「日本唯一のコロッケ専門番組」。こう背中に書かれた黒いTシャツを着た集団を商店街で見かけたことはないだろうか? すなわち『サンド伊達のコロッケあがってます』(BS-TBS 毎週金曜よる10時)の撮影クルーだ。各分野でマニア受けするテレビ番組に枚挙に暇がないBSにおいても「コロッケ」を題材にした番組は唯一無二! このほど、自ら番組の企画書をテレビ局に持ち込んだサンドウィッチマンの伊達みきおさんと、その相棒を務める、わらふぢなるおの口笛なるおさんに番組制作の裏側や「コロッケ愛」を語り尽くしてもらいました。
【『サンド伊達のコロッケあがってます』撮り下ろし写真】
なるおさんが集音担当に抜擢された理由とそのライバルとは!?
──本日はすでにオンエア1本分のロケを終えられているようですね。これからあと1本分を控えていますが現在のお腹は何分目ですか?
伊達 もうパンパンですよ!
なるお 今日も僕らは食べ過ぎでしたね。
伊達 お肉屋さんが2軒、パン屋さんが1軒、焼鳥屋さんが1軒、そして喫茶店が1軒とすでに5軒はしご。喫茶店でコーヒーゼリーを堪能してさらに“追いデザート”で焼鳥を食べてから2軒目のお肉屋さんでコロッケを食べるという(笑)。
なるお 全部かなりおいしかったですよね。すでに満腹ですけど2本目も楽しみ!
──“ドタ参”のお店もけっこうあると聞きました。
伊達 まさに今日の1軒目がそうでした。好意的に「どうぞどうぞ」と受け入れてくれて幸運でしたね。
──制作陣としてはどうなんですか?
スタッフ もちろん想定外です(笑)。
なるお だそうですよ。
伊達 ですよね(笑)。でも、それを含めての番組ですから。
なるお ちゃんと伊達さんが撮影許可を取りに行っていますもんね。
──番組のエンドロールを見ると初っ端に出てくる「企画・構成」に「伊達みきお」の名前が! 企画と構成も担当されている?
伊達 実は番組自体が僕の持ち込み企画でスタートしました。相方の富澤たけしがドラマ『マイファミリー』(TBS)にレギュラーで出演していて、その撮影期間中に僕のスケジュールが空いたんです。で、単にぼーっと過ごすわけにもいかないから「何かやらないとな……」とゴルフを始めたりしていたんですけど、ふと「好きなこと」の番組をしようと思い立ちまして。最初はコロッケが大好きだからYouTubeでコロッケの配信番組でもやろうかとと計画していました。でも、やれるならテレビでやりたい。そう思ってテレビ局に売り込んだらBS-TBSさんが手を上げてくださって。
──なんと自ら売り込まれたんですか?
伊達 そうなんです。同じく「企画・構成」に名前が載っている作家の水野としあきが企画書として起こしてくれてそれを売り込んだ形です。ありがたいことに4本くらいオンエアしたらレギュラー化。最初は30分番組で収録時間も放送時間も程よい尺でしたが、今度は倍の1時間番組に。しかも、裏番組が『報道ステーション』(テレビ朝日系)という時間帯での放送となりました(笑)。
──そもそも、どうしてコロッケの番組を着想されたのですか?
伊達 やはりまだ世の中にないかなと。なんとなくラーメンやカレーをテーマにした番組は目にした記憶はあるけど、日本人の国民食とも言えるコロッケをメインで扱う番組は聞いたことはありませんでしたから。「日本唯一のコロッケ専門番組」と自負しております!
──改めてロケ現場を見渡してみるとスタッフの着ているTシャツの背中にも「日本唯一のコロッケ専門番組」と書いてあります。
伊達 よくぞ気づいていただきました! 僕の指定で決めさせていただきました。それでも、最初はスタッフ全員が恥ずかしがって着るのをためらっていたんですよ。それこそ、10人ぐらいの大人に囲まれて「お前が最初に着てくれ!」みたいなこともありましたね。
──いえいえ、むしろ喜んで着させていただきたいデザインです。
伊達 ちょっと硬派な雰囲気が出るでしょ? よく商店街を歩くだけにNHKっぽさが出ればいいなと(笑)。
──そんな狙いが!? そういえば、2人が番組で着ているTシャツもかわいらしいデザインです。
伊達 ポップですよね。これはちゃんとプロにお金を払ってデザインしてもらっています。コロッケを持った僕ら2人をイメージしたデザインになっているようです。出演者とスタッフを見れば、一目でコロッケの番組を収録していることが丸わかりでしょう。
──番組を見ているとコロッケを揚げる行程も映しています。これは伊達さんのこだわり?
