家電
2023/3/11 6:30

日本の空調の歴史が詰まった場所。日立「清水事業所」取材記

戦後、高度経済成長を遂げた日本。そのなかで登場した三種の神器は、学校の教科書にも載るような存在だ。初代の三種の神器は1950年代後半の白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫。1960年代半ばになると車、カラーテレビ、クーラーの3Cが、新三種の神器と呼ばれるようになった。この記事のメインは、そのうちのひとつであるクーラー(エアコン)だ。

 

今回筆者が取材に行ってきたのは、静岡県清水市に位置する、日立ジョンソンコントロールズ空調の清水事業所。1943年に日立製作所 亀有工場清水分工場として創業したこの事業所は、1962年から空調機などの専門工場として独立。その後、業務用の大型空調機を多く世に出してきた。日本の空調の歴史を作ってきた場所なのだ。2023年に設立80年を迎えた、清水事業所の凄みについてお届けしよう。

 

世界や業界の“標準”は、清水の地から生まれた

清水事業所があるのは、清水次郎長(山本長五郎)で有名な、静岡市清水区。広大な敷地のなかで14もの工場を操業している同事業所は、空調機・冷凍機・圧縮機など、大型空調に必要なあらゆる機器を製造している。

 

事業所が大きく成長したのは1970年代だ。日本万国博覧会(1970年)や札幌オリンピック(1972年)といった大型イベントが開催されたこの時代には、空調機器の需要が爆発的に伸びた。生産力を拡大すると同時に技術力を積み上げた清水事業所は、1980年代に入って革新的な技術を世に出すようになる。

 

1983年には、世界で初めて業務用エアコン向けのスクロール圧縮機の実用化と量産に成功。今年の2月25日にはそれから40周年を迎えた。効率性や静音性に優れたスクロール圧縮機は、現在でも業務用エアコンのほか、車両内の空調機器、ショーケースなどの冷蔵冷凍機などに幅広く用いられている。

↑スクロール圧縮機の断面図

 

また同年、いまも広く使われている、業界初のカセット型4方向パッケージエアコン(※1)の開発も成し遂げた。現在見られる空調機の多くが、清水事業所から生まれてきたのだ。

↑カセット型4方向パッケージエアコン。写真の機種には、2020年にグッドデザイン賞など数々の賞を受賞したデザインパネル「Silent -lconic」を装着している

 

清水事業所は、世界・業界をリードする技術の開発にいまも勤しんでおり、近年では省エネに対する評価の高さが目立つ。たとえば2005年には、店舗用パッケージエアコンが省エネ大賞「経済産業大臣賞」を受賞。

 

2016年には、ビル用マルチエアコン(※2)が地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞した。直近では、マルチエアコン用の室外ユニット・フレックスマルチ-miniモジュール[冷暖切換型]が2021年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門で「経済産業大臣賞」の栄誉に輝いている。

↑フレックスマルチ-miniモジュール[冷暖切換型]と、経済産業大臣賞受賞のトロフィー

※1 パッケージエアコン:室外機と室内機が一体化したエアコンのこと

※2 マルチエアコン:1台の室外機で、複数の室内機を稼働させられるエアコンのこと

 

清水事業所の技術力を支えているもの

清水事業所がこれだけの実績を獲得し続けられるのは、技術者の育成に力を入れているからだ。その象徴ともいえるものが、23歳以下の技能者が競技形式でその能力を競う、技能五輪への注力である。同事業所内には技能五輪出場選手専用の訓練施設があり、高卒入社の社員のなかから選抜された技能者たちが、日々訓練に励んでいる。

↑技能五輪選手向けの訓練施設。ここで訓練を受ける社員は、高卒で入社後ひたすら訓練に励み、技能五輪選手を引退してから工場でその技術を活かして働くという

 

彼らの受賞歴は華々しい。2020年、2021年には、冷凍空調技術職種の競技で、清水事業所から出場した2人が金賞銀賞のダブル受賞を連覇。冷凍空調職種の競技は実技に加えて学科もあるため、技術と知識の両方が求められる。そのうえ採点基準が公開されないため、訓練の難易度も高いというが、同事業所の選手たちは実績を残している。

↑冷凍空調職種の実技競技では、配管を接続し、冷凍サイクルのユニットを組み立てる。訓練施設内には、技能五輪での受賞作品が飾られていた

 

成長期の空調産業リードする清水事業所

日立ジョンソンコントロールズ空調で日本・アジア地域統括を務める泉田金太郎さんは「空調は成長産業」と語る。泉田さんによれば、オフィスビルが消費するエネルギーの約4割は空調によるものだという。現在は省エネ性へのニーズが特に高まっていることから、それに貢献できる最新の空調機の市場は、伸長の余地が大きいというわけだ。

 

実際その傾向は数字にも表れており、近年90万台で推移していた国内の空調機器の需要は、2022年には前年比8%の成長を記録した。コロナ禍が落ち着いてきたことで、新たな投資の動きが増したことも成長の要因だ。

 

さらに、室内空気環境の向上やIoTを活用したスマートビルディングにも関心が高まっており、付加価値で勝負できる土壌が整っている。同社はそんな状況を鑑み、中国で生産していた製品を国産にシフトするなど、品質向上のための体制を整えつつある。

 

清水事業所は、いま成長期にある空調産業をリードする存在として、これからも技術開発への取り組みを続けていく。清水事業所開業80周年を記念して開かれた式典では、事業所長の阿部宏樹さんから、これまでの伝統を守り継承していくという強い決意が示された。ここから次の世界初が生まれるのが、いまから楽しみだ。

↑式典では、静岡市の田邊市長も登壇。地域への貢献を讃えるとともに、「CO2を一切出さないような製品を作ってほしい」と、未来への期待を述べた