スーパーマーケットなどで急速に浸透しているセミセルフレジ。レジ担当者が、バーコードを読み込み、決済はお客が自ら行うという画期的なものですが、この浸透の裏側では、クリアしなければならない問題や葛藤があったようです。
ここではスーパーマーケット向けのレジ市場の5割を超えるメーカー・東芝テックの担当者に、セミセルフレジ浸透の経緯と、「近未来のレジ」がどうなっていくかなどを聞きました。
実は10年以上前に市場に出回っていたセルフレジ
――まず、セルフレジ、セミセルフレジの成り立ちから教えてください。
東芝テック担当者(以下、担当者) 弊社ではまず2006年に完全なセルフレジを、2013年にセミセルフレジを開発・販売しました。
ただし、2006年にセルフレジを出した際は、日本の市場自体にセルフ決済の仕組み、理解がなされていない状態で、お客さまから「なんで私がやらなくちゃいけないんだ」「なんでこんなレジを作ったんだ」と叱られたり、場合によっては機械を壊されたりするケースもあったようです。
しかし、セルフレジの存在がだんだん認知されるようになっていくにつれ、この利便性を理解していただくようになってきました。子どもが触りたいというお客さまもいらっしゃるなど、遠方からわざわざセルフレジをご利用していただくために来店されるといったケースも出始め、徐々に浸透し市場が膨らんでいきました。
ただし、このセルフレジは、それまでのキャッシャーレーンをまったく新しいものにしなければいけなかったため、設備投資などの面で、著しい浸透には至りませんでした。
こういった経緯があり、従来のキャッシャーレーンを活かしながら、導入もしやすいセミセルフレジを2013年に出し、ここから一気に市場が広がっていきました。
――セルフレジを開発したものの、セミセルフレジのほうが強いニーズがあったということですね。
担当者 そうです。もちろん、スーパーマーケットにとっては設備投資だけでなく、まったくのセルフレジとなると防犯上の不安などもあったと思いますが、このこともあってセミセルフレジが浸透に至った流れです。
セミセルフレジ周辺の問題も細部にわたって改善中
――セミセルフレジも最初は戸惑いましたが、慣れると実に効率的でスピーディに決済できますね。
担当者 おおよそキャッシャー1レーンにつき、セミセルフレジが1~3台あることが多いですから、お客さまの待ち時間短縮に役立っていると自負しています。
――ただ、レジ担当者がバーコードで読み込んだ後、自分が買った重いカゴをセミセルフレジまで持たせてしまうところが、なんだか申し訳ないです。
担当者 ここはスーパーマーケットさんごとにシステムが違うようで、お客さまご自身がカゴを持ってきて入れる仕組みだったり、カートにハメたカゴの中にレジ係の方が入れる仕組みだったり、様々です。
しかし、ここも改善を目指しており、例えばバーコードを読む際、カゴを置くテーブルの部分にローラーを施してスライドさせるだけで、レジ側まで移動させるなどの試みもしています。
現状では、このスライド式に入れ替えているスーパーマーケットさんは限られていますが、やがて浸透していくのではないかと予測していますし、より使いやすいレジ周り環境の改善も弊社の課題だと思っています。
やがてくるセルフレジ時代の未来予想図
――現状では、セミセルフレジが市場を拡大させていますが、やがて完全なセルフレジも浸透していくと予想されます。このセルフレジ、特に防犯面ではどういった仕組みが施されているのですか。
担当者 フルセルフレジはたとえば6台の機械があるところに、1人のスタッフが全体を見るような仕組みですが、それでも最善を尽くすために防犯カメラを付属させて、どういった操作をしたかがお客さま、お店側双方が必ずわかるようになっています。
また、商品ごとに重量をマスターに登録しており、バーコードを読み取った商品のマスターの登録値と袋入れ台に置いた商品の計量値に誤差がないかどうかで、初めて決済が完了できるシステムを作ったりと様々な面で対策を練っています。
さらに最近だと、お客さまのスマートフォンにお店のクーポンなどが届くことがありますが、従来のレジだと、レジ係の人が、場合によってはお客さまのスマートフォンを手にして読み込む……といったことも考えられます。しかし、これは個人情報保護の観点から見ても良くないことですし、すでにスマートフォンがお財布代わりをし始めています。
こういった点でもセルフレジ化することによって、お客さまの情報はもちろんお金は安全に守られ、お店側にとっても人件費の大幅削減を実現できるので、これは画期的なシステムだと考えています。
完全な無人化はまだまだ時間がかかる?
――また、最近話題の無人コンビニなどのシステム。東芝テックでは、無人コンビニのシステムへの対応もお考えですか。
担当者 もちろんです。いま弊社の工場でもテスト環境を設けてやっていますし、常に意識はしています。ただ、量販店での完全無人化の浸透は、まだまだしばらく時間がかかるのではないかとも思っています。
たとえば、Amazon Goのように、店内に入ったお客さまを認識し、その人を映像で追いかけて、何を取ったかをお店側が全部把握し、最後に請求を行うといったことも技術的には可能です。ただし、1店舗に数百台ものカメラを設置するとなると、まずお店側の設備投資の面で難しい。
また、電波を使ってタグのデータを非接触で読み取り、お客さまが手にとった商品を読み取るというRFIDというシステムもありますが、これも国家的なインフラを整えてから初めて市場で支持を得ていくものですから、先が読めません。
その点ではセミセルフレジから、まずは徐々に完全なセルフレジへ移行していくだろうという流れのほうが現実的ですね。ですから、遠い将来のことももちろん考えながら、いまはやがて訪れるであろうフルセルフレジ時代を想定して、できる限りバーコードを廃し、物体を認識させるCCDカメラの進化のほうに注力しています。
――バーコードをなくして物体を認識させるというのは、これもまた相当なハイテクノロジーですね。
担当者 完全なセルフレジを通る際、たとえばリンゴを持っていたとしたら、スキャナーにリンゴをかざすと、「リンゴ」と認識するというようなものです。これはすでに弊社で技術が確立していますので、こういったものも次世代のセルフレジには搭載されていくと思います。
ユーザー最優先の開発は未来へ
――もともと東芝テックのスーパーマーケット向けのレジは市場で約5割超えを実現しているそうですが、ここまで支持されている理由は何だと思われますか?
担当者 弊社の商品の直接の販売先は店舗になりますが、そこで収まることなく、何ごとにおいてもエンドユーザーであるお客さまのことを最優先に考えてきたからだと思います。
たとえばスーパーマーケットでしたら、本当に様々なお客さまがいらっしゃいますが、どなたでも「使いやすい」といったご感想をいただけるよう配慮してきたからだと自負しています。
もちろん、こういったお客さまの目線に徹底してこだわることは、やがて来るセルフレジ時代ではより顕著に差が出るはずだと思いますので、これまで以上に力を注いでいきたいと考えています。
セミセルフレジの著しい浸透ぶりが気になって、東芝テックでの取材をさせていただいたわけですが、その進化は想像以上のものでした。レジ自体のレス化はまだまだ先になりそうですが、セミセルフレジからセルフレジへの市場拡大は、そう遠くない未来に始まるかもしれません。