伊達 まさしく! お肉屋さんごとにコロッケの作り方は千差万別。あんの形はもとより揚げる油にもこだわりがあるケースがあります。あと忘れちゃならないのが、揚げる音。お店によって作り方は千差万別。あんの作り方はもとより揚げる油が違うこともあります。ちゃんとテレビの前にいる方の食欲をそそるような演出をしています。あの揚げる音が番組の肝なんですよ。
──そんな大事な音を録音するのはなるおさんの仕事です。いつもヘッドホンなどの音響機材を携行されていますが、その伊達さんの“相棒”とも言えるポジションへの大抜擢の理由はあるのでしょうか?
なるお ぜひ、僕も聞きたいです!
伊達 特にないよ(笑)。
なるお え~! そんな~!
伊達 とにかくくすぶっていたので。僕の頭の中にある「くすぶっている後輩芸人のリスト」から勝手に選抜させていただきました。
なるお そのリストの1項目目に僕の名前があったんですよね?
伊達 そうそう。あと、相棒に選んだのには「口笛なるお頑張れ!」というエールも込めていますよ。そもそもコイツのこと知っていました?
──‥‥…。
なるお そこは黙らないでくださいよ! 経緯としては、直接お電話で「コロッケの番組をやるから一緒にやらないか?」と誘っていただけて……。もう、その場で「ぜひ、お願いします!」と即答しました。全く迷いはありませんでした。
──ジョークだと思わなかったんですか?
なるお 思いませんよ! だって、もともと伊達さんがコロッケが好きなのは知っていましたし、コロッケの番組をやりたがっているのも数年前から聞いていました。当時は「なんなんすか?」とあまり本気で聞いていなかったんですが、本当に実現されてしまって。「サンドウィッチマンは売れたんだな……」と改めて思い知らされました。自分のやりたい番組企画を通せるほどのパワーを持ったんだと。
──ちなみにコロッケを揚げる音を録音する時に油はハネない? 火傷することもあるんじゃ…手n。
なるお それが意外にも全くハネないんですよ。コロッケのタネが最初から油に沈んだ状態なので。せいぜい浮いてくる終盤に少しパチパチするくらい。
伊達 「ASMR」じゃないけど、令和は耳でも食べ物を味わう時代。しっかり時流を演出に入れさせていただいております。
──番組内では伊達さんがフリーダムにされている印象もあります。やはり、なるおさんのサポートあってのことなのでしょうか?
なるお そういう立ち回りを期待してお声がけいただいたんだと思います。伊達さんは楽しそうにロケを回す。街の案内、補足情報、コロッケを揚げる音を録音するのが僕の役割なんですが……、頭ではわかっていてもうまくいかないこともしばしばでして。
伊達 頻繁にやらかすんですよ。お店の人がコロッケを揚げているのに音を撮りに行くのを忘れたり、ロケをする商店街のことを一切勉強していなかったりで。挙げていったらキリがありません。番組のオンエアを見てなかったこともあった!
なるお 番組のオンエアはちゃんと見ていますよ!
伊達 そうだっけか? とにかく長い目で成長を見守っています(笑)。
──失敗のたびに反省会はやられるんですか?
なるお 一応、自分の中では……。
伊達 その都度なるおから長文のメッセージが送られてくるんですよ。
なるお はい、したためさせていただいております。ただ、僕の本気の反省文なのに、この番組で紹介されちゃうんですよ。
伊達 数回前の収録で「視聴者からメールが来まして……」となるおの反省メールを読み上げたことがあるんです。
──演出にも一役買っているわけですね。
なるお メールをいきなり表に出されて、僕もビックリするわけじゃないですか? もちろん、ツッコミを入れるわけですよ。でも、そのツッコミの仕方もちょっとズレていたみたいで、追い打ちをかけるように伊達さんから「あれはちょっと違うんだよな」と優しく物言いを付けられてしまいました。毎回のロケで学ばせてもらっています。
伊達 とにかく「口笛なるお」を鍛えていますよ。
なるお でも、なかなか上達しません。22年から番組を続けてきてブランクもないんですが……。
伊達 ロケが演出なしの完全なるフリースタイル。それが難しいところなのかも。それでも、かなり場数をこなしているでしょ?
