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睡眠
2018/12/27 21:15

健康や快眠のヒントがここにある!生命科学者が教える「体内時計」の真実

2017年、体内時計のメカニズムを発見した米国人研究者3名が、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。体内時計とは、体の中に備わっている時間を司る部分のことで、近年、その仕組みが徐々にわかってきています。

 

実はこの時計の働きが乱れると、本来は眠いはずの時間なのに寝つけなかったり、起きていなければならないのにぼんやりしてしまったりと、「時差ぼけ」のようなことが起こるのです。体内時計の働きを意識することで、日中はつらつと動ける体にできるといいですよね。そこで、生命科学者で東京大学大学院医学系研究科教授の上田泰己先生に、体内時計の仕組みや快眠のためのヒントなどを伺いました。

 

そもそも日本人は睡眠が足りていない

睡眠時間は「平均して7.5時間程度がちょうどいい」とされています。ところが日本人は、先進国の中でももっとも睡眠時間が短く、統計によると働き盛りの30〜40代の平日の平均睡眠時間は6.5時間程度であると言われているのです。

 

「睡眠不足になると人の作業効率は悪くなりますから、社会的損失もかなり大きいもの。睡眠が足りていないと思考力が落ち、判断力や頭を使うことを求められる作業が難しくなっていきます。睡眠のメカニズムはまだ研究でわかっていないことも多いのですが、きちんと体が休まるよう睡眠時間を確保することが、健康への第一歩です」(上田泰己先生、以下同)

 

満足できる睡眠時間は体調によって決まる

睡眠時間はそれなりにとっているのに、眠りが浅い感覚がしたり、朝起きるのがつらかったりすることはありませんか。それは、そのときの環境や体調によって、体が欲する睡眠時間に差があるからです。

 

「たとえば日中特に動いたり、発熱したり体調が悪かったりするときには、体が休むよう信号を出し、眠気が強くなります。一方、火事や地震などの緊急事態のときなど、眠ってはいけないときは、普段寝ているような時間帯でも覚醒します。睡眠は、いつ、どれだけの量、どんなタイミングでとるかで、体への作用が違ってくるのです。いつもと同じ睡眠時間をとったのに眠気を感じるときは、体調に変化がないか気にしてみましょう」

 

体内時計は朝の強い光でリセットされる

体内時計は、アナログ時計がぐるぐる止まらずに動き続けるように、24時間サイクルで常に動き続けています。体内時計の中枢は、視神経が交差する上の視交叉上核という部分にあり、そこから各細胞や臓器の時計に対して指示を出しているのです。つまり、体内時計は体の中にひとつではなく、多数存在していることがわかっています。

 

「それぞれの時計がバラバラに時を告げると打ち消し合ってしまい、全体として非常に弱い時計になってしまいます。しかし、朝起きたときに浴びるような強い光が視交叉上核に届くと、体内にあるさまざまな時計がリセットされ、時刻が合うよう時計のズレが調整されるのです。時計に合わせて、血圧や脈拍、体温やホルモンの分泌量などが調整されますから、睡眠障害の方に向けて、人工的な強い光を浴びさせることで体内時計をリセットする、という治療法も確立されています。朝起きたらしっかり太陽の光を感じられるよう、カーテンを開けたり明るい部屋で過ごしたりするといいですね」

 

午前中は強い光を浴びて体を動かすこと

体内時計が朝の強い光をキャッチすると、そこからおよそ14時間後に眠りのホルモンの分泌がはじまります。

 

「眠る時間なのになかなか寝つけない……という方は、眠りたい時間から逆算して、その時間にしっかり光を浴びて体を動かすようにしましょう。運動をすると、夜眠るときにメラトニンという夜に出てくるホルモンの分泌が盛んになります。また、運動をすると脳の細胞の中にカルシウムが入ってきて、脳がしっかり休まるという研究結果もあります。カルシウムは運動したときや頭を使ったとき、たくさん考えたときに入ってきますので、日中を活発に過ごすことが夜の眠りの質を高めてくれるでしょう」

 

人はまとまった時間を眠ることができる

人は、ほかの動物と違って、まとまった時間眠ることができる能力を持っているので、たいていは6〜7時間起きずにまとめて眠ることができます。一方で、たとえば小動物は、寝たり起きたりを繰り返しているのです。

 

「なぜ人がまとめて眠ることができるのか、くわしいことはわかっていません。野生動物と違って危険が少ないから眠ることができるのか、あるいは、まとまって眠ることが人間にとって必要なのかもしれません。いずれにしても、まとまって眠る理由があってのことだと思うので、眠りが途中で妨げられないよう、部屋を暗くしたり適温を保てるような寝具を使ったりと、寝る環境を整えておくといいでしょう」

 

レム睡眠は学習するために必要な時間

睡眠中、わたしたちは「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という異なる状態を交互に繰り返しています。眠りに入ったあとは、脳の血流が低下して休息状態になり、深く眠るノンレム睡眠に入ります。その後しばらくたつとレム睡眠という浅い眠りの時間がやってくるのです。

 

「レム睡眠が来たときに起床すると目覚めがよいという話がありますが、ノンレム-レム睡眠のサイクルはまちまちなので、目覚めがよい時間帯を正確に知るのは難しいところです。また、レム睡眠時は眠りが浅くなり、途中で起きてしまうこともあるからレム睡眠は必要ない、と思う方もおられるかもしれませんが、レム睡眠しないように操作したマウスの研究では、レム睡眠がなくなると、学習機能が低下していくことがわかっています。レム睡眠は学習と深く関わりがある時間なのだと思います」

 

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