ヨシムラヒロムの一階通信 第十七階 ティアック株式会社
連載『一階通信』ではエントランス部分から見える企業の顔を取り上げる。一階にエントランスがない企業も多々あるが、それはご愛嬌。受付や入口があるフロアを総じて『1階』と呼び、エントランスから企業を紐解く。今回は音響機器メーカーの老舗・ティアック株式会社を一階通信させてもらった。
建物内は驚くほど広々――その納得の理由とは?
多摩センター駅から徒歩5分、ティアック株式会社が入居するビルがある。建物内に入って驚く、そこには大きな空間があった。受付がどこにあるか分からないほどに広く、天井も高い。エレベーターに乗って上下を繰り返す。「ドコだ?」と本気で焦り始めたころ、受付を発見。入口のすぐ近くにあったんじゃん。
今回案内してくれたのは、マーケティング部の寺井さん。対面するやいなや「なんで、こんなにエントランスが広いんですか?」と質問してみる。「ティアックが入る以前は、家がまるごと入る住宅展示場だったんです。だから、横にも縦にも大きいんですよ」とのこと。疑問がスッキリしたので本題へと進む。
エントランスでは、ティアックのオリジナル番組のインターネットライブ配信も行われており、毎週月曜日17時よりニコニコ動画とSHOWROOMにてライブ配信中とのこと。もちろん、取材もそれを狙って月曜日におじゃました。30分後に配信が始まるということなので、それまでに展示品を案内していただく。
ガジェット好きにはたまらない名品の数々を展示
エントランスの左側にはTASCAM製品、右側にはTEAC製品と過去の名品が並ぶ。見せることを意識したつくりとなっており、ガジェット好きにはたまらないだろう。まずは右側を案内していただく。
ティアック創業者・谷 勝馬氏は日本の録音再生技術のパイオニアだ。玉音放送に使用された円盤式録音機の開発者でもある。そんな谷氏とティアックが作り出してきた名品がショーウィンドウに並ぶ。なかでも「 A-4010」は、ティアックの地位を確固たるものとした名品。1965年代に20万台を売り上げたベストセラーだ。
アメリカのテレビに関連する様々な業績に与えられる賞であるエミー賞を2度受賞したデジタルマルチトラックレコーダー「DA-88」も展示されている。「これで映画の効果音が作られていたのかぁ」と感動もひとしおだ。過去の名品で作られる音は現在も愛好家が多いらしく、「中古品が高値で取引されてるんです」とのこと。本当に優れた製品の需要は、そうそう消えないものなのだ。
続いては、左側を見せていただく。こちらは、ミュージシャン、スタジオ向けのデータレコーダーブランドTASCAMの製品が並ぶ。
技術が進歩した現在では、個人でもパソコンとTASCAM製品を駆使すればプロ並みの音源製作も可能。その音楽をネットに上げれば、多くの人に聞いてもらうチャンスも生まれる。寺井さんは「弊社の商品で録音した音で有名人が生まれたらうれしい」と話す。国民全員がクリエーター、そんな時代だからこそTASCAMの意義も大きくなる。
毎週月曜日17時にはエントランスから生放送
楽しい時間は経つのが早いもので、いつの間にか17時を回っていた。生配信のスタートである。ティアックの製品を紹介する番組だと聞いていたが、その内容に驚愕。僕が想像していたのは深夜の通販番組のようなものだったが、実際はオールナイトニッポンよろしく前列に座る若手を差し置いて、後列のベテラン勢がハッスルハッスル。昭和の深夜ラジオのようなテンションで番組が進行、良い意味で裏切られた。
意外といっては申し訳ないが、生配信は毎回100人以上の視聴者を集める人気コンテンツとのこと。番組製作を支える放送機器は、もちろんTASCAMだ。
視聴室で圧倒的な音質を体感
エントランスでの取材を終えた後、試聴室へ案内していただく。こちらでは、ティアックの上位ラインESOTERICの音を楽しむことができる。
音質には、全くこだわらないタイプの僕。「音の違いがわからなかったらどうしよう・・・」と不安に思ったが、そんなのは杞憂。巨大なスピーカーからマイルス・デイビスのトランペットが流れた瞬間に「目の前で弾いてるみたい」とベタな感想をもらしてしまった。
「これだけの機材を揃えるのは大変そうだ・・・」と凹んでいると、「ヘッドフォンでも同質の音をもっと手軽に楽しめますよ」と寺井さん。そんな慰めの言葉とともにティアックを後にする。ディープな音の世界の一端を体感した夜であった。
【ティアックの一階通信見どころまとめ】
1.A-4010を筆頭とした名品
2.昭和風の生配信
3.試聴室