なるお おかげさまで。でも、この番組を含めてロケで緊張することはほとんどなくなりました。この間も名古屋に1人でロケに行かなくちゃならなかったんですけど、緊張せずに食レポを完遂できました。この番組の経験がしっかり血肉になっているのでしょう。
伊達 (遠い目をしながら)そうですね。そのポジションが安泰じゃないことだけはわかっていてほしいけどね。
なるお わかっています! 実は番組をクビになりかけているんです。
伊達 「トミドコロ」というグレープカンパニーのピン芸人がいるんですが、彼がコイツのポジションを狙っているんですよ。しかも、彼の実力がなるおよりも数枚上手。ちょうど同期ぐらいの年代だけにいろいろな場面で競い合っているよな。
なるお はい、本気で狙っています。なんとか堅守している状況です。
伊達 もう僅差のところまで来ているけどな。
なるお え!? とにかく頑張ります!
揚げたてのみに発動される「カロリー0理論」
──そういえば、コロッケの番組なのに他の総菜や料理もしっかり食べている気が……。
伊達 僕も今年で50歳なんでね、コロッケばかりだと胃もおかしくなっちゃう。途中に喫茶店でコーヒーゼリーでも食べないともたない。なんせ1時間番組のロケなんでね。
──そうなるとカロリーがとんでもないことになりそうです。
伊達 だからロケ中はカロリーを摂らないようにしています!
なるお それは無理です(笑)。
伊達 いや、揚げたてで湯気が出ているうちはまだカロリーが発生していないんです。毎回、揚げたてばかり食べているのもカロリーを気にしてのことかもしれません。
なるお つまり、冷めたてからカロリーが発生してしまうんですか?
伊達 そう! 周囲のカロリーが集合してしまう! 実際に番組をスタートさせてから体重の増減はありませんから!!
なるお 収録がある日はロケで満腹だから他で何も食べないだけじゃないですか。反対にスタッフの皆さんは異常に空腹なはずですよ。人が食べているのをひたすら見せられていますから。ちょっと軌道修正しますよ。確かにコロッケ以外を食べ過ぎなのは認めざるを得ません。認めちゃいましょうよ!
伊達 「どこのコロッケが一番おいしいですか?」とよく聞かれるんですが、いつも答えに窮してしまいます。というのもコロッケの番組でありながらもつ煮込みのおいしいお店にばかり行ってしまうんです。
なるお 我々のイチオシはもつ煮なんですよ!
伊達 南千住にある「田川商店」の大釜で炊かれた牛もつは最高だったな。あと、雑色の「竹沢商店」の味噌風味のも絶品でした。
なるお 焼き鳥もおいしかったですよね。モモ肉とにんにくが交互になっていたのが本当に美味でした。
伊達 結局、コロッケはだいたい同じ味なので(笑)。
なるお いやいや、最初のこだわりはどこに行ったの?
伊達 冗談はさておき、お肉屋さんそれぞれの雰囲気を楽しめるのも番組の見どころの1つ。1個350円もする高級コロッケもあれば、1個50円で売っている激安コロッケもある。そのお店ごとに店主のこだわりがあってね。
なるお でも、そのこだわりが「揚げたてアツアツ」なのは悩みどころです。
伊達 そうそう、お店の人もベストなタイミングで僕らに出してくれるんですよ。別に店頭に陳列されているのもので十分なんですけど、そこはお肉屋さんも「せっかくだからベストなものを食べてほしい」という思いでその場で揚げてくださいます。その心意気に応えないわけにはいかないじゃないですか?
なるお でも、たまに断りきることもありますよね。「常温で結構です!」と。
伊達 口の中がただれ過ぎて限界を迎えている時は流石にね。
なるお もはや、口の中の粘膜がダラダラと剝がれてしまうのには慣れちゃっていませんか?(笑)
伊達 わかる。それこそ何度も剥がれてを繰り返したおかげで固くなっています。さながら素振りを日課にしている高校球児の手のひらみたいに(笑)、楽しみで始めた番組のはずなんですけど、人生で一番命を削っていますよ。
──そんな体を張られている姿に相方の富澤さんから反響はありますか?
伊達 多分、富澤は見てくれているはず。「あの店おいしそうだったよな」とか、会話の中でもちょくちょく「コイツ見てんな」という言動がありますもん。一度仙台でロケした時に出てもらいました。
──先ほど相棒ポジションの争奪戦について明かしていただきましたが、ゲストで出たいという方も珍しくないと聞きました。
伊達 そうなんですよ。ありがいたいことに芸能界でも多方面で見ていただいていて、例えば、あの中居正広さんも視聴者の1人。前にお会いした時に「コロッケの番組やっているよね?」とたまたま番組を目にした体裁で話してくれましたけど、あれは、多分毎週見てくれている雰囲気でした。中居さんも出たいんじゃないかな?
