春のこの時期は、入社、転勤、異動、担当者交替など、何かと新しい人間関係の中で仕事を始める方が多いはず。そこで今回は、相手の印象に残るような自己紹介と電話応対のしかたを、人気マナー講師の尾形圭子さんから学びましょう。
ビジネスシーンでは第一印象がとても大切。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが調査したメラビアンの法則によると、対面によるコミュニケーションにおいては「身振り・表情」が55%、声のトーン、スピード、大きさ、口調などの「音声表現」が38%で、話の内容は7%しか相手の行動に影響を与えていないとも言われています。コミュニケーションにおいて、「身振り・表情」と「音声表現」が半分以上を占めるとなれば、明るい笑顔で、礼儀正しく会話をすることがとても大切。まずは好感度がアップするあいさつや自己紹介のしかたを学びましょう
《あいさつ》
1.会釈、敬礼、最敬礼の違い
会釈
敬礼
最敬礼
会釈、敬礼、最敬礼で上半身を傾ける角度は、それぞれ順に、15度、30度、45度が一般的に正しいといわれています。でも、会釈、敬礼、最敬礼の違いを細かく会得するよりも、正しい姿勢、気持ちで挨拶することが重要。気持ちが入らずおざなりな挨拶になってしまっては本末転倒です。気持ちの深さが会釈、敬礼、最敬礼にあらわれます。
2.同時礼と分離礼の違い
「同時礼」とは、言葉とお辞儀が同時の礼。「分離礼」は言葉が先、お辞儀が後になる礼でこちらのほうが丁寧です。どちらもアイコンタクトは必ずしましょう。ポイントとしては、「アイコンタクト」→「お辞儀」→「アイコンタクト」の順で行うこと。上半身を傾けるときに身につけてほしいテンポは、1.すっと下げて。2.下げたところで一旦止める。3~4.でゆっくりと頭を上げる。以上のようなイメージです。笑顔を忘れずに、首から腰まで一直線になるイメージで練習しましょう。大変印象の良いお辞儀になります。
3.入退室のドアの開けかた、ノックのしかた、お客様の案内のしかた、ドアの閉めかた
お客様をご案内する場合、差し障りのない会話ができると、相手も緊張が解けて好感度がアップします。その時に2、3歩前ではコミュニケーションできなくなりますので、1歩前くらいがよいでしょう。「今日は風の強い中ご足労いただきありがとうございました」など、一言付け加えられたらなお印象がよくなります。
ドアは、内開き、外開きがありますが、「お客様が通りやすいようにご案内すること」が基本です。ノックは、プロトコールマナー(国際儀礼)では、2回はトイレ、3回がプライベート、4回がビジネスとされています。日本では、4回は多いので3回が正式といわれることが多いですが、少々うるさい印象も。
回数は会社の慣習に合わせていいので、まずはゆっくりノックすることがポイントです。
4.初出社、初対面、自己紹介のポイント
自己紹介のポイントは下記の通り。声は、TPOに合わせて調整が必要です。前に出て自己紹介の場合は、元気よく、大きな声で。内容は、自己アピールは印象に残るようなひと言を添えると○。やる気と謙虚さがプラスされるとなお印象がよくなります。具体的なポイントとしては、1.名前、2.住んでいるエリア、3.趣味、4.出身地、などのテーマで事前に自己紹介を準備して、その中から二つくらいを組み合わせるように構成しておきましょう。事前に準備をしておけば、複数の人が挨拶をするような場面でも同じ話題にならずに安心です。普段は女性らしい方が趣味の話題で「剣道三段」と挨拶しているのを聞いたことがありますが、彼女の雰囲気とギャップがあって、とても印象に残ったのを覚えています。
話すスピードは、早口にならないように。目安のスピードは1分間で300文字程度読めるくらいの速さで、長さは30秒程度でまとめると聞きやすいです。そして、挨拶で一番大切なことは「笑顔」。また他の人が挨拶をしている時には、さり気なく相槌を打つなどして、その場の雰囲気をよくする気配りも重要です。
5.相手が複数名いる場合は誰からあいさつ?
