ヤマハ発動機は9月21日、世界初となる電動車いすの「片流れ制御」機能を開発し、その発表説明会を開催した。この機能は既存の電動アシスト車いす「JW スウィング」と車いす用電動アシストユニット「JWX-2」に搭載され、9月29日より販売中だ。
「片流れ」とは、進行方向に対して左右で傾斜がある場合に発生する現象のこと。歩いていると気づかないような緩やかな傾斜であっても、左右の車輪を人力で動かす車いすでは影響を受け、谷側に流れて(落ちて)いってしまう。そのような傾斜があっても影響を受けることなく、直進できるようにしたのが片流れ制御という機能なのだ。筆者が実際に体験している次の動画をご覧いただくとイメージしやすいだろう(片流れ制御機能の体験は2:00~)。
同社では電動アシスト自転車「PAS」の技術を生かし、電動モーターを車いすに応用して手動車いすを電動化する電動ユニット「JW-I」を1995年に、ハンドリム(タイヤの外側に付いている輪っかで、ユーザーが手でつかんで回す部分)を漕ぐ力をアシストする「P.A.S(パワーアシストシステム)」技術を車いすに応用した電動ユニット「JW-II」をその翌年に販売。2013年には「JW-II」をマイナーチェンジした「JWX-2」を発売している。
その後、ユーザーから「片流れしないようにしてほしい」「室内と街なかではアシストによる惰性移動距離を変えてほしい」といった要望を受け、東京大学と共同で4年の歳月をかけて開発。片流れ制御機能を完成させ、今回のJW スウィングとJWX-2への搭載に至った。
発表説明会で、SPV事業部JWビジネス部の米光正典氏は「JWとは“Joy Wheel”、つまり車輪を楽しむということ。電動車いすに関わるすべての人たち、そのユーザーや家族、介護者や医師、販売店や開発メンバーも全員幸せになってほしい、というのがそのビジョンです」と語った。
手動車いすには軽く、小回りが効き機動力があるというメリットがある反面、坂道を登れない、人力に頼るため遠出できないという課題が、電動車いす・電動カートには坂道などパワーを必要とする場面には強いが、小回りが効かないため人混みでは操作が難しいという課題があった。
その点に関して米光氏は、「電動の走行性、手動の軽さと機動性を併せ持ったのがこのJWシリーズ。これまで手動車いすを使っていたユーザーが、より生き生きと自分らしい日々を送れるよう、手動だけではない、電動という選択肢をご提案しています」と説明した。
続いて登壇したJW技術グループの野村真志氏は、今回搭載した片流れ制御以外の2の機能についても触れた。
1つは「アシスト距離制御」。画一的なアシスト力では、隣のドアに行きたいだけなのに通り過ぎてしまう、逆に街なかで長距離を移動したいのに一度のハンドリム操作で少しの距離しか動かせない、といった問題が生じる。そこで、ひと漕ぎに対して走行する距離を0.1〜2.0倍の9段階で制御できるようにしたのがこのアシスト距離制御機能だ。
もう1つは「アシスト反応制御の改良」で、ハンドリムセンサーの感度を30%アップ。これにより、力の弱いユーザーが操作してもアシスト力を得られるようになったという。
これら片流れ制御、アシスト距離制御、アシスト反応制御の機能はモーターに搭載したヤマハオリジナル車いす制御システム「JW Smart Core」によるもので、細かなチューニングは専用PCソフト「JW Smart Tune」で行う。なお、同ソフトでの設定は専門知識が必要なため、講習と認定を受けた有資格者がいるJWシリーズ取扱店でのみ行えるとのこと。
価格はいずれもバージョンアップ前からの据え置きで、JWX-2が35万3160円(税込)から、JW スウィングが36万3000円(非課税)からとなっている。「ヒヤリ!」が減るこの片流れ制御があれば、もっと積極的に街なかへ出かけたくなるはずだ。