家電
2024/10/21 20:00

結局「ナノイー」とは何なのか? デバイス1億台を突破した今、パナソニック彦根工場で聞いてきた

パナソニック くらしアプライアンス社は、自社で開発・製造するナノイーデバイスの国内外における出荷台数が2024年6月に1億台を突破したと発表。これに伴い、パナソニックはメディア向けのナノイーデバイスの彦根工場見学会を開催しました。

 

生産ラインを増強し、2030年の2億台達成を目指す

ナノイーデバイスは、生産方式を源泉工程(プレス・成形工程)一体の自動化ラインに変更することで2020年には年間1000万台の生産が可能に。これについて、パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 事業部長の南波嘉行氏は「2030年には2億台を達成する予定です」と語りました。

↑ナノイーデバイスを搭載する家電製品の一部

 

「年間1000万台だと本来なら10年かかるのですが、搭載商品や搭載領域、販売する国や地域を広げることに加え、生産ラインを増強することで、2030年の2億台達成を目標にしています」(南波氏)

↑パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 事業部長の南波嘉行氏

 

↑約21年かけて1億台を達成しましたが、2030年には2億台突破を目指すとのことです

 

車載向け事業を拡大し、グローバル展開をさらに強化

ナノイーデバイスは現在、空気清浄機をはじめとする「空質系」とヘアドライヤーをはじめとする「美容系」で44種類の商品群を展開しており、社外には51社に提供しているとのこと。グローバル展開も進めており、欧州、中国、ASEAN諸国を含む世界107の国と地域に商品を提供しています。

↑ナノイーデバイスは幅広い製品に搭載

 

「現在は白物家電の領域が約半分で、車載向けは15%程度ですが、車載向け事業の拡大に注力して半分近くまでに広げたいという考えです。海外は重点エリアとしては中国やASEAN諸国で日本に近いような形に広げていきたい。欧州ではイタリアとスペインを重点的にやっていますが、さらに多くの国に入れていきたいと考えています。現在は国内と海外の比率が55対45ですが、家電や世界中の自動車市場の規模を見ると、まだまだ海外のチャンスがあると捉えています」(南波氏)

↑グローバル展開も拡大中

 

「ナノイー」は微粒子水でOHラジカルを包み、長寿命化したもの

パナソニック くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部コアテクノロジー開発センター所長の佐々木正人氏は、ナノイーについて次のように説明しました。

↑佐々木正人氏

 

「ナノイーは、パナソニックの独自技術によって生み出された5~20ナノメートルの非常に小さい微粒子。成分として含むOHラジカルが有害物質と反応することで、脱臭や除菌、ウイルスの抑制といった効果を発揮します」(佐々木氏)

 

菌を例にとると、ナノイーはOHラジカルが菌と接触した際、菌の中の水素を水に変えることで菌を不活化させ、活動を抑制するメカニズムになっています。

↑ナノイーが有害物質を抑制するメカニズム

 

しかしOHラジカル単体では、空気中の酸素イオンなどに反応しやすくて寿命が短く、拡散しにくいという課題があったとのことです。

 

「そこで、OHラジカルを水に包むことで長寿命化を実現し、OHラジカルを部屋の隅々まで拡散させることで有害物質を抑制することに成功しました。弱酸性という特性も有しており、髪の毛や肌にも優しいのが特徴です」(佐々木氏)

↑ナノイー粒子の詳細。サイズは髪の毛の10万分の1と小さいため、繊維の奥まで浸透します

 

ナノイーデバイスは、ナノイー発生に必要な水分を空気中から結露現象を利用して収集するため、薬剤や液体などの補充が不要。高電圧をかける際、電極が水に覆われていることから放電時に電極が摩耗しないため、電極を交換せずにナノイーを発生し続けられるのがメリットだといいます。

↑水の供給が不要かつ水が電極を守ることで、デバイスの交換が不要

 

空質系は「OHラジカルの量」、美容系は「水分量」が重要

なお、ナノイーデバイスは空気清浄機などの空質に特化したものと、ヘアドライヤーなどの美容に特化したものの2ラインがあります。

 

空質向けは、有害物質を抑制する「OHラジカルの量」が重要な要素。OHラジカルを増加させるためには放電領域(霧化電極)の先端の発光領域を拡大させる必要があります。

 

