ゲーム&ホビー
2020/5/15 19:00

病原体を食い止めるボードゲーム「パンデミック」作者がいま思うこと

新型コロナウイルスの流行が始まって、もう何か月になるだろうか。まだまだ予断を許さない状況だ。世界中にアウトブレイクしたウイルスは、私たちの生活を一変させてしまった。封鎖される都市があり、都市間の移動は制限され、研究者は医療従事者たちは命をかけてウイルスに立ち向かっている。

 

このような世界的な非常事態は初めて体験することだが、こうした事態を想定していたかのようなボードゲームがある。「パンデミック」だ。

↑「パンデミック:新たなる試練」プレイ人数:2~4人用 対象年齢:13歳以上 プレイ時間:約45分 (c)2020 Z-Man Games

 

2008年にアメリカで発売されるや大きな評判を呼び、プレイヤー同士が競うのではなく協力し合ってウイルスと戦う「協力型ゲーム」の代表格となった。

 

ゲームは、世界地図が描かれたボードを中心にプレイしていく。地図には各地の代表的な都市が描かれており、その都市のどこかに病原体が発生していく。敵はNPCだ。ターンが進むごとに自動的かつランダムに病原体が増えていくので、一定量を超えないようになんとかして押さえ込む必要がある。各プレイヤーは通信司令員、衛生兵、科学者、検疫官などの役割を担当し、それぞれ異なる能力を活かしながら最適手を考える。ウイルスを押さえ込めずに蔓延してしまうと、都市封鎖だ。

↑世界地図が描かれたボードでプレイする

 

病原体の治療薬を発見し、病気に打ち勝つことができたらプレイヤーの勝ち、病原体を押さえ込めずに一定数以上蔓延させてしまうと、プレイヤーの負けだ。

 

非常にスリリングなゲームで、次々と病原体が増殖していくため、一手の間違いも許されない緊迫感がある。そしてパンデミックの渦中にある今、都市に病原体が蔓延し拡散されていくゲームの展開が、今の状況をなんて的確に再現しているのだろうと思うのだ。

 

なぜ、どうやってこのようなゲームを作ることができたのか、作者であるマット・リーコック氏に話を聞いた。

 

--今はすべての人たちが、できること・すべきことを考えて行動しなければ、状況に打ち勝つことはできません。それをゲームでは見事に再現していたと感じています。どのようにしてゲームを作られたのでしょうか。

 

マット まず「ある共通の敵に対して、プレイヤーが協力して立ち向かう協力型ゲーム」を作りたいと思ったんだ。僕がゲーム業界で働き始めた2004年は、SARS大流行の一年後でまもなかった。メディアはSARSについてたくさん報じていて、僕はそのときに「ウイルスは人類の敵で、恐ろしく、支払う代償がとても大きい」と思ったよ。それはボードゲームで戦う相手として、絶好の敵になるんじゃないかって。

 

ゲーム制作にあたってウイルスについては細かな調査はしていないけど、それは僕の目的は、魅力的な体験ができるゲームを作ることであって、シミュレーションをすることじゃないからね。でも1995年に出版された、エボラ出血熱の流行を描くノンフィクション『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン)を熟読したよ。あとは関連の記事を読んで最終的なゲームのルールは、3年ほどかけてテストプレイをして何度も失敗を繰り返しながら作っていった。

 

--『ホット・ゾーン』は私も発売当時に読んで、飛行機の中で人が溶けるように出血して倒れ、そこから感染が広がるシーンなど、めちゃくちゃ怖かった覚えがあります。

 

マット ウイルスは、僕たちの誰よりもはるかに強大。国境も関係ないので世界中に広がる可能性があるから、ウイルスに対して、僕らは一丸とならなきゃいけない。例えば政府と、一人一人がウイルスに勝つために集団で行動することの両方が必要だと思う。

 

--TEDで2015年にビル・ゲイツが感染症の脅威について語っていた(関連動画)ことが話題になりました。そして実際に世界的なパンデミックが起こってしまいました。

 

マット 今は本当に困った状態だと思うけれど、僕ら全員が一体となる大きな理由でもある。こういう脅威が来るだろうとは、僕を含め、本当に多くの人たちが考えていたとは思うけれど、実際に起こるまでは所詮仮定の話。実際に体験するのとは全く別次元の話だったと思う。

 

--私が「パンデミック」の続編である「パンデミック:レガシー シーズン1」をプレイしていたときは、エボラ出血熱が流行していました。とてもタイムリーだったので、「さあ、世界を救うぞ」なんて言いながら、こんな時にゲームとして遊んでいいのかという罪悪感の両方がありました。今、周囲の意見はどうですか?

 

マット 今回は、大まかにふたつの意見に分かれているように思う。一日中ニュースでコロナの話を聞き続けて生活しているので、ゲームでまでそんなことを考えたくないという人。それから、逆に快感を感じる人。ウイルスを駆逐するプロセスや、脅威と戦うこと、状況をコントロールできると思えることが、ストレス発散になるみたいだね。

 

--1作目の「パンデミック」はウイルスと戦うだけでしたが、レガシーシリーズは、ゲーム中に追加のコンポーネントやストーリー展開があるなど、壮大な物語を楽しむゲームになっていました。ゲーム中にパッケージを開封して、指示を得たり、新しいストーリーが発動されたりするので、1度しか遊べないというのも贅沢で斬新でした。

 

マット レガシーシリーズは、ロブ・ダヴィオーと一緒に構成を考えたんだ。彼は2011年に「リスク・レガシー」というウォーゲームを発表している。レガシー1は、デザインに14か月かかり、さらに制作に1年かかった。複雑に絡み合った全く別のゲームをいくつも開発するようなものだったから、本当に難しかったんだよね。さまざまなグループの人たちと膨大なテストプレイをしたけど、ビデオで撮っていたので、ゲーム展開を注意深く見守ることができたね。

↑プレイヤーは「科学者」「研究員」「衛生兵」などのエキスパートの役割をもって、パンデミックと戦っていく。(c)2020 Z-Man Games

 

 

--パンデミックの最新シリーズは、いつ頃発表されますか?

 

マット 最新のレガシーシリーズは、今年の年末のどこかには発売できると思う。あまりお待たせせずに発表できるんじゃないかな。

 

パンデミックシリーズは、全員がそれぞれの得意分野を活かして協力し合わなければ勝てないゲームだ。自分に求められるタスクと、能力を意識した行動、他人の能力とのコラボを考えていく必要がある。企業のチームワークづくりや、採用試験などにとてもうってつけだと思う。もちろん、子どもが中学生以上なら、家族で遊ぶのも楽しいだろう。

 

大変余談だが、パンデミック:レガシー シーズン1のキャラクターに「どう見てもキムタク」がいて、彼のキャラを演じるときはプレイ中につい「ちょ、待てよ……」と鼻をすすってしまった。新作が待ち遠しい。