと深い絆というか、会わなくても、自然と相手のことが気になるし、誰かが活躍しているのを知ると、自分のことのようにうれしく思える存在。仲良しこよしの関係ではなくて、僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間っていう意識の方が強いですね。
──さて、宮沢さんにおける香港映画の印象を教えてください。
宮沢 あまり多くの作品は観れていないのですが、そのなかでもピーター・チャン監督の『ラヴソング』、そしてサーシャ・チョク監督の『離れていても』(東京国際映画祭にて上映)という作品が好きです。たくさんアクションがあって、刺激がある作品ではなくて、普通に日常生活をしている中で、親子や恋人同士の長き関係性をじっくり描いている。みんなが共感できる温度の作品で、ホッコリしたり、悲しくなったりっていう、すごく感情に寄り添ってくれる。もちろん言語も文化も違うんですが、自然とその作品の中に入り込める魅力が香港映画にあると思います。
新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚
──昨年の授賞式以来、トニー・レオンさんとも交流されていますが、トニーさんの作品で好きな作品は?
宮沢 トニーさんとは、10月の東京国際映画祭でもお話をする機会がありましたが、昨年の「AFA」でトニーさんが主演男優賞を受賞された『風再起時』(香港映画祭2023 Making Wavesにて上映)は、とても印象的でした。ウォン・カーウァイ監督の映画など、トニーさんの若いときに出演された映画も観ていますが、ずっと第一線で活躍されている“すごみ”を改めて感じましたから。授賞式でも感じたのですが、とても謙虚な方なんですよ。怖い役を演じられても、優しい役を演じられても、どこかでトニーさんの優しい人柄が映画からにじみ出てきますし、それが長年みんなから愛される理由だと分かりました。
──短い滞在期間の中、グルメなど香港での楽しみがありましたら、教えてください。
宮沢 前回は自由な時間はなかったのですが、今回は5日間の滞在です。関連イベントなどで活動する時間も多いなか、昨日も空き時間を見つけて飲茶や屋台に行きました。ビールと一緒に食べる殻つき海老のピり辛い炒めみたいなものがおいしかったですし、できるだけ街を散歩したり、観光的なこともしたいですね。最先端な建物やショッピングモールのすぐ隣に、数十年前に建てられたマンションやお店があったり、新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚が、自分の中では刺激的です。そういう新しいものも、古いものも大事にしているところに魅力を感じますね。
──昨年の受賞スピーチなど、すべて英語でされていますが、今後の海外での活動予定は?
宮沢 「いつか海外作品に」という思いはずっとありますが、授賞式の会場にいらっしゃるアジア各国の皆さんに、直接自分の口で、自分の思いを伝えたい思いがあるからこそ、英語でスピーチをしています。今年もいろいろな国の監督さんや俳優さんが香港に集まっているので、多くの場でコミュニケーションを取れればと思います。そして、もしチャンスがあれば、ぜひ作品に呼んでいただきたいという思いは強くあります。
(C)Asian Film Awards Academy
取材・文/くれい響