数年前、人工知能が数万本の動画を見て『パックマン』を再現したことがありましたが、最近では、ある研究室で培養された脳細胞にレトロな卓球ゲーム『ポン(PONG)』の遊び方を学習させた研究結果が報告されています。
バイオテクノロジーの新興企業・Cortical Labsが行った研究は、査読付きの科学ジャーナル『Neuron』に掲載されました。その論文の筆頭著者ブレット・カガン博士は、ミニブレインが「外部から情報を取り込み、それを処理し、リアルタイムで反応できる」ことを実証した初の成果だと語っています。
「DishBrain」と名付けられたミニブレインは、マウス細胞とヒト細胞(幹細胞から採取)から培養した80万個の脳細胞であり、これを『ポン』が繋がれた電極配列の上に置いたとのこと。ボールの位置を示す電気パルスを神経細胞に送り、そこからの信号を受けて電極アレイがパドルを上下に動かすという仕組みです。
パドルがボールに当たると、DishBrainは強く一貫したフィードバック信号(事実上の刺激)を受け取り、ボールが外れた場合は短いランダムな信号を受信するそう。これにより「リアルタイムのゲームプレーの5分以内に、明白な学習の兆候を示した」と述べられています。
また、20分のプレーではさらに上達したと言われており、このことは細胞が再編成され、ネットワークを構築し、学習していることを示しているようです。
今後の研究では、薬やアルコールがDishBrainのプレー能力にどう影響するかを調べて、人間の脳の代わりに有効に扱えるかどうか検証する予定。ゆくゆくは、アルツハイマー病などの治療法のテストでの活用も目指しているとのことです。
脳は思考や感情を司るため、治療薬や治療方法を実験することが難しくなっています。ミニブレインがその壁を乗り越えていくのかもしれませんが、「もしも自我が目覚めていたら……」という懸念も出てくるのかもしれません。