「これまでコロナ放電からマルチリーダ放電と、放電のパターンを進化させてきました。放電状態と発生成分の関係の追求や電圧印加制御の進化、発光部の工夫などの研究開発の末、これまで『線』であった発光領域を円錐上の『面』に広げることに成功し、2021年には『ラウンドリーダ放電技術』を確立しました。これによってOHラジカルの量をこの10年間で100倍に増加させ、1秒間に48兆個のOHラジカルを発生するナノイーの量産にこぎつけました」(佐々木氏)

↑空質向けナノイーデバイスの進化の過程。2021年、OHラジカルの量は2011年の100倍に増えました

 

一方、美容向けの場合、髪に潤いを与えるためにはナノイーに含まれる「水分量」を増やす必要があります。

 

「2019年には、マルチリーダ放電技術によって水分量を従来の18倍に増加させました。この秋に発売される(※現在は発売済)新しいドライヤー『nanocare ULTIMATE (ナノケア アルティメイト)』では、霧化電極形状と電圧印加制御技術をさらに進化させて水分量を180倍に増加させたナノイーデバイスを搭載しています」(佐々木氏)

↑美容向けナノイーデバイスの進化の過程

 

↑空質向け、美容向けともに水供給レス化・小型化を実現してきました

 

↑空質向けはOHラジカル増加、美容向けは水分量の増加を実現

 

ナノイーの進化に伴ってニオイや菌、ウイルスなどに対する効果が拡大したことから、世界11か国45機関の第三者機関との共同研究によって192件のエビデンス(効果実証)を取得しているとのことです。

 

「研究分野での開発加速を目指すため、2024年3月に日本最大級の検証空間を新たに導入しました。本設備の導入で、国内では非常に検証が難しかったバイオハザードレベルの高いウイルスや微生物に対する大空間での試験が可能になりました。今後も検証を積み重ね、ナノイーの性能向上と新たな価値創造を進めていきたいと思います」(佐々木氏)

 

完全自動化した製造ラインやユニークなデモを見学

プレゼンテーション後には、工場見学会に参加しました。ナノイーデバイスの製造工程は、空質向けが2011年から材料投入から完成品の取り出しまで、完全自動化した「源泉一体自動化ライン」となっています。

↑空質向けナノイーデバイスの製造工程。製造から全数の品質検査まで自動化しており、万が一不良品が発生した場合でもトレースできるように1個1個に2次元コードを貼付しているとのことです

 

↑成形されたプラスチックにはんだを載せ、さらにペルチェ素子と電極を載せ、金属部分のサビを防止するための透明コート材によるコーティングなどを行います

 

↑こちらは美容向けナノイーデバイスの製造工程。まだ完全自動化はされていないとのことです

 

そのほか、ナノイーデバイスのさまざまなデモも実施されました。10年間タバコの煙にさらされたデバイスの稼働デモ、ナノイーXによる菌の不活化のデモなどが行われました。

↑過酷な環境でも壊れないような設計開発を行っているとのことです

 

↑10年分のタバコの煙にさらされたナノイーデバイス(左)と通常のナノイーデバイス(右)

 

↑10年分のタバコの煙にさらされたナノイーデバイスでもしっかりと放電していました

 

↑こちらはイカから採取・培養した発光細菌をナノイーXで不活化させるデモを開始したところ

 

↑ナノイーXにさらされた方は、数分で発光細菌の光が鈍くなっているのがわかりました

 

このほか、ナノイーデバイスを搭載するトヨタ自動車の製品も見学。実際にどの部分に使用されているのか、確かめることができました。

↑ナノイーデバイスを搭載するトヨタ自動車の製品

 

↑シエンタシリーズはナノイーXを搭載するクリーンシーリングライトを採用しています

 

↑LEXUS NXシリーズはナノイーXを運転席のエアコン吹き出し口に搭載しています

 

↑クラウン ZシリーズはナノイーXを助手席のエアコン吹き出し口に搭載しています

 

ナノイーXによる消臭効果のデモもユニークでした。「これでもか」とTシャツに焼肉の煙を当てるところからスタートし、これを実際に消臭するまでをデモで実践。

↑工場内に仮設された部屋で焼き肉を楽しむ2人の上にはTシャツがぶら下げられています

 

↑ナノイーXを当てた部分はニオイがしっかりと取れているのが確認できました

 

空質向けと美容向けに別々の進化を遂げてきたナノイーデバイス。空質向けはOHラジカルの量が当初のナノイーから100倍に増加し、美容向けは水分量が180倍にも増加。絶え間ない研究開発によって、着実に進化を遂げています。今後も改良が進むことで、より多くの乗り物や機器に搭載され、空質向上や美容に貢献してほしいですね。