ヘルスケア
2020/2/28 20:45

これでタダ!? 健康情報とユーモアを凝縮した薬局のフリペ『ヘルス・グラフィックマガジン』の裏側

毎号15万部という驚異的な部数を発行しているフリーペーパーが、注目を集めています。発行しているのはアイセイ薬局。都内に70店舗、全国で368店舗を展開する調剤薬局チェーンです。処方箋を受け取りにくる顧客向けに、季刊でフリーペーパーの発行をはじめたところ、その斬新で際立つビジュアルに心奪われる人が続出。インフルエンサーによる投稿をはじめ、SNSを通じて一気に広まりました。

 

目を引くこのカバー写真だけでなく、全編を通してビジュアルが印象的なこの誌面は、いったいどのように作られているのでしょうか? 制作の裏側を伺いに、アイセイ薬局ヘルス・グラフィックマガジン編集部へお邪魔しました。

 


『ヘルス・グラフィックマガジン』(2019年)
無料 / アイセイ薬局

 

難解な医療情報を明解なビジュアルで

アイセイ薬局がフリーペーパーの発行をはじめたのは、10年前のこと。薬局内で処方箋を出してから薬ができるまでの時間を使って、冊子という形で健康情報をお届けしようと制作をはじめたと言います。

 

「薬局は、体調が優れない方が多くいらっしゃる場所ですから、気持ちが塞ぎがちですよね。また、普段あまり薬局にいらっしゃらない健康な方にも体に気をつけてほしいので、楽しく健康情報を届けたいという思いがありました」(ヘルス・グラフィックマガジン編集長・門田伊三男さん、以下同)

↑『ヘルス・グラフィックマガジン』の2代目編集長、門田伊三男さん。前職では、広告制作会社でアートディレクターを務めていたそう

 

「ただ、健康や薬のことなどは、専門用語や疾患名など難しく見える言葉がとても多いんです。そんなテーマでもさまざまな方にストレスなく読んでいただけるよう、すべてのページを効果的にビジュアライズされた見開きで完結させています。また、決まったデザインフォーマットを使わず、毎号それぞれにテーマに合ったレイアウトを考えて制作しています」

↑2016年の「肥満症」号と、2018年の「きず・やけど」号。タイトルの書体も、そのときのデザインに合わせて変えています

 

毎度クスッと笑えて心に残るカバー写真は、撮り下ろしやストックフォトを加工したものなどさまざまありますが、いずれも編集会議を経て決めているのだそう。

 

「事前に、季節や流行に合わせてタイトルとなるテーマを決めています。そこから毎回スタッフそれぞれが考えた案を会議室のテーブルに並べて詰めていくのですが、多いときで100点ほどのラフが上がってくるのは圧巻ですよ。どんな年齢層の方にも伝わるデザインがいいけれど、分かりやすすぎても面白味がない。また、病気や健康面でのテーマがゆえ、茶化したり品がない扱い方はしたくないので、その微妙なバランスを大切にしています」

 

楽しいだけじゃない!大事なのは正しい最新情報を伝えること

ビジュアル面でのインパクトに加えて特筆すべきは、医師や薬剤師の監修を立ててインタビューし、最新かつ正しい情報を掲載していることです。

↑2018年発行の「きず・やけど」号では、最新の手当ての方法を紹介。昭和世代にとっての常識が、実は非常識だった……というショックも

 

「医療情報は進化していくものなので、昔は誰もが知る常識だったことでも、変わっている場合があります。たとえば2018年に発行した30号『きず・やけど』では、傷や火傷の手当てについて特集したのですが、傷口を消毒したり乾かしたりするという方法ではなく、消毒はせず潤いを保つことで治す湿潤療法を紹介しています」

↑2018年発行の「きず・やけど」号。かつては当たり前だった“おばあちゃんの知恵”のような民間療法の是非を紹介するページも

 

「昔は消毒をするのが一般的でしたし、傷を乾かして治す方法も多く用いられていたので、まだまだ湿潤療法をご存知ない方もいらっしゃると思います。また、世の中には民間療法やエビデンスのない噂話のようなものも医療情報として多々溢れているんですよね。当たり前のことですが、薬局として正しい知識を届けることを念頭に置き、毎号必ず新しい情報を得るために医療関係者への取材からはじめています」

 

また、こちらは2016年に発行した22号「アトピー性皮膚炎」。皮膚外用薬として知られているステロイドについてのページです。「ステロイドは体に蓄積される、副作用がある、と怖がられてしまうのですが、そんなことはないんですよ。誤解を解くためにもしっかり取材をして、まとめています」

↑2016年発行の「アトピー性皮膚炎」では、ステロイドについて特集

 

こちらは編集部員による検証のページ。「1ヶ月間スクワットを朝昼晩と3回行って、下股筋力がどの程度変わったかを編集部一同で検証したり、食べる順番で本当に血糖値の上がり方が変わるのか調べたり。わからないことは自分たちでやってみる、というページも人気ですね」

↑不定期連載として登場する、編集部員による“研究”ページ。体当たりのインプレッション企画です

 

「グッドデザイン・ベスト100」に輝き、美大の教材にも!

そんな絶大な人気を誇るヘルス・グラフィックマガジンですが、創刊当時は社内でも“フリーペーパーを作る意味があるのか”という声が少なからず聞こえてきたそうです。目を引くビジュアルについても、薬局という場にふさわしいのか意見が分かれていたとか。

↑2017年「痛風」号は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』をモチーフにデザイン

 

「創刊当初はもっと広報誌的な意味合いが強かったため、ビジュアルについての意見は賛否ありました。しかし、発行するごとにさまざまな場所で取り上げていただけるようになり、2015年に『グッドデザイン・ベスト100』という賞を調剤薬局で初めていただきました。錠剤を開発したヘンリー・ウェルカムのコレクションを展示しているロンドンのウェルカムコレクションの企画展に展示させていただいたり、美術系の大学で教材として使っていただいたりと、フリーペーパーを通してさまざまな出会いをいただけているのが、本当にうれしいですね」

↑今までの全号を前に、実にうれしそうな門田編集長

 

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