相手が複数名いる部屋に入る際の注意です。まず、入室した瞬間は、「おはようございます」「本日はありがとうございます」など、全体に挨拶すること。名刺交換は上位者からするのが基本です。
次に、電話の受け答えというのも社会人として大切なこと。会社で電話に出るときには、あなたが会社の代表であるという気持ちで臨みましょう。あなたの対応がそのまま会社のイメージを左右するからです。最近ではメールでのコミュニケーションに慣れてしまっていることもあり、電話で好印象を与える話しかた、要領を得た会話のしかたは意外に難しいと感じているのではないでしょうか。顔が見えないぶん、相手への印象をさらに意識することが大切です。
《電話応対》
[電話を受ける]
1.会社の電話に出るときのポイント
会社名・部署名は名乗りますが、個人名は、会社の業種業態、考え方により差があります。最近は個人情報保護の観点や、名前を覚えられて長話につき合わされては業務に支障をきたす、ということから名前を名乗らない会社もあります。ただ、電話応対の最後に名乗るのは「責任の所在を明らかにする」という意味がありますので、こちらはしっかりと対応していただきたいと思います。
2.取り次ぎメモのコツ
基本、取引先の場合は復唱してもOKです。個人の方のお名前を復唱するのは個人情報保護の観点から控えるというルールの会社もあります。ただし業種業態によって異なります。
3.何コールで出るのが適切?
3コール以内が基本です。3コール以上で出た場合は「お待たせいたしました」、5コール以上の場合は「大変お待たせいたしました」というフレーズで応対すると覚えておきましょう。
4.「少々お待ちください」と電話を保留にしていいのはどのくらいまで?
気持ちよく待てるのは30秒までです。保留が長くなるときは折り返しにしましょう。
5.名指し人の予定がよくわからないときは?
① まず不在のお詫びと、状況を伝える
② 次に代案(折り返し電話・伝言を受ける・急ぎの場合携帯に連絡・他にわかる者と代わるなど)を提案します
③ 最後に相手の希望により対応しましょう
「申し訳ございません。はっきりとした帰社時間はわかりかねますので、戻り次第お電話させていただきますが、もしお急ぎでしたら携帯に連絡をとってみます。いかがいたしましょうか?」など、代替案をご提案しながら、自分のできることをするというのがスマートです。
6.不在の上司宛に上得意から電話があった。掛け直すといっていい?
外出であれば、急ぎ連絡を取ってみると伝えて折り返しにするのは仕方がないでしょう。重要なのは、「あなたを大切に思っている」ということが伝わる言動をとることです。例えば、携帯に連絡しても繋がらなかった場合、その状況をご連絡して次の対応をご相談する、ということができれば誠実さが伝わります。
7.自分がわからない件でクレームの電話を受けたら?
「申し訳ございませんが、分かるものに代わりますので少々お待ちくださいませ」のように状況を明確に伝えること。お待たせしないことも重要です。社内の人に尋ねてもわかる人が誰もいないときは「折り返しご連絡いたします」と伝えお名前・お電話番号・そしてご都合の良い時間帯を確認しましょう。
[電話を掛ける]
1.相手に電話を掛けるとき、相手が不在だったら?
電話をかける場合は、挨拶をして、組織名と名前を名乗り、電話に出た方に取り次ぎをお願いします。指名者が不在の場合、原則として、折り返しは依頼せずに、自分から再度かける旨を伝えるのが基本です。戻り時間を確認して「お戻りの頃にこちらからまたご連絡します」と伝えるのが一般的です。緊急の場合などは、折り返し電話をいただいたり、伝言をお願いするケースもあります。
2.「不在にしておりますので折り返しお電話いたします」といわれたら?
相手との関係によります。目上の方や取引先、お願い事なら「いいえ、こちらから改めます。ありがとうございます」と自分から掛けるようにしましょう。心遣いに「ありがとうございます」とお礼の言葉も忘れずに。
[電話を切る]
1.電話を切るときの注意点
基本は、掛けたほうが切ってから切ること。ただし、相手が目上の人の場合はその限りではありません。
2.切る瞬間まで気を抜かない
最新のビジネスフォンは小さな声も拾うほど高性能です。電話を切る直前までため息や独り言、周りとのおしゃべりには注意しましょう。
いかがでしたか? 社会人として働くようになると、まず基本中の基本である《あいさつ》と《電話応対》がとても重要になります。大切なのは「相手の立場に立つ」こと。誠実にそしてスマートに対応することで人間関係が広がり、仕事がスムーズに進むはずです。美しい立ち居振る舞いを身につけて、ちょっとした心配りを加えてみましょう。
【著者プロフィール】
尾形圭子
株式会社ヒューマンディスカバリー・インターナショナル代表取締役。航空会社、大手書店での勤務を経て、現在は、接遇・電話応対などのビジネスマナー講師、人材育成コンサルティング業務を務める。
著書は20冊以上。主な著書に「イラッとされないビジネスマナー社会常識の正解」(サンクチュアリ出版)、「クレーム電話完全対応マニュアル」(大和出版)がある。
その他、雑誌への寄稿、テレビやラジオ出演など活躍は多岐にわたる。
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