なるお なんで上からなんですか?(笑)
──なるおさんは実家のご家族から反響があるんじゃ?
なるお 実家というよりは……。
伊達 え! 実家の家族は見てないの? 衝撃なんだけど……。
なるお いえいえ! 多分見てくれているとは思います。でも、実家よりも僕の周りにいる芸人連中にチェックされています。僕と同じようにライブを主戦場にしているだけにかなりうらやましがられます。やはり、僕のポジションばかりにかぶりつきで「あの番組の立ち位置おいしいやん」から「グレープカンパニーに移籍した」とまで言われています。
──ポジション争いの火の手は会社を超えて芸人全土に広がっているのですね?
なるお そうなんです。他にないですもん。
伊達 でも、ゲストを含めて出演者にグレープカンパニーが多すぎる気がするな(笑)。
なるお 確かに(笑)。
「伊達みきお」の人生にはいつもコロッケがいた
──改めて、伊達さんのコロッケヒストリーを教えてください。
伊達 子どもの頃によく親におつかいを頼まれていたんですよ。お肉屋さんで「豚のコマ切れ」を買わなきゃならないのに間違ってコロッケを買って帰っていました。
なるお それは確信犯ですよね?(笑)
伊達 どうしても間違ってしまうから親も諦めてお肉屋さんには行かせてもらえなくなりました。で、通っていた高校の近くにあるお肉屋さんで1個50円のコロッケが売られていて、入学したばかりの頃に2年生と3年生が買い食いしているのを見て「あれは何を食っているんだろ?」なんて口の中でヨダレがいっぱいだったのを覚えています。地元ルールで上級生しか買い食いが許されなくて1年生の頃は悶々としていたな。
なるお ぜいたく品だったんですか?
伊達 どういうわけか1年生は買い食いが禁止されていた。やっと2年生になって自由にコロッケを食べられるようになって。改めて振り返ってみると伊達みきおの人生にはいつもコロッケがありました。上京して富澤と同居していた板橋時代。近所の「大山ハッピーロード商店街」にある「ミートショップアライ精肉店」にはよく行った思い出です。そこのコロッケが好きで、10年住んでいる間でちょっとでもお金が入るとコロッケやメンチカツを買って帰りました。
──奥様に作ってもらうことは?
伊達 あります。この間カニクリームコロッケを作ってくれました。
なるお いいですね!
伊達 でも、ラードで揚げたコロッケはお肉屋さんならではのもの。あの本格的な味はお肉屋さんにしか出せません。例えば、コンビニのコロッケだと普通の油で揚げていますよね。お肉の精肉過程で余分な脂身が出るお肉屋さんだからラードがあるわけです。
──コロッケ愛は番組からも伝わってきます。
伊達 そうでしょう(笑)。ただ、ほとんどのお肉屋さんでコロッケは売られていますけど、あまり儲からないらしいんですよ。実際に価格も安いですし。それでも、各店ごとにこだわり抜いて手作りしている。やっぱり、お肉屋さんのコロッケはひと味もふた味もおいしいじゃないですか。小さいころから食べているお肉屋さんのコロッケにエールを送るのも番組の裏テーマです。
──では、ゆくゆくは「コロッケまつり」のようなフェスイベントをやる計画はあるんですか?
伊達 現在進行形ではありません。でも、やりたいです。あれ? でも、TBSは夏のイベントやっていたっけ?
スタッフ 最近はやっていないんです。
伊達 まずは、何かのイベントごとでお店を出店したいです。TBSが無理ならフジテレビでも!
なるお 垣根を越えるのはご法度です!
伊達 でも、BSでは浅草キッドの玉袋筋太郎さんがやっている『町中華で飲ろうぜ』(BS‐TBS)を先駆者に「マニアック」を売りにした番組がどんどん増えていますよね。ずんの飯尾和樹さんが喫茶店を巡る『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)やケンドーコバヤシさんがビジネスホテルを巡る『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』(BS朝日)などつい見てしまいます。その界隈にしっかり一員として入り込みたい!
なるお BSは全国ネットですからね。
伊達 ゆくゆくは地方にも進出したいです。コロッケが我々を待ってくれていますから!
サンド伊達のコロッケあがってます
BS-TBS 毎週(金)よる10時
※Tverで最新話無料配信中
番組公式HP https://bs.tbs.co.jp/entertainment/korokke/
番組公式X https://x.com/datekoro_bstbs
番組公式Instagram https://www.instagram.com/sand_croquette_bstbs/
撮影・構成/丸山剛史 取材・文/多嶋正大