戦後、高度経済成長を遂げた日本。そのなかで登場した三種の神器は、学校の教科書にも載るような存在だ。初代の三種の神器は1950年代後半の白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫。1960年代半ばになると車、カラーテレビ、クーラーの3Cが、新三種の神器と呼ばれるようになった。この記事のメインは、そのうちのひとつであるクーラー(エアコン)だ。
今回筆者が取材に行ってきたのは、静岡県清水市に位置する、日立ジョンソンコントロールズ空調の清水事業所。1943年に日立製作所 亀有工場清水分工場として創業したこの事業所は、1962年から空調機などの専門工場として独立。その後、業務用の大型空調機を多く世に出してきた。日本の空調の歴史を作ってきた場所なのだ。2023年に設立80年を迎えた、清水事業所の凄みについてお届けしよう。
世界や業界の“標準”は、清水の地から生まれた
清水事業所があるのは、清水次郎長(山本長五郎)で有名な、静岡市清水区。広大な敷地のなかで14もの工場を操業している同事業所は、空調機・冷凍機・圧縮機など、大型空調に必要なあらゆる機器を製造している。
事業所が大きく成長したのは1970年代だ。日本万国博覧会(1970年)や札幌オリンピック(1972年)といった大型イベントが開催されたこの時代には、空調機器の需要が爆発的に伸びた。生産力を拡大すると同時に技術力を積み上げた清水事業所は、1980年代に入って革新的な技術を世に出すようになる。
1983年には、世界で初めて業務用エアコン向けのスクロール圧縮機の実用化と量産に成功。今年の2月25日にはそれから40周年を迎えた。効率性や静音性に優れたスクロール圧縮機は、現在でも業務用エアコンのほか、車両内の空調機器、ショーケースなどの冷蔵冷凍機などに幅広く用いられている。
また同年、いまも広く使われている、業界初のカセット型4方向パッケージエアコン(※1)の開発も成し遂げた。現在見られる空調機の多くが、清水事業所から生まれてきたのだ。
清水事業所は、世界・業界をリードする技術の開発にいまも勤しんでおり、近年では省エネに対する評価の高さが目立つ。たとえば2005年には、店舗用パッケージエアコンが省エネ大賞「経済産業大臣賞」を受賞。
2016年には、ビル用マルチエアコン(※2)が地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞した。直近では、マルチエアコン用の室外ユニット・フレックスマルチ-miniモジュール[冷暖切換型]が2021年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門で「経済産業大臣賞」の栄誉に輝いている。
※1 パッケージエアコン:室外機と室内機が一体化したエアコンのこと
※2 マルチエアコン:1台の室外機で、複数の室内機を稼働させられるエアコンのこと
清水事業所の技術力を支えているもの
清水事業所がこれだけの実績を獲得し続けられるのは、技術者の育成に力を入れているからだ。その象徴ともいえるものが、23歳以下の技能者が競技形式でその能力を競う、技能五輪への注力である。同事業所内には技能五輪出場選手専用の訓練施設があり、高卒入社の社員のなかから選抜された技能者たちが、日々訓練に励んでいる。
彼らの受賞歴は華々しい。2020年、2021年には、冷凍空調技術職種の競技で、清水事業所から出場した2人が金賞銀賞のダブル受賞を連覇。冷凍空調職種の競技は実技に加えて学科もあるため、技術と知識の両方が求められる。そのうえ採点基準が公開されないため、訓練の難易度も高いというが、同事業所の選手たちは実績を残している。
成長期の空調産業リードする清水事業所
日立ジョンソンコントロールズ空調で日本・アジア地域統括を務める泉田金太郎さんは「空調は成長産業」と語る。泉田さんによれば、オフィスビルが消費するエネルギーの約4割は空調によるものだという。現在は省エネ性へのニーズが特に高まっていることから、それに貢献できる最新の空調機の市場は、伸長の余地が大きいというわけだ。
実際その傾向は数字にも表れており、近年90万台で推移していた国内の空調機器の需要は、2022年には前年比8%の成長を記録した。コロナ禍が落ち着いてきたことで、新たな投資の動きが増したことも成長の要因だ。
さらに、室内空気環境の向上やIoTを活用したスマートビルディングにも関心が高まっており、付加価値で勝負できる土壌が整っている。同社はそんな状況を鑑み、中国で生産していた製品を国産にシフトするなど、品質向上のための体制を整えつつある。
清水事業所は、いま成長期にある空調産業をリードする存在として、これからも技術開発への取り組みを続けていく。清水事業所開業80周年を記念して開かれた式典では、事業所長の阿部宏樹さんから、これまでの伝統を守り継承していくという強い決意が示された。ここから次の世界初が生まれるのが、いまから楽